末広亭 柏倉恭三

今は無きジオシティーズのHP、私版百物語『夢ちがえ』の編纂者です。 『夢ちがえ』時代の…

末広亭 柏倉恭三

今は無きジオシティーズのHP、私版百物語『夢ちがえ』の編纂者です。 『夢ちがえ』時代の作品をリライトしたものを中心に、コツコツUPします。 観劇バカなので、演劇についても書いています。

最近の記事

生霊

 以前、勤めていた職場で、○○さんの生霊が出る、という噂が立った。  ○○さんというのは、五十歳を過ぎた女性だったが、性格がどうにも陰湿で、若い人を苛めたり、嘘を平気でついたり、その挙句、商品に手をつけていたことが発覚し、辞職させられた人だった。  初めに生霊を見たと騒ぎ出したのは、○○さんに最も苛められていた女性だった。  その女性は○○さんより少し年下で、仕事の経験が無かったことから失敗も多く、事あるごとに嫌がらせを受けていたそうなのだ。  その恨みもあるだろうから、生霊

    • One way ticket to the Blues

      Choo hoo choo hoo train a chuggin' down the track, Gotta travel on, never comin'back, Woo woo, gotta one way ticket to the blues. Bye bye love, my baby leavin' me, Now lonely teardrops are all that I can see, Woo woo, gotta one way ticket

      • 新釈・銀河鉄道の夜

         あと小一時間ほどで夜が明ける。  夜明け前が一番暗いと聞くが、普段は出られない施設の屋上に立ち、この山間に寂しく点在する街灯を見ながら、それを実感した。  あつらえたような背広上下に身を包んだ私の隣には、懐かしい彼が佇んでいる。  夜明け前に、私は彼に連れられて旅立つのだ。  百歳を過ぎているということで、施設では大事にされていたと感謝しているが、その村での最高齢者という記録と評価を除けば、役場のかたがた以外、面会者は一人もいない、身寄りの無いただの寂しい老人に過ぎなかっ

        • 風の名前 第一話

           ――昭和初期。北海道南知床村。  鈴蘭の花の匂いが夏の近いことを知らせる夜、商店街のある国道沿いから一本海寄の少し坂になった道、通称「下り(くだり)街道」を行く小さな影がひとつあった。  影の主は小学校へ上がるか上がらぬかといった年端も行かぬ娘であり、その小さな両腕で、酒の入った一升瓶を重たそうに抱えていた。  帰りが遅くなってはいけない使いなのか、それとも、鈴蘭の白い花が群れ咲き、明るい国道沿いと違い、ただえさえ少ない街灯が鬱蒼と茂った柏の葉に隠されてしまう暗い道が怖いの

          私の北海道

           午前零時近く、朝四時起きの目に映るエクセルの数字がぼやけ始める。 明日の朝も早く起きなければならないんだと今更思い出し、パソコンの電源を落とし、部屋の電気を消し、そこで初めて、外の明るさに気付く。 雪が降っていたのかとブラインドの隙間から外を見て、止みそうも無いわさわさと降る雪のその様に、げんなりする。  明日、一時間早く起きて雪かきをするか、それとも寝るのを一時間遅らせ、今夜のうちに目処をつけておくか。そう考える前にヤッケをはおり、帽子を被る。 (朝の三時に起きてられ

          赤い車

          初出:私版百物語 夢ちがえ 第八夜『ペコちゃん夜話~赤い車』 「まぁた、空き室だねぇ、ここ。やっぱりねぇ」 会社の車で通りかかったアパートの前で、ペコちゃんが言いました。 その頃、私は配水管メンテナンス会社の社員で、 ペコちゃんは私の敏腕助手として活躍していました。 「なんだい、おばけでも出るのかい?」何げなく聞いた私にペコちゃんは、 「あっ、まだ話してなかったっけ。私、柏倉さんと組む前にK君と組んでたでしょ? あのアパートに排水詰まりの修理に呼ばれたことあるんだ

          夢ちがえ

           以前、死刑を見学する夢を見たり、自分が死刑になる夢を見たことはあったが、昨夜は自殺死体を見つけるという夢を見た。            ※  車で、いつもの渓流に向かっていた。  今日は釣りをするのだ。  いつもの場所に車を停め、釣りの支度をし、川へ降りる途中に、首吊り死体がぶら下がっていた。  紺地に白いラインの入ったイモジャーを着た死体は、向こうを向いてぶら下がっている。  細く長い手足と身体。白髪が混じったような髪の毛。  土の色に似た顔は見えない。見たくも無い

          2022カノープス杯・極私的演劇大賞及び俳優賞エントリー作品

          OrgofA『異邦人の庭』 赤色カーニバル『時代はピンクの象に乗って~新世界篇~』 ポケット企画&あづき398『ゆうむすぶ星』
LONELY ACTOR PROJECT PLUS All Sapporo Professional Actors Selection Vol.3『暴雪圏』 project NG『短編演劇集』 演劇ユニットヒールアタック『トーキョーオールライト!!』 ポケット企画『吉田侑樹サヨナラ公演〜キロ』 吉祥寺GORILLA『茶の間は水浸し」 劇団風蝕異人街・

          2022カノープス杯・極私的演劇大賞及び俳優賞エントリー作品

          忘れ草

           友人・Kの死因は、病気でもなく、事故死でもなかった。  休日、自分のマンションで、“心不全”を起こし死亡、ということだった。  Kは、ごく普通の男だった。両親がいて、弟がいて、親戚がいて、同僚がいて、友人がいて、隣人もいて、付き合っていた女性が居たこともあった。  人は、一人で生きてはいない。日常においては、必ず誰かと接点がある。  Kが死んだ時、外部との接点は一切無かったという。  わたしは、文字通り、接点が無くなったのだと思う。  Kを知る全ての人に、Kの死亡時間、何

          お題:わたしの好きな人

          わたくしは結婚して子どももいるので、好きな人は家族を挙げるところなのでしょうが、ここは演劇のワークショップという場なので、そちらに絡めて紹介したいと思います。 クラアク芸術堂さんの電話演劇という試みがありまして、そこでは役者さんと観客?のこちらが電話を通じて話が進んでいくものでした。話は友人の《サクラちゃん》という名の女子高生の進路の悩みを聴く、というものなのですが、わたくしにはその《サクラちゃん》と同じ名の宮城県に住む友人がいまして。ただ、その《サクラさん》やご家族とは11

          お題:わたしの好きな人

          死刑

           死刑になる夢を見た。             ※    死刑になるほどの罪を犯した覚えは無いのだが、俺はその判決を、こざっぱりとした気分で受け容れていた。    いろいろと始末をしておきたいことがあったのを思い出し、どうにかならないものかと担当の看守に相談すると、死刑執行当日、午前中の数時間、外出が許された。  看守は女性で、彼女には見覚えがあった。  彼女は俺が好きだった女性だ。    自宅に帰って、部屋の整理をする。  そこへ妻が現れたので、オートバイを誰それにやって

          TGR札幌劇場祭2020・俳優賞選考過程における、私的上位エントリー俳優について/女性編

          1.飛世早哉香さん(OrgofA 3rd.act 『異邦人の庭』) 2.大和田舞さん(ELEVEN NINES『太陽系第三惑星異常なし』) 3.さとうともこさん(トランク機械シアター『きらわれドロロンと、魔法の鏡』) 初めて審査員を経験させていただけたTGR2019に於いて、優秀賞に輝いたOrgofAさんの『Same Time,Next Year-来年の今日もまた-』。授賞式にて飛世さんは、評価をいただけて嬉しいものの、それが大賞ではないことに大変悔しがっておられました。わ

          TGR札幌劇場祭2020・俳優賞選考過程における、私的上位エントリー俳優について/女性編

          TGR札幌劇場祭2020・俳優賞選考過程における、私的上位エントリー俳優について/男性編

          1.明逸人さん(OrgofA 3rd.act 『異邦人の庭』) 2.梅原たくとさん(ELEVEN NINES『太陽系第三惑星異常なし』) 3.有田哲さん(ポケット企画『渇き、瞬き』) 温水元さん(弦巻楽団×北海道大学CoSTEP 『インヴィジブル・タッチ』 菊地颯平さん(ELEVEN NINES『太陽系第三惑星異常なし』) 自分が思う《良い役者の条件》のひとつに、《演じているのが誰かはわかるのに、役柄そのものにしか見えない説得力がある役者》というのがあります。または作品に

          TGR札幌劇場祭2020・俳優賞選考過程における、私的上位エントリー俳優について/男性編

          雪の面影

           彼女を初めて知ったのは、高校一年生の時です。  ただし、同じクラスだから顔と名前だけは一致する、そんな程度の、言葉もほとんど交わすことのない間柄でした。  二年生になって彼女とは別のクラスになりました。  何事も無いまま三年生になり、そして卒業、就職を迎えました。  彼女と偶然再会したのは二十二歳の時です。  新しい銀行口座を開く事になり、その手続きをしに行った銀行の窓口に、彼女がいました。  高校時代の面影がほとんど無かった彼女を、僕は気づけなかったのですが、彼女は僕の

          PRIVATE STORY 天涯のタルタロス

           私の名は希望。  希望の灯りを点す物だ。    私は、ゴールドブラッシュに仕上げられたケースの横に、大きくHOPEと名を刻み、その傍らに弓矢のレリーフを埋め込まれた、誇りあるZIPPO社のオイルライターだ。  私は、似た名を持つ煙草――あいつはショート・ホープ、短い希望だ。似て非なる名だ――の懸賞として生まれた。  私は、常に主(あるじ)の懐で暖められ、タンクのレーヨンボールには常にオイルが満遍なく滲みわたり、それを押さえるフエルトパッドの狭間には、二つのフリントロックが予

          PRIVATE STORY 天涯のタルタロス

          ちくびのおもいで

           さきほどまで自分の乳首をいじくって遊んでいたせいか、ふいに思い出したことがある。  以前の職場で一緒に働いていた、松嶋花子さんのことだ。           ※※※  松嶋花子さんは、確かわたくしより二つ三つ年下だが、三人のお子さんを持つ、実に立派なおっかさんである。  その松嶋さんは、ガキを三人も産んだとは思えないほど若々しく、また美人であり、優しく微笑むその様は松嶋菜々子を思わせるものがあった。  しかし、それは「昨夜、ダンナと喧嘩しなかった」 「出掛けに子供

          ちくびのおもいで