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CURVEと「カーブ」

Jリーグのマリノスは主催試合を主に「日産スタジアム」(神奈川県横浜市)で行いますが、たまに「ニッパツ三ツ沢球技場」(同じく神奈川県横浜市)を会場とすることもあります。
(昨シーズンは第3節、対広島戦がそうでした)

この2つの競技場は収容人数の違いもさることながら、本質的な点で異なっています。

前者は「横浜国際総合競技場」、後者は「三ツ沢公園球技場」を正式名称とすることから判るように、「陸上競技も行う会場」と「球技専門会場」の違いです。

前者には陸上競技の400メートル走路があるため、コーナー部分では観客席もそれに沿って湾曲しています。

リンク先の「座席案内図」をご覧ください。

サッカーに引き付けていえば、ゴール裏の観客席となります。

一方、走路の無い三ッ沢のゴール裏観客席は直線状の配置です。

座席ガイド

イタリア語curva

サッカー場で

イタリアはローマにあるStadio Olimpicoスターディオ・オリンピコ(ASローマとSSラツイオの本拠地)はその名の示す通り、オリンピック会場として建設されて陸上競技走路もあるため、日産スタジアムのようにゴール裏観客席は曲がっています。

座席配置図をご覧ください。

ゴール裏部分には「Curva Nord」「Curva Sud」という文字が見えると思いますが、このcurvaというイタリア語は「曲線」「湾曲部」といった意味があります。
(nordは「北」、sudは「南」のことです)

対して、ACミランとインテル・ミラノの本拠地、Stadio Giuseppe Meazzaスターディオ・ジュゼッペ・メアッツァはサッカー専用なのでゴール裏は基本的には直線ですが、端の方は湾曲しています。

座席配置図をご覧ください。

さほど湾曲していないのにこちらもcurvaと呼ばれるのは、この言葉が「ゴール裏観客席」を意味する言葉として固定的に使われているということでしょう。

サーキットで

ミラノ近郊にある都市Monzaモンツァにあるサーキット「Autodromo nazionale di Monzaアウトドローモ・ナツィオナーレ・ディ・モンツァ」。
(直訳すると、「ミラノの国民的自動車競走路」)

こちらにもcurvaがあります。もちろん「曲線」部分、いわゆるコーナーの名前としてです。

「la curva Parabolica del circuito di Monza viene intitolata all'ex pilota automobilistico Michele Alboreto, rinominandola curva Alboreto.
(モンツァ・サーキットのパラボリカ・コーナーは元自動車競技選手ミケーレ・アルボレートにちなんだ名前を付けられ、アルボレート・コーナーと改称)」
ウィキペディア

こちらの画像で右端の方にあるcurvaがそれです。

他にもいくつかのcurvaが走路上にあることがお判りになるでしょう。

英語curve

基本的な使い方

イタリア語curvaと英語curveはもちろん同源です。

「The road bends in a wide curve.
その道路はゆるやかにカーブして曲がっている
go round [take] a curve
カーブを曲がる」
(研究社新英和中辞典)

1例目ではcurveは「曲線という形状」を、2例目では「道路という構築物で曲線となっている部分」を意味しています。

動詞としても使え、下の1例目は自動詞、2例目は他動詞用法です。

「The track curved round the side of the hill.
(線路はその山腹でぐるっと曲がっていた)
A smile curved her lips.
(彼女が微笑んで唇が曲線を描いた)」
(ロングマン現代英英辞典)

いろいろなcurve

軌道が曲線を描く、野球の「カーブ」はcurve ballの他、curve単独でもOKですが、かつてはslowと呼ばれていたそうですよ。

「Slows are balls simply tossed to the bat with a line of delivery so curved as to make them almost drop on the home base.
(スロウとは、本塁上で落ちんばかりの曲線を描く球筋で打者に投げられる球である)」
(Chadwick's Base Ball Manual, 1874)

グラフ上に描かれる各種の曲線を英語で何と呼ぶかを簡単に列挙しておきます。

需要と供給の話に出てくる「需要曲線」はdemand curve、「供給曲線」はsupply curve

・物価と失業の関係についての話に出てくる「フィリップス曲線」はPhillips curve

日本銀行の金利調整の話で出てくる「イールド・カーブ」はyield curve

・累積生産量と単位コストの関係についての話に出てくる「経験曲線」はexperience curve

・運転しやすい道路を作るという話に出てくる「クロソイド曲線」はclothoid curve

真の「カーブ」

curveはなにしろ「v」なので「カーヴ」というカタカナ表記にした方が妥当なのでしょうが、実際には「カーブ」の方をよく見かけることは経験上ご存じのことと思います。

しかし、「v」ではなくて「b」であるので「カーブ」で良い英単語、それがcurbです。

しかもこの言葉はcurveと語源を同じくするものであり、ラテン語で「曲げる」を表す言葉の子孫です。

「(馬具の)くつわ鎖,止めぐつわ」
(研究社新英和中辞典)

「曲げ」られて作られた部品だからということでしょう。

比喩的用法

手綱をつなげて馬を抑えるための道具ですが、そこから「抑制」「拘束」という抽象的な使い方が派生します。

「place [put] a curb on expenditures
経費を制限する」(同)

「He called for much stricter curbs on immigration.
(移民流入に対する抑制策をもっとずっと厳格にするよう、彼は要求した)」
(Collins Thesaurus of the English Language – Complete and Unabridged)

動詞用法もあります。

「measures to curb the spread of the virus
(そのウィルスの蔓延を抑制する方策)」
(ロングマン現代英英辞典)

特にインフレ抑制の話で見かける気が個人的にはします。

「米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は9日、注意深い姿勢を保つとする一方、必要と判断すれば一段の政策引き締めをちゅうちょしないと述べ、インフレ率を2%に下げる上で十分な引き締めを行ったと完全には確信を持てていないとの考えをあらためて示した。」
昨年11月9日付けのブルームバーグ日本語版

例えばこのニュースに関して、英語メディア「CNBC Make It」ではこのように表現しています。

「Federal Reserve Chair Jerome Powell said he’s “not confident” the Fed has done enough to curb inflation, suggesting that further rate hikes might be necessary, during a speech at an International Monetary Fund event in Washington, D.C. on Thursday.
(連邦準備制度理事会のジャロウム・パウェル議長は、木曜日にワシントン・コロンビア特別区であった国際通貨基金の行事での演説の際、理事会がインフレを抑制するために十分なことをしたとは「確信していない」と述べ、一層の金利引き上げが必要かもしれないと示唆した)」

サーキットの話ふたたび

curbはまた、歩道と車道の間の「縁石」のことも意味します。

「He pulled over to the curb.
彼は車を道路のへりに寄せ(て止め)た」
(研究社新英和中辞典)

「縁石」の意味においてはkerbというイギリス流のつづりが存在します。
(発音は[kə́ːrb]で同じ)

一般的な道路の縁石とは別の形をしていますが、サーキットにも縁石があります。

こちらの画像で紅白に塗り分けられている部分です。

再びモンツァ・サーキットを舞台にした話をしましょう。

西暦1988年/昭和63年のF1イタリア・グランプリのこと。

次の動画は、首位を走っていたAyrton Sennaアイルトン・セナが、周回遅れだったJean-Louis Schlesserジョン=ルイ・シュレッサーを追い抜こうとした時に接触して縁石に乗り上げてしまったときの映像です。

『1988 F1 Monza Senna Schlesser collision』
https://www.youtube.com/watch?v=FjZF3vI46Vs

これを文章化するとこんな感じです。

「The Williams T-boned the right rear tyre of the McLaren, breaking its rear suspension and destroying any hopes of a perfect winning season for McLaren. The tifosi erupted as the #12 McLaren was beached on a curb and out of the race
((シュレッサーの乗った)ウィリアムズ・チームの車は(セナの)マクラーレン車の右後ろタイヤに直角に当たって後部サスペンションを破壊し、マクラーレンの完全制覇するシーズン(=そのシーズンの16戦を全勝する)という望みを台無しにした。(地元である)フェラーリ・ファン達はゼッケン12の(セナの)マクラーレン車が縁石に乗り上げさせられて競走から外れると、感情を爆発させた)」
ウィキペディア

「カーヴ」ふたたび

スキーで滑っていく人の後にはその跡(ドイツ語で言うシュプール)が残りますが、それが美しい曲線を描くこともよくあります。

だからと言って「カーヴィング・スキー」はcurveには関係ありません。

「カービングスキー (Carving Skis) は、カービングターンが容易に行なえるように1990年代に開発された、アルペンスキー用のスキー板。カービング (carving) とは「削る」「切る」の意。」
ウィキペディア

carveは「刻む」が原義なので、「曲がる」のcurveとは異なります。

「carve a roast chicken
丸焼きの鶏をさばく
He carved his name on the tree.
彼は木に自分の名を刻みつけた
carve marble into a statue
大理石を刻んで彫像にする」
(研究社新英和中辞典)

これらは物理的に「刻む」ことですが、「進む道を切り開く」を比喩的な意味で言う用法もあります。

「carve (out) a career on Wall Street
ウォール街で世に出る
carve out a fortune for oneself
自力で富を成す」(同)

ところで、「彼は木に~~」の例文を見る時、The Beatlesの歌が思い出されます。

If I Needed Someone』です。

歌詞の中にこういう一節が登場します。

「Carve your number on my wall, and maybe you will get a call from me.
(キミがウチの壁に電話番号を刻んだらボクから電話がいくかもよ)」

随分と極端な話だと思います。

『If I Needed Someone (2023 Mix)』
https://www.youtube.com/watch?v=y2io4sE0khU

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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