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抜け出したスタート

私のなかに「何か」が入ってくる。
それが物質的な何かでないことだけはわかっている。
だか、それ以外の手がかりが全くわからない。
受け入れなければならない気もするし、受け入れてしまったら私が私でなくなってしまう気がする。
なんだこのおぞましい「何か」は。
学校では習わなかったぞ。
なぜ私は自分らしく生きている人を見る度にこのような感覚に陥らなければならないのか。
正解や不正解に関わらず自分役として人生を演じている人は称えられるべきではないのか。
わかっているはずなのに、なぜ私は見えない「何か」に体を乗っ取られそうになっているのか。
もういっそ抵抗を止めてみようか。
そしたら少しは楽になるだろう。
完璧に私を捨てることができたなら、その時から私は私ではなく立派なエキストラを演じることができる。
なんて素晴らしいのだろう。
失敗も責任も絶望もない世界。
だからみんな早々にそっちへと行ったのか。
なるほど、合点がいった。
待たせたなみんな、私もそっちへ行くことにするよ。
そのとき、「何か」が私を嘲笑ったように見えた。
ガラスケースの中のモルモットを見るようなそんな視線。
私は抜き取るように「何か」を吐き出した。
それは何色とも言えない空虚に似た存在だった。
どん底上等、引きずってでもこの人生は渡してたまるか。
見上げた空は曇天、海風はいつもより塩気を含んでいた。


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