勇気を出して断る/夫の手が麻痺していた時のiPhoneの役に立った機能について

先日、勇気を出して、銀行に面談と投資信託の断りの電話を入れた。

銀行の人には、色々と教えていただいて申し訳ないが、私はまだ知識不足だし、ひとりで暮らしてから大して時間も経ってないから今後の見通しも分からないので、今はやるつもりはないので、話をストップしてくださいとお願いした。

「どこがダメだったんですか?」

と聞かれて、ダメなところすら判断できる知識がない事、しかも判断するための知識を1週間で身に付けることなどできないし、夫が残してくれた大切なお金なので大切にしたいし、何かすればリスクが伴うし、その分リターンがあって増やせるかもしれないけど、何もしなければ何も変わらないままなら、そちらの方が今は気が楽なんです…と答えた。

そうしたら、銀行の人はこう言った。

「何もしないで置いておくと、これからインフレであなたの預金の価値は実質的に目減りしていきます。また興味を持って勉強したくなったら聞きに来てください。」

電話を切ったら、なんだかしんどい気持ちになってしまった。

彼女の言うことも正しいと思うが、もし何かあったとしても、責任を取ってもらえる訳ではない。

私は何もしないで預金してるだけで、実質的に価値を目減りさせていて、夫に申し訳ない事をしているのだろうか。
まるで「あなたはお金を無駄にしてますよ。」というような感じに思わせてくる。怖い。

実際にそうなのかもしれないけど、投資に対して、今、特に慎重にならないとと思う。
痛い思いをするのは、実際に契約した人だ。

大学生が投資詐欺に騙されて命を絶ったりする事件も起きている。

今の私にはNISAが限界。

それとも、先の見えない世の中で、知らない誰かに運用してもらってた方が安心なのだろうか。

もやもやする。

こういうことも、自分ひとりで勉強して選択していかねばならないな。

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部屋で横になっていると、身体が動かなくて寝返りをうてなくなった時の夫の事を思い出して、どんなに辛かっただろうと、今は向こうの世界で自由に暮らせているのだろうかと思う。

じっとしていると、背中の下のTシャツとシーツの温度が上がって来て、お尻のあたりが痛くなってくる。

でも、彼はそんな時、寝返りが打てなかった。身体を支える筋力がなかったから。
人に頼まなければ無理だった。

まだ、話せていた時は1日に何度も、足を持ち上げてほしいとか、体勢を変えてほしいとか、その度に力を振り絞って動かしたりした。
(日中は、ヘルパーさんがいたらお願いしていた。)

夜は寝なければ私も体力が持たなかったから、寝返りを頻繁にさせてあげられなかった。

それが、今となると無理だとは思っても、申し訳なかったと思う。

夫は私やヘルパーさんに遠慮していたんじゃないだろうか。

あの頃の私は、ヘトヘトだったし。
乳がんでリンパ節を取った方の腕も腫れていたし。

気を遣ってくれる夫に甘えていたんじゃないだろうか。

夜中に2、3時間おきに起きて、自己導尿をサポートしたり、おむつ替えをした事もあったが、
(しばらくして、感染症になったり、麻痺が強くなった為、尿道カテーテルに移行したのだが…)夫も私もヘトヘトだった。

夜中、うなされて「身体が動かなくて怖い。」といって起きてしまう夫に追加のお薬を飲ませたり、マッサージしたり、そばにいて、「大丈夫。大丈夫。」と話しかけたり、心が休まりそうな音楽を一緒に聴いたりした事もあった。

お話ができた時は眠れるまで話をした。

身体が動かなくなっていく恐怖と戦っている夫は、本当に可哀想だった。
自分が受け入れるとか受け入れないとか関係なく、心が準備する間も無く、身体は急に動かなくなっていった。

エアーマットレスという、寝返りをうてない人でも、身体に褥瘡ができないように、常に体圧を分散させるように自動的に動くマットレスを使っていたけど、それでも、やっぱり背中に熱を持っていたりすると、動きたくなると思う。

もっと頻繁に寝返りさせてあげたかった。

もっともっと頻繁におむつを変えてあげたら、感染症にならなかったのだろうか。

シーツの上に寝ていると、その時の事を思い出す。

朝方、「助けてー、助けてー。」と恐怖と痛みと息苦しさで叫び声をあげていたあの頃の夫の事をいつも思い出してしまう。

それに対して、夜間、早朝、訪問医療へ連絡して対応してもらったり、うちわを仰いだり、体勢を変えたり、お薬を服用させたり、色々な事を試したりしたけど、私はもっと何かできなかったのかと思う。

やる事をやるしかなかったけど、私だって彼のような状況に置かれたら、狂ってしまうと思う。どうしたらもう少し楽にできたのかな。

今は、ただ、安らかな状態で向こうの世界で自由に過ごしていてくれているかな。

少しトラウマになっているのかもしれない。

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TVで、ギランバレー症候群になって今も闘病中の医師の先生の話を聞いた。

その方は、最初に症状が出た後、4ヶ月眠ってしまって、起きたら、身体が全く動かず、話すことも目を動かすことも出来なくなっていたらしい。
考えただけで恐ろしいが、実際にあったことだ。

それだから、目覚めてからすぐは、病院の先生や看護師さんに、自分の意思を伝えることができなくて苦しかったと話していた。

(今はかなり回復されていて、言葉を話す事ができているようだった。)

目が動けば、声が出せなくとも、文字盤を使ってコミュニケーションを取ることができたりするけど、それも、慣れないと本当に難しい。

次に首を振ることができるようになってからも、首を確実に分かりやすく動かすことができないから「いいです」が「いやです」の意味に取られてしまう事もあり、これも、なかなか大変だったと話していた。

ナースコールを押すこともできないから、何かあっても、看護師さんを待つしかなくて、天井を見上げているしかない。

私の夫も、最後はそのような状態だった。
だから、すごく気持ちがわかるというか、分かるなんておこがましいけど、、大変さは想像がしやすい。

その方は、コミュニケーションが取れない事が辛いと話していた。

それで、iPhoneの「アクセシビリティ機能」を使って、ケータイを動かしたりしていたのを見て、胸が痛くなった。

夫の姿を思い出したからだ。

私の夫も最後はiPhoneのアクセシビリティ機能を使っていたのだ。

症状の進行がとても早く、最後の方は、1週間単位で進んでいって、手が上がらなくなると、もう、携帯を持つ事も指を動かす事もできなくなった。

それで、声を出す事はできていたので、すぐに病院の先生に聞くこともできなかったし、音声でiPhoneをコントロールする方法を自分で調べて、夫の携帯を設定してあげて、一緒にiPhoneの音声コントロールの練習をした。

私達が使っている普通のiPhoneには、実は、障害のある人が使いやすくなるよう配慮してくれる機能があるのだ。

視覚障害者の方が使う、音声の読み上げ機能や、肢体不自由の方が使う、声だけでiPhoneを使う機能(音声コントロール)があったりする。

すぐに100円均一の店に行き、ベッド柵にiPhoneを固定できるクリップを買ってきた。

それで、夫はほとんど一日中、iPhoneと向き合って、LINEで私に電話できるように練習したりしていた。

一緒に練習したけど、prime videoで、動画を観るのはなかなかできなかった。
観れるけど、途中で止められなかったりする。
ちょっとした事ができなくてもどかしかった。

Appleの公式のアクセシビリティ機能の紹介CMで操作しているような感じには正直ならなかった。

そのうち、LINE電話は練習の積み重ねと、Siriと組み合わせてできるようになり、最後の入院の時、もう、その頃は、口と目以外は麻痺で動かせなかったと思うけど、自分の声の力で私へ電話してくれた。

短時間だけでも、声が聞けて、顔が少しでも見れる事は、とても嬉しかった。コロナ禍の入院では一切家族に会う事はできないからだ。

最終的に、息が困難になって、音声コントロールも使えなくなるのだけど、最後の最後まで、掠れた声で、「ヘイ、Siri。」と呼び続ける夫の姿をみて切なかった。

自分から発信できるコミュニケーションがいかに病気の人にとって力になるか、大事なことかをそばで見ていて感じた。

身体を動かせない人にとって、アクセシビリティの機能がもっともっと広まって、簡単に使えるようになれば、本当に素晴らしいことだと思う。

特別な機械を手配しなくとも、iPhoneでそういった機能が充実したら、やれる事が増えて、世界も広がり、自信や安心感に繋がるのではないか。

ALSの方とか、全身が麻痺していく病気の人にとって、身体が動かなくなっていく事はとても怖いことで、ほんの身体を少し動かす事だけでも、誰かの力を借りなければならないのだが、コミュニケーションを取れない事でその自由がない事は、とても辛い事だ。

それが何とかできるようになるには、ITの機械の力が必要で、アイトラッキングで動かせる機械を導入すれば、もっと、コミュニケーションが取りやすくなるとは思うのだが、機械を導入するまでには正直、時間がかかる。

iPhoneなら、すぐに手に入る。
これを、家族や友達に設定してもらうだけで、特別な機械を入れる前段階で、自分の力でできることが増える。

身体に制限がどんどんかかっていってしまう病気の人が「自分の力で自由にできること」というのが少しでもあったらと思う。

もう少し、iPhoneの日本版のアクセシビリティ機能が使いやすくなって、反応も良くなっていたらと思うし、私はYoutubeからそういった情報を得たけれど、どんな風に使ったら楽になるとか、もう少し情報が共有できたらいいなと思う。

【iPhoneの音声コントロール設定】

私達が見て参考にした動画を貼っておきます。

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