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フィクション・戯曲

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特別な女の子であるための螺旋階段

特別な女の子であるための螺旋階段

耳に残っている言葉があるの。いつまでも、いつまでも、追いかけてくる。
誰もわたしの人生を変えることはできないんだって、わかるのに25年もかかってしまったね。

たとえば、どんな靴を履いてもいいんだってこと、だれも教えてくれなかった。ずっと、あなたに憧れていました。口にするのさえ恐ろしいほどに。あなたは海の向こうにあった。あなたとともに生きたい気持ちを認めてしまったら、その距離の遠さにわたしは絶望し

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2014年1月16日の会話

♀・♂、向こうからやってくる相手を見つけ、♀は手を振って、♂は微笑んで近づく。「すれ違い様の挨拶」と「立ち話」の間のような会話。

♀ 髪切った?
♂ いや、ずっと前からだよ
♀ そうか
♂ 君は手の振り方が独特だから、すぐに分かるよ
♀ 歩いてるときの?
♂ いや、こう、手が突然出てくる、というか
♀ ああ、そっか。
  前野さんからメール来たよ、一緒に行くってね
♂、少し進んでいたが振り返る

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詩/初夏のエクレア

何が食べたい?って聞かれて、わたし、エクレアがいいって言ったの。それは少女時代の追憶、もう遠い昔のことだわ。エクレアが好きだっていう気持ちを初めて探り当てて、言葉にした、その日のことを、今でも覚えてる。チョコレートとカスタードクリームを頬張りながら、甘さから追憶を引き剥がすことはこれから先きっと一生できないの。

戻るつもりはなかったのに。わたし、少女に戻った。あの夜。始まりはあのキス。わたし、い

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