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「見えない未来」と「目の前にある今」の取引

かつて、小学校で「二分の一成人式」がはやった頃がありました。
当時の成人年齢は20歳だったので、10歳を迎える小学 4年生を対象に行われた行事です。

成人年齢が18歳となり、「とすると二分の一成人式は 9歳?今年から3年生の行事にすると狭間の4年生が参加できない学年になってしまうじゃないか!」ということで中止になった...のかどうかはわかりませんが、現在では行われない学校の方が多いのではないかと思います。

二分の一成人式 wikipedia
元小学校教員が挙げる、2分の1成人式を即刻やめるべき5つの理由 (2017)

私自身は上の子の時に経験しました。
私の中では、式典途中までの強烈な違和感と、その違和感を虹の子の指導員 B(学校運営協議会会長として来賓)と前校長先生のスピーチが吹き飛ばしてくれた行事として印象に残っています。

違和感を感じたのはこんなことでした。

発表の型が決まっていたのか、友達のものを真似した子が多かったのか、「僕の/私の将来の夢は○○です。そのためにいまこんなことをがんばっています」という形の意思表明が多くて、無理やりこじつけた感が強くないか?と思うことがしばしばあったことです。

たとえば、

僕の将来の夢は医者です。
そのために今はスポーツをがんばって体力をつけるようにしています。

 医者が体力勝負とわかっているのは立派と思うものの、本当にそうなの?スポーツが好きでやりたいからやっているのではないの?と思ったり。

私の将来の夢は獣医です。
そのために今は動物をがんばってかわいがるようにしています。

これは私の子が言ったことですが、母は知っているわけです。
当時読んでいた「動物のお医者さん」がその動機だということを。元々、動物を見かけたらついつい寄っていってしまう動物好きであることも。

もともと動物が好きで、漫画の影響で獣医という職業を知り、なんとなく憧れているだけなのに、文章にしたら獣医になりたいから動物を "がんばって" かわいがっていることになっている。

さらに進行役の 4年生たちに意見を求められた 3年生と来賓の人たちは「〇〇で感動しました!」のオンパレード。

感動ってことばはそんな安売りしていいもんなん??
あなたはその年齢で感動というものを本当に知っているのか??

と違和感が頂点に達した来賓挨拶終盤、指導員 B がいつもの熱い語り口調で

「先のことを考えるのもいいけれど、”今” やりたいと思うことを "今" めいっぱいやってほしいと思います。一見アホなことに見えてもやりたいならやればいい、今しかやれないことっていっぱいあります!」

と語ってくれ、あーやっぱり B が大好きだー!! と思いました。

さらに引き続いてトリを飾った前校長先生のお話が本当に心に残りました。

校長先生が先生になろうと思ったのは大学を出た後です。
先生は今までに 50個くらいアルバイトをやっていて、その中のひとつに窓ふきがありました。

ある日ある小学校の窓を拭いていたら、弱いものいじめをしている子どもが見えて腹が立ったので蹴飛ばしてやったら校長先生に呼び出されて先生は怒られました。悪いのは弱いものいじめをしているあっちやないかと言ったんですが、窓拭きのくせに教育に口を出すなと言われました。

なんだこいつは!と腹が立って先生になってやろうと思いました。

そして京都へ戻って中央市場でアルバイトをしながら教員試験を受けたエピソードを語られ、いっぱいいろんな仕事を経験してよかったと思う、将来なんてそんな早くから決めなくていい、もっとゆっくり考えたらいいんだよ、先生は今しみじみ先生になってよかったと思っています、と話してくれました。

救われた気分になりました。
見えない未来のために今を犠牲にしなくてもいい、回り道しながらじっくり決めた仕事で幸せに生きているよと子どもたちにわかりやすく、明るく話してくれたことに。

二分の一成人式で将来の職業を意識させる取組みは、10歳を機に将来の進路を決めてしまうドイツの学制を思い出させます。

ドイツの子どもは4年生を終わった時点で、

(1) 大学進学を前提としたギムナジウム
(2) 専門学校の色合いが強い実業学校
(3) もとは職人の子弟向けだった基幹学校

のどこかに進むよう選択しなければいけません。
小学校卒業時の成績は一生ついて回るので、前校長先生のように大人になってから清掃員→先生への転換はまず無理です。

たいていの親は何はなくともギムナジウムに子どもを進学させようとし、だめならせめて実業学校、と考えるそうです。マイスター制度が衰退しつつあるドイツで、基幹学校に行くのはドイツ語の話せない外国人や、家庭に問題のある子どもたちだといいます。

ギムナジウムは事実上のエリート養成学校で、その他の学校は、学力をつけるための教育機関としては十分に機能しておらず、わずか10歳でふるいわけられた子供たちは 10年もたてば圧倒的な学力の差がついてしまい、その格差は日本では想像できないほどのものだとか。

「子供をあまり早くから囲い込んで、エリートと非エリートのあいだに溝を作ってしまうことのほうに、より不安を感じる。これが、将来の階級社会形成の火種になることは、おおよそ目に見えているからだ」
       (川口マーン恵美「母親に向かない人の子育て術」文春新書)


京都は中学受験が盛んな土地柄で、受験塾は小学校3年の2月、早いところでは小学校2年の2月から受験コースがスタートします。

勉強は良いことですが、小学校低学年、中学年の時期に偏らずにいろんな経験をすることはもっと大切です。人にはそれぞれ得意な学びのパターンがあるからです。

「見て学ぶ」「聞いて学ぶ」「動いて、体験して学ぶ」などバリエーションがあればトータルで足し引きされてつくはずだった学力が、塾の座学のみに長時間取られると、その学習スタイルに向いていないお子さんの場合、やりたいことも我慢して頑張ったのに思うように成果が上がらず自信を失う、という悲劇が時として起こります。(今の日本では「見て学ぶ」が得意な人が先生になりやすいので「会話の中で効率よく学ぶ技術」「動いて学ぶ効果的な方法」を伝授できる塾講師は少ないです)

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うちの子の得意なパターンはどれだろう?
わが家にとっての中学受験意義は?

と考える時、本人はもちろん、親も願望フィルターがかかって正確に判断できないことがあります。学童指導員や保護者仲間、塾や習い事の先生など周囲の人の方が、正確にその子を捉えていることもあります。(塾の先生の中には営業第一主義の人もいるので注意が必要ではあります)

子どもの周囲に、いろんな大人がいる環境を作る。
その大人と忌憚ないやり取りのできる環境を作る、といったこともまた、大切なことだと思います。

思春期には親の言うことだけは聞きたくない!という気分になる子も多いわけですが、ひとつの関係が不幸にしてうまくいかなくなっても何重にもセイフティーネットがあれば救われることがあります。子どもにとってはもちろん、親にとっても。

学童とは、そんな子育て中の家庭を守るセイフティーネットのひとつで、もっと重視されていい社会インフラなのではないか。

虹の子での生活や学習活動を通して私はそんなことを学びました。

以前みつけて心に残った動画を紹介します。

"最近世の中を見ていますとですね。大人と子供がちょっと逆転してんじゃないかなって僕はそんな風に見えるんですね。"
"でも、もしですよ、大人の我々がこういうことをきちんとわかってて、子供の 10年間をギャンブルにしないために、思った通りに動く体の使い方を教えてあげることだったりとか、自分のスポーツがどういう経済的価値、社会的価値持ってるかっていうことだったりとか、そんなことをことを2時間でも、3時間でも研究した親が居ますか?っていうことなんです。”

この動画のとっかかりは、スポーツのジュニア育成の話ですが、武井さんの話していることは、子どもを取り巻く環境全体に言えることのような気がします。

虹の子保護者会における「学習活動」。
名前は固いですが、働く親をもつ子どもにとって本当に必要なものってなんだろうか、子どもを取り巻く環境がいまどうなっているのか、を意識する時間です。子どもたちに「あなたたちの未来が良いものになるように、お母さん/お父さんも勉強してるよ!」という背中を見せる機会のひとつとして、続いてくれたら、と願っています。

ちなみに。
二分の一成人式の帰宅後、指導員 B と前校長先生のお話がよかったわーと話してみたら、子ども曰く「時間長すぎて疲れすぎて来賓の話なんてまったく聞いてなかったわー」でした。

小学生とは、そんなものなのかもしれません。(笑)


私たちの学童:
一般社団法人 共同学童保育所 虹の子クラブ
2022年に創設40周年を迎える京都市上京区の学童保育施設。
民設で学区のしばりがないため、新町学区、西陣中央学区、御所南学区、乾隆学区のほか、国立大附属、インターナショナルスクールなどさまざまな学校の小学生が集います。

保護者全員が経営者として運営に関わる「共同学童保育」というスタイル。創設時から6年生までの多年齢保育を実施、経験豊かな指導力ある指導員とともに、親も成長できる場としてみんなで協力して運営しています。

モットーは
「子育てに夢とロマンを」
「里芋は子芋と一緒に親芋も育つんだって。里芋のような親子になろう! 」

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