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「リズム」を英語で書いて…と言われてrizumとかではなくRHYTHMとスッと書ける人の割合は高くないと思うんですよ

フォーミュラ1が、中東はバーレーンの地で開幕しました。

今季は全部で24戦が世界各地を巡って行われますが、そのうち14箇所では1つ下のカテゴリーであるフォーミュラ2が併催されます。

そこに参戦する唯一の日本人が宮田莉朋です。

彼は昨年国内の2大タイトルであるスーパーフォーミュラSUPER GTを両方制して王者となり、将来的にフォーミュラ1で走ることを目指して今年はヨーロッパを拠点に活動するわけです。

さて、「莉朋」は「りとも」と読みます。

「名前の由来はフィアット・リトモで、車好きの両親がつけた」
ウィキペディア

この車種は西暦1988年で生産が終了しているので「昭和の車」ということになります。

(宮田選手は平成11年生まれ)

イタリア語ritmo

イタリア語「リトモ」はritmoとつづり、「リ」に強勢が置かれます。

意味は「リズム」、日本語で言えば「律動」や音楽の「拍子」、あるいは文学の「韻律」です。

「ritmo cardiaco
心臓の鼓動
ritmo ternario
3拍子」
(小学館伊和中辞典)

イタリアの女優Ambra Angioliniアンブラ・アンジョリーニ(アンジェリーナ・ジョリーではありません)がかつて歌手として出した曲に『Ritmo vitale』(西暦1997年/平成9年)があります。

「batte forte
Ritmo Vitale
Ritmo Vitale
dentro il cuore
(強く/速く鼓動している
生命の律動が
生命の律動が
心臓/心の中で)」

次の動画はそれをとある音楽祭で「ライブで歌っている」ものです。

『Ambra Angiolini - Ritmo vitale - Festivalbar 1997 Mantova』
https://www.youtube.com/watch?v=1R5MAo7o3rs

冒頭、進行役とおぼしき人物が喋っている所を背後から彼女が登場。

それから掛け合いトークが始まりますが、2人とも進行役の持っているマイクを交互に使って音声を観客に届けています。

彼女は自分でマイクを手にしているにもかかわらず。

そして歌唱が始まりますが、声の音質から考えて生歌とは思えないので、CD音源をそのまま流して「口パク」したのだと思います。

口とマイクとの距離が安定しないのに音量が一定というのも疑念を抱かせる点であり、持っているのはダミーのマイクなのではないかと。

まあ、それはさておき、ritmoはラテン語rhythmusから来たものです。

英語rhythm

ラテン語rhythmusはまた別の流れとして、昔のフランス語でrimeという形に変化し、それが同じつづりで昔の英語に採用されたのですが、その後英語の中で再びつづりが変化して現在のrhythmとなりました。

その変化の理由を語る説の1つは「語源をさかのぼってラテン語のつづりに近いものにした」というものです。

意味はイタリア語ritmoと同様です。

「the steady rhythm of the heart
心臓の安定した律動[鼓動]
the rhythm of dancing
ダンスのリズム
the rhythm of the seasons
四季の規則的な移り変わり」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

3例目のように、日本語ではあまり「リズム」とは言わないものにも使います。

包括するような表現を使うならば「規則的反復」「周期的運動」ということになります。

1回こっきりのものではなく連続した動きというわけですが、実はラテン語rhythmusを更にさかのぼったところにある語源、古代ギリシャ語rhuthmósが「流れるもの」を意味する言葉なので、「流れ⇒連続」という連想ができるのではないでしょうか。

ギリシャ語から英語に取り入れる時に起こる問題

今rhuthmósと書きましたが、これはラテン・アルファベットへ転写したものであり、元々のギリシャ文字で書けばῥυθμόςです。

英語rhythmのつづりにhが2箇所登場しており、スッと書けない人が多いのはここに問題の種があります。

「rh」は「ῥ」を、「th」は「θ」を転写するときのやり方です。

数学で角度を表す記号として使われると学校で習ったθは、古代ギリシャ語においては[tʰ]と発音されました。この小さなhは有気音であることを示すものであり、tの音に息の風の音を伴う発音です。

英語においてthというつづりは2文字で1つの音を表すことになっているのはご存じの通りで、発音記号の[θ](無声音)や[ð](有声音)を表現するつづりです。

ギリシャ語起源で[θ]の発音を持つ英単語としてはtheaterがその1例です。

そしてrhythmは[ð]の1例ということになります。

というわけでthのhには役割があったのですが、rhの方のhはどうでしょう。

ῥはρ(ラテン・アルファベットのrに相当)の頭にチョコンと点が打たれていますが、これは有気音であることを表す「有気記号」と呼ばれるものです。

ということは「rの音に息の風の音を伴う発音」になりそうなものですが、英語にはそれに相当する音が存在しないので、hは無視してrだけ読もうぜ、という次第です。

ですから読まないhでも書いておかなければならない、という我々にとってはヤヤコシイ状況が生まれました。

ῥ起源のrhが出てくる単語は他に、rhapsody(ラプソディー、狂詩曲)やrhetoric(レトリック、修辞法)があげられます。

『ラプソディー・イン・ブルー バーンスタイン 1976』
https://www.youtube.com/watch?v=SSKBNiAdlgg

尚、ρは電気抵抗率を表す記号などとしても使われます。

「リズム・チェンジ」

音楽用語で「リズム・チェンジ」というのがあります。

非常に誤解を招く言葉という意味で「メロン・パン」に似ていなくもありません。

みんな大好きメロン・パンは、初めてその名を聞いた人が「メロンの果肉か果汁を原材料に含むパン」と思っても当然だと言えます。

もちろん「見た目をメロンに摸(も)したパン」のことなので、「メロン味のメロン・パン」と言うと逆に「へぇ、珍しいね」ということになります。

(山崎製パンが販売している「大きな赤肉メロンパン」という商品はそれです)

「リズム・チェンジ」の方も「リズムが変わること」だと誤解するのがむしろ当然でしょう。

他の音楽用語で「key change」であれば「keyが変わること」、つまり「転調」のことを指しますしね。
(転調はmodulationとも言います)

英語では複数形を使って「rhythm changes」となりますが、「rhythmのchanges」ではなく、言ってみれば「changesの一種で、rhythmという名の付いたもの」になろうかと思います。

この「changes」では変わるのは和音であり、より一般的な言い回しでは「コード進行」のことです。

そして「rhythm」の方は『I Got Rhythm』という曲から来ています。

まとめると「『I Got Rhythm』で使われたコード進行」が「rhythm changes」です。

「「アイ・ガット・リズム」(I Got Rhythm)は、1930年に発表された、ジョージ・ガーシュウィン作曲、アイラ・ガーシュウィン作詞による歌。現在でもジャズのスタンダード・ナンバーとして知られる。
独特なコードの進行は「リズムチェンジ」として知られており、チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーが作曲したビバップ、「アンスロポロジー」など、多くの著名なジャズ曲の基礎となった。(中略)
曲はいわゆるAABAフォームで構成されており、その独特のコード進行は後に「リズムチェンジ」と呼ばれ、現在でもジャズの基礎的なコードと見なされている。」
ウィキペディア

「いわゆるAABAフォーム」とは…

「rhythm changes」は32小節がひとまとまりですが、8小節を小さなまとまりとする4つの要素から構成されています。

最初の8小節をAとすると、次の8小節も同一か類似のものを繰り返すのでやはりAとみなします。

3つ目の8小節は別のコード進行が展開されるのでBとし、最後の8小節はAが再び登場する、という具合です。

(もっとも、原曲I Got Rhythmは34小節なので、2小節分カットしたものが、別の曲を作るときの下敷きであるrhythm changesと呼ばれていることになります)

それでどんなコード進行が使われているかをこれから書きますが、興味の無い方やコード進行に関する知識の無い方は読み飛ばしていただいて、𝄌の記号まで飛んでください。

「The progression is in AABA form, with each A section based on repetitions of the ubiquitous I–vi–ii–V sequence (or variants such as iii–vi–ii–V), and the B section using a circle of fifths sequence based on III7–VI7–II7–V7, a progression which is sometimes given passing chords.
(このコード進行はAABA形式を採っており、各AセクションはよくあるⅠーⅥーⅡーⅤというまとまり(あるいはⅢーⅥーⅡーⅤなどの変形)に基づいている。そしてBセクションは五度圏を使ってⅢ7ーⅥ7ーⅡ7ーⅤ7に基づくものとなっており、ある場合は経過和音が入れられている進行である)」
(ウィキペディア)
https://en.wikipedia.org/wiki/Rhythm_changes

𝄌
原曲と、rhythm changesで作られた曲を、8小節のちいさなまとまりを意識しながら聴き比べてください。

『George Gershwin, I Got Rhythm, Piano music and score - Piano music and score』
https://www.youtube.com/watch?v=gVsnqOfifqU

こちらはアメリカのサキソフォン奏者Charlie Parkerチャーリー・パーカー作曲の『Moose the Mooche』を、同じくアメリカ人Joshua Redmanジャシュア・レドマンが演奏したもの。

『Moose the Mooche』
https://www.youtube.com/watch?v=8yQsObEcQUw

そしてこちらはアメリカのピアノ奏者Thelonious Monkサロウニアス・マンク作曲の『Rhythm-A-Ning』を、フランス人Katia Labèqueカティア・ラベクとMarielle Labèqueマリエル・ラベクが演奏したもの。

『Katia & Marielle Labèque - (1991) Rhythm-A-Ning』
https://www.youtube.com/watch?v=TmSydLmbelw

「リズム」ではない「リズム」

「YouTubeはYouTubeのアルゴリズムによって視聴者が好む動画コンテンツを最適に提供することを可能にしています。(中略)
例えば、あなたがアニメ動画を視聴している場合、あなたを”アニメ動画に興味を持つ視聴者”だとYouTubeアルゴリズムが判断して”あなたが好みそうなアニメ動画”の画面表示を増やそうとします。」
(株式会社フルスピードのサイトにあった『2024年最新┃YouTubeアルゴリズム解説!再生回数を増やす方法!』より)

「アルゴリズムとはFM音源の元となる基本波形(オペレーター)の組み合わせ方で、音色の特徴を決定づける要素と言っていいでしょう。オペレーターとアルゴリズムの数は機種によって異なります。ちなみにDX7 Vは、6オペレーター、32アルゴリズムです。」
(リットーミュージック社のサイトにあった『第2回 FM音源のココがポイント』より)

「アルゴリズム」を英和辞典で引くとこんな感じです。

「algorithm
音節al・go・rithm 発音記号・読み方/ˈælgərìðm/
名詞 不可算名詞
演算法[方式], 算法,アルゴリズム」
(研究社新英和中辞典)

(発音記号でお判りのように「ア」を強く読みます)

我々は「リズム」という言葉を非常によく知っているため、「アルゴリズム」と聞くと「アルゴ・リズム」だと思いがちです。

しかしそうではありません。むしろ「アル・ゴリズム」です。

アル=フワーリズミー(الخوارزمي al-Khuwārizmī)ことアブー・アブドゥッラー・ムハンマド・イブン・ムーサー・アル=フワーリズミー(أبو عبد الله محمد ابن موسى الخوارزمي)は、9世紀前半にアッバース朝時代のバグダードで活躍したイスラム科学の学者である。(中略)
中央アジアのホラズム(アラビア語でフワーリズム)の出身で、フワーリズミーの名は、「ホラズム出身の人」を意味するニスバ(通称)である。」
ウィキペディア

この人の通称「アル=フワーリズミー」が最終的に「アルゴリズム」となるのですから「アル・ゴリズム」です。

al-Khuwārizmīが中世ラテン語でalgorismusに、古いフランス語でalgorismeになり、その後sのつづりがthに変更されました。

その変更は、古代ギリシャ語のἀριθμός (arithmós)という、語源的につながりのないはずの言葉と関連があると誤解されたことで起こったのでした。

誤解を招いたのはarithmósが「数」という意味であることが原因でしょうが、「算数、算術」であるarithmeticもこの古代ギリシャ語を源とします。

リトミック

小さなお子さんがいるご家庭では「リトミック」という言葉はお馴染みかと思います。

「リトミックとは、音楽に合わせて体を動かし、表現力を養う音楽教育法です。
子どもたちは、リトミックのピアノや楽器の音を聴きながら、自由に体を動かして表現します。お遊戯のように決まった動きはなく、子どもたちが自由に表現することを大事にしているのがリトミックの特徴です。」
(株式会社ソラストのサイトにあった『【簡単に解説】リトミックとは?年齢別のやり方や保育士が行う際の注意点など』より)

これはフランス語rythmiqueであり、英語で言えばrhythmicに当たります。

「gymnastique rythmique
リトミック,リズム体操(=rythmique)
groupe rythmique
リズムグループ
accent rythmique
リズムアクセント」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

1例目では名詞を修飾する形容詞として登場していますが、カッコ内にあるようにそれ単独で名詞として用いられもします。

余談

以前パリに旅行した折、一日の観光を終えて宿に戻り、部屋でテレビを見ていました。

すると女優・松たか子が画面に登場したので驚きました。

日本では人気若手女優として活躍していたものの、「ありのままの~」が影も形もない時代のことでもあり、international fame国際的名声は得ていなかったものと思います。

ですからフランスのテレビ局が松たか子を松たか子だと思って画面に出してきたわけではないはずです。

渋谷かどこかの建物の壁面が巨大スクリーンになっているところに彼女の出演するコマーシャルが流れ、その様子を撮影した映像を日本紹介の一環で放映したものと想像されます。

松さんと言えば例の「パンまつり」が有名ですが、山崎製パンのコマーシャルではなかったと思います。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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