リレー小説 note14 『未来note』

この短編は、空音さん主催のリレー小説企画への参加作品です。
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インターネット上に、「未来note」という新しいソーシャルサービスができた。作っている人やそうでない人が、作ったものを売ったり買ったり交流したりできる、創作の未来を作るサービス。数年前に流行ったほぼ同内容のサービス「note」をヴァージョンアップさせてつくられた…とかなんとか。私もさっそく、Aya Dateという名前で登録して、文章を書きはじめた。

何日かたつと、一人で書いたものを読んでもらうのも面白いけれど、誰かと一緒に何かを作ってみたいと思うようになったので、リレー小説やりたいんですと勢いで書いた。

すると翌日、リレー小説の参加者募集が未来noteに載った。引き寄せ、すごい!さっそく参加を申し込むと、まもなく、第一回の短編が載った。タイトルは「未来ノート」。あ、面白い。未来noteからとったのかな?書いたことがかなうノートをめぐる話。

***

また何日かたって、noteで出会った手帳収集家さんに、手帳を渡すために出かけた。彼は使用済みの誰かの手帳のコレクターだ。面白い企画だから参加したくて、でもさし上げるほどのものではないからお預けする形で、長年書いてきた、やりたいことをリストアップしたノートを一次的にコレクションに入れていただくことにしたのだ。

「いやー、大事なものを、ありがとうございます」
「こんなのでよければ。でも、いいんですか?こんな、ただこの先こうしたいなってこと書いただけのノート」
「それがいいんですよ。未来のことだけ書いたノート、いいじゃないですか」
「よかった。そうだせめて、タイトルをきれいに書こうかと思って、タイトルつけてみたんですよ」
「いいですねえ、手帳にタイトルってあまりつけないから…未来…ノート?」
「はい。未来のことばかり書いたノートだし、未来noteで知り合ったことだし。あ、ちょうど今参加してる未来noteでのリレー小説企画のテーマも、未来ノートなんですよ」
「へえ~、どんなお話なんですか?」
「なんかね、書いた未来がほんとになるんです」
「じゃあ、この手帳もそうなったら面白いですね。それにウェブの方の未来noteも」
「ほんとに。なんて、私はもうかなってて。リレー小説やってみたいって未来noteに投稿したら、翌日リレー小説の募集が載って、参加できたんですよ」
「それはすごい!」
「でしょう?あ、そういえばリレー小説のこと、ずっと以前、そっちの紙のノートにも書いてたんだった。けっこう前なんですけど」
「へえ~どれどれ…」
「わああああ、ダメですよ!目の前で見られるのは恥ずかしいので、中身は、ご自宅に帰ってからゆっくりご覧になってください」
「あはは、わかりました。でも、ネットの未来noteに書くことやこの未来ノートに書いたこと、どんどんかなうといいですね、これからも」
「ぜひ」

***

未来noteに書いたことがかなう。なんだか面白い。試しに希望を書いてアップしだしたら、音楽に歌詞をつけたいとか、インタビューを受けたいとか、未来note上でかないやすいことがまずかない、調子にのって引越したいとかこういう仕事に就きたいとか書いたら、ずっと引越したかった物件に空きが出て引越せることになり、ずっと就きたかった仕事に友人から誘いがきて、またかなった。だけどそれって摩訶不思議な力ってわけでもないし、書いたけどかなわないことも当たり前にあるし。やっぱり、未来noteに書いたからかなうなんてないよね。

そんなことを考えていると、メッセージを知らせる音が鳴った。コレクターさんからだった。

「先日は貴重なノートをお預かりさせていただいて、ありがとうございました。実はあのあと急な海外出張が決まって、いったん帰宅して家に置いたあとすぐ出かけたので、1週間見れていなかったんです。それで今日帰宅して、さっきようやくゆっくり味わえると思って開いたら…文字が消えてるんです。もしかして、何か特殊なペンで書かれたとか、特殊な状況でないと読めないとかするのでしょうか?大切なノートを預かって、保管は厳重にしていたので、誰かが触ったはずもないのですが…」

心拍数が上がってくる。最近、たしかにすごく運がよかった。未来noteに書いたことがかなりかなった。でもかなわなかったものもあったから特に何も思わなかった。だけど。かなった投稿とかなわなかった投稿を思いだしたら。リレー小説に参加したかったのも、音楽に歌詞をつけたかったのも、インタビューを受けたかったのも、引越しも、あの会社に入りたかったのも…かなったのは全部、紙の未来ノートにも書いてた内容だ。未来noteと未来ノート、両方に書いたことが、かなってる。

そしてリレー小説の中の設定では、未来ノートが本物なら、書かれた文字は書いた本人にしか見えない。私はコレクターさんに「絶対大丈夫だから!」と返し、すぐに会うことにした。「これからお話する内容は信じてもらえないかもしれないんですけど…」リレー小説に書かれていたことを説明し、きつねにつままれたようなコレクターさんと話し合い、未来ノートはいったん私が持ち帰ることになった。手元に戻ったノートを開くとたしかに私には文字が読めるのに、コレクターさんには何一つ見えないと言う。

普通のノートが、未来ノートになった?
帰宅途中で、呼吸がどんどん早くなる。

「大丈夫ですか?」
過呼吸気味に駅のベンチにへたりこむとうなだれた頭の上から声が聞こえた。なんとか顔を上げて、声の主を見る。

一度も会ったことのないこの男の子を知っている。







サイト―君だ。

私の参加しているリレー小説第一回目から出てきた、未来ノートに動かされて主人公に恋をした人だ。あれ、彼は架空の人じゃなかったっけ。

ますます気持ちが悪くなってくる。バランスを崩した私は、持っていたカバンを落とした。バサっ。開いていたカバンから、中身が落ちて、それをサイト―君がかがんで拾う。「未来ノート?これ…」

固まったサイト―君を見て、私は混乱しながら確信する。混乱しながら、だけどこんなに面白い展開にわくわくしはじめてる。

「あの、急にすみません…でもこのノート、どこで手に入れたんですか?」
「いえ、あの、きっとあなたも未来ノートを知ってるんですよね?でもすみません、これはあなたの知ってる未来ノートとはちょっと違って、私が作っちゃったみたいなんです」
「え!」

それからサイト―君と私はそれぞれの未来ノートの話をした。
「じゃあ、Ayaさんから見ると、僕は物語の中の人物なんですね」
「そうですね…でも、私だってそうかもしれない。たとえば、いつかサイト―君が未来ノートや未来noteに書く登場人物かもしれない」
未来noteで未来や人が動かせるなら、私だって誰かに動かされているのかもしれない。私が書いていることすら私が書いている気になっているだけで、私が書く内容自体が誰かの願望だとしたら?私も誰かの未来note/ノートの住人だ。

サイト―君とさよならをして家に帰りながら、私はまたはたと思いだした。どうしてこんな大事なこと、忘れてたんだろう。リレー小説の何回目かで、未来ノートは神さまたちが作ってたはず。じゃあ、なんで私が作れてしまったのだろう。それって、まずくないか。

私が未来ノートを作ったことで、なにかがきしんでしまったとしたら?
それで、未来ノート小説の中にいたサイト―君と私が会ってしまったんだとしたら?いやそもそも、私が今書いているこの文章も未来noteに書かれているのだけど。私も誰かに書かれている私なんだとしたら?

サイト―君に別れ際に聞かれた質問を思い出した。
今未来ノートに書くとしたら、なんて書きますか?

それ、言っちゃっていいのかな。書いた瞬間に、この現実が溶けていかないかな。

私は家に返って机に向かって座り、ゆっくりと未来ノートを置くと、ゆっくりと、タイトルを修正液で消していった。

***

それからも未来noteにいろいろやりたいことは書いたし、それは相変わらずかなったりかなわなかったりしたけれど、もう、未来ノートとの関連性はなくなった。未来ノートという文字を消してからは、コレクターさんにも中身が読めるようになり、喜んでいた。

今日も未来noteではたくさんの希望やたくさんの物語が描かれて、今日もたくさんのことがかなったりかなわなかったりする。それを動かしてる何かは誰にもわからない。ないのかもしれない。あるのかもしれない。

未来noteが、書いたことをかなえてくれるかは、結局のところわからない。それでもきっとまた私は書いてしまう。かなうかかなわないかわからない未来のために。

fin.






*****

あとがき。
お話の中に出てくるコレクターさんは、ご本人にお許しを得て登場していただいているMasafumi Shiradoさんで、手帳の収集はShiradoさんの実在の企画であり、インタビューも今週末Shiradoさんと私とで相互インタビューをさせていただくことになっています。Shiradoさんご協力ありがとうございました。
また、メタ小説ということで、空音さんをはじめnote13までのみなさまの作品よりいろいろと状況を拝借して仕上げております。自分では一からはなかなか書けないので、参加させていただき本当にありがとうございました!

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