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卒業設計 「object zeroing」

大学院生になり、何かと自分の卒業設計を説明する機会が増えたのでnoteで記事にしちゃおう!
ということで軽く見てください笑




1. 背景

まず、卒業設計の背景としてグレアム・ハーマンのオブジェクト指向存在論(以下OOO)をベースに哲学的な背景と建築の文脈的背景があります。
哲学的な背景としてはOOOでも述べられているようなイマヌエル・カントから始まるドイツ観念論があり、建築としては「フィールドの理論」があります。

ドイツ観念論の詳細な説明は割愛しますが、「thing-in-itself」の疑いから、物自体の言及が挙げられます。
「フィールドの理論」としては、ペーパーレス・スタジオから始まるデジタル建築と建築・都市のネットワークを物質化したようなもので、代表としてはパトリック・シューマッハの「パラメトリシズム」が挙げれれるかと思います。「フィールドの理論」の批評として、建築を都市の連続的で流動的な関係性としてコンテクストへと溶解し、建築の自律性を蔑ろにし、理想主義的な自然を取り入れパラメーターを用いた偶有的建築に陥ってしまっているという点が挙げられます。

パラメトリシズムと都市


また、「フィールドの理論」としてコンテクストへの還元を挙げましたが、コンセプトへの還元も昨今問題なのではないだろうか。
その言説の元としてマーク・フォスター・ゲージが述べている例があります。サンティアゴ・カラトラバの「World Trade Center Transportation Hub」」が挙げられ、建築家自身は「鳥のような建築」と言い、それをそのまま建築の形態にしてしまうという、言葉そのままに鑑賞者も受け取ってしまうリテラルに還元されてしまう問題点です。

そこで、私は建築の自律性の復権をめざし、卒業設計に取り掛かりました。




2. ハーマンのオブジェクト指向存在論

ハーマンのOOOでは先ほどから話題に挙がっている「還元」というところをメインに取り上げます。

OOOにおけるオブジェクトの還元


OOOでは、上方解体(関係性のネットワーク)と下方解体(構成要素)というオブジェクトの還元的な性質があるとし、オブジェクトの自律性がどのように還元されるかについて言及されています。 大まかに言うと、オブジェクトは常に余剰を持っており、汲みつくすことのできない深みを持ち、関係性から退隠している。そして、「なにからできているか」や「なにをもたらすか」といったことは、どれもオブジェクトの一側面にすぎない要は、「フィールドの理論」や簡単にリテラルに表現してしまうことはオブジェクトを還元してしまっているのです。




3. 「object zeroing」

ここまで、背景やハーマンのOOOを紹介しましたが、ではどのように建築の自律性をめざすのかというのが、今回の私の卒業設計でキーワードとなる「object zeroing」です。


「object zeroing」


「object zeroing」はこれまたハーマンがベースなのですが、ハーマンの著書『Architecture and Object』において「Zeroing」と言うものが取り上げられます。「Zeroing」の説明としては『「建築の美的側面では、視覚芸術にはない、形態と機能の両方を非文字化するというユニークな能力があり、このような非文字化の名称を「Zeroing(ゼロ化)」とする。何かを「ゼロ」にすることは、その関係からの引き算することを意味する。』といったものです。要はformとfunctionを非文字化するというものなのですが、ハーマンはその手法はあくまで建築家に委ねています。そこで私は「object zeroing」として実践のための再解釈を行いました。通常、機能が決まってから形態に着手すると思いますが、機能からオブジェクトを考えるのではなく、オブジェクトを提案し、後に機能を入れることにより、オブジェクトそのものの質を留めた状態で機能があるということになります。ゼロ化されたオブジェクトは形態を想起させず、さらに、代入された機能を超える付加価値の可能性があるのではないかと想定しました。




4. 「local pattern object」

ここからは手法になります。OOOでは、コンテクストを批判していましたが、そのまま用いるのではなく、その地域に根付いたオブジェクトがあるのではないかと考え、フィールド的に還元しないコンテクストの代入方法を模索しました。


「local pattern object」としての鑿(のみ)


そもそも私が何を卒業設計にしたかですが、地元である兵庫県の三木市を舞台に設計を行いました。三木市は「金物のまち」としてして知られ、特産物として刃物などの大工道具が挙げられます。そこで、金物資料館があるのですが、新金物資料館として新たに建築しようと言うのが本設計です。ただ、資料館として建築するのは従来ですが、ここで「object zeroing」の概念を適応するため、「local pattern object」として、大工道具の一つである「鑿(のみ)」を選び、鑿からオブジェクトを創出することにしました。




5. 生成過程

コンセプト的にもあまり生成過程には触れたくないのですが、ここでは、触れちゃいます。

生成過程


手法としては、4つのタイプの鑿を用意し、それをコピーや反転などの操作を行い、ブール演算を行いました。生成したオブジェクトをseed値などをもちいて、ランダムに配置し、さらにオブジェクトの解像度を上げていく操作を行いました。なぜ解像度を上げていくかというと鑑賞者に部分と全体の見え方の違いとして能動性を生ませるためです。
創出の手がかりとしては「どこか鑿っぽさを留めつつも、鑑賞者には鑿と感じさせない、むしろ一人一人が違う認識をするオブジェクト」を目指しました。


創出したオブジェクト




6. 機能の代入

創出したものは単にオブジェクトなので、ここから「object zeroing」における機能を代入する操作として、建築の資料館の機能を代入していきます。


機能の代入


サーキュレーション、その他の検討


建築的機能の代入として、創出したオブジェクトを再び解体し、必要な機能を代入しました。サーキュレーションの配慮なども同時に行います。




7. 新金物資料館

完成した資料館では、資料館から始めると現れないであろう突出やそれに伴った新たな機能、空間が創出されました。今となっての反省点としては、内部空間の創出をもっと工夫したかったという点です。


外観パース
エントランス
市民ギャラリー
金物資料室




8. その他の機能代入

「object zeroing」の特性として、卒業設計では建築を代入しましたがその他の機能も代入できるので、建築以外の代入例も作成しました。


その他機能代入




9. まとめ

卒業設計のまとめとして、大まかにどのようなことをしたかというと

・哲学的な背景を実践するために自分の解釈を取り入れる
・OOO建築の疑念点を背景を崩さない方法で挑戦
・自分の理論をどう形態にするかを模索

といったところでしょうか。何かと、この時の考えが改めて活かされたり、逆にこうしてみたらどうだったんだろうと考えたりと、影響されています。
文脈が重要というよりも、技術が急速に発展する今、理論ベースで何するかが重要な時代だと個人的に思っていますので、これからも精進していきます。




10. 参考

Graham Harman『Architecture and Objects』
https://www.amazon.com/Architecture-Objects-Graham-Harman/dp/1517908523

Mark Foster Gage『Architecture in High Resolution』
https://www.amazon.co.jp/Mark-Foster-Gage-Architecture-Resolution/dp/1954081499

Mark Foster Gage『Projects and Provocations』
https://amzn.asia/d/aiU9oB8

Tom Wiscombe『Objects Models Worlds Abridged』
https://amzn.asia/d/gU7IioJ

Tom Wiscombe『Conversations about Architecture and Objects』https://amzn.asia/d/29lnxNR

グレアム・ハーマン『四方対象: オブジェクト指向存在論入門』
https://amzn.asia/d/iSMx0ir


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