見出し画像

夢ちがえ

 以前、死刑を見学する夢を見たり、自分が死刑になる夢を見たことはあったが、昨夜は自殺死体を見つけるという夢を見た。


           ※


 車で、いつもの渓流に向かっていた。
 今日は釣りをするのだ。
 いつもの場所に車を停め、釣りの支度をし、川へ降りる途中に、首吊り死体がぶら下がっていた。

 紺地に白いラインの入ったイモジャーを着た死体は、向こうを向いてぶら下がっている。
 細く長い手足と身体。白髪が混じったような髪の毛。
 土の色に似た顔は見えない。見たくも無い。

 顔を見ないようにし、川へ降りる。
 迷惑なのだ。せっかくの釣り日和に死体など。
 俺の楽しみが終わったら警察に電話をしてやる。
 
 魚はたくさん釣れた。
 帰り道、次はいつ来ようか、それとも違う沢に行こうかと考えていた。
 考えながら、◯◯ファームを通り過ぎ、カーブを曲がった先の道路照明灯に、あの首吊り死体がぶら下がっていた。

 忘れていた。死体の事をすっかり忘れていた。

 アクセルを踏み込み、通り過ぎる。
 そしてうつむき、ハンドルを抱え、目を瞑って死体に謝る。
 ごめんよ。ごめんよ。

 車を走らせたままでいたことに気付く。
 きちんと前を見て運転しなければならない。
 目を開こう、顔を上げよう。
 そうしなければ俺は、事故を起こして死ぬことになっているのだ。


          ※


 顔を上げると、わたくしは、昨夜のまま布団に寝ていて、半分ほど醒めた目で天井を見上げていた。
 
 あの死体は誰だったんだろうと考えた。
 確かにあの死体はわたくしではなかったけれど、何らかの理由で死を選び、寂しくぶら下がる死体から平気で目を逸らし、遊びに夢中になり、無かったことのように忘れられるほどだったのは、ほかならぬわたくしに違いないのだ。


  了