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FLOWERと、FLOWER以外の「花」と、「花」以外の「フラワー」と

この文章は令和6年3月16日に投稿されていますが、あと1箇月弱で「桃の節句」がやってきます…

雛祭りについて「桃の節句」という呼び方をするのは、その頃に桃の花が咲くからです。

しばしば言われることですが、「3月3日」は旧暦での設定であり、新暦3月3日は桃が開花するには時期尚早です。

桃の開花時期はおおよそ桜と同じだと知ればイメージしやすいと思います。

今年は新暦4月11日が旧暦3月3日に当たります。

(尚、5月5日の「端午の節句」、7月7日「棚機/たなばた/七夕/しちせき」も旧暦に基づく行事です)

さて、桃や桜といった、樹木に咲く花は英語でblossomです。

blossom

「花」全般を表す単語として英語に元からあったものですが、今日では果樹の花に用いるようです。

1つ1つの「花」を言う場合は可算です。

「a shower of blossoms
花吹雪」
(研究社新英和中辞典)

集合的に述べる時の「花」は不可算の扱いです。

「The apricot blossom is fine this year.
今年はアンズの花がきれいだ」(同)

状態としての「開花」もこの単語でOKであり、不可算です。

「The cherry trees were in full blossom.
桜が満開だった」(同)

動詞用法もあります。

「The peach trees blossom (out) in April.
桃は 4 月に花が咲く」(同)

(この例文を作った方が、雛祭りと旧暦の話を意識して「4月」と明示するものを作成したのかどうかは不明)

比喩的に、人生における「開花」を表すことも可能です。
(名詞用法も、動詞用法も)

「the blossom of youth
青春の開花期
He blossomed (out) into a statesman.
彼はやがてりっぱに政治家となった」(同)

bloom

北欧系の言語から輸入されたbloomはblossomの守備範囲を一部奪って、現在「観賞用の花」を表すと言われます。

やはり、可算用法と、集合的な不可算用法があります。

「beautiful red blooms
(美しい赤い花)」
(ロングマン現代英英辞典)

「the bloom of (the) tulips in the garden
庭のチューリップの花」
(研究社新英和中辞典)

そして「開花」を表す点もblossomと共通です。

「The roses are in full bloom.
バラの花が今見ごろです」(同)

こちらは動詞用法。

「This plant blooms in spring.
この植物は春に花をつける」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

更に、人生における「開花」も。

「a girl in the bloom of youth
娘盛り」
(研究社新英和中辞典)

「bloom into a beautiful woman
美人に成長する」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

健康面での「輝き」などをいう事があります。

「The rosy bloom of her cheeks had faded.
(彼女の頬の薔薇色の輝きは褪(あ)せてしまっていた)」
(ロングマン現代英英辞典)

「She's blooming with health.
彼女は健康に輝いている」
(研究社新英和中辞典)

尚、ドイツ語の「花」であるBlumeブルーマはこのbloomと同源ですが、但し英語での事情とは違って「草の花」を指すようです。

「Die Blumen verwelken 〈blühen auf〉.
花がしぼむ〈開く〉」
(小学館プログレッシブ独和辞典)

対して「樹木の花」はBlüteブリュータが担当します。

「Die Blüte öffnet sich.
花が開く」
(三省堂クラウン独和辞典)

ラテン語系統の「花」

大元のラテン語

ラテン語で「花」はflosです。

比喩的に「何かの一番良い部分」といった使い方もあります。

花はその植物の「一番良い部分」ということでしょうか。

flosから来ている名前を持つFloraフローラという女神がローマ神話に登場します。

Sandro Botticelliサンドロ・ボッティチェッリの代表作の1つ、『Primavera』(春、の意)の中では右から3番目に描かれていて、花柄の衣服を着ています。

古代ローマ時代、「Floraの町」との意味でFlorentiaフローレンティアと名付けられた都市は、その後Firenzeフィレンツェという表記・発音になりました。

ボッティチェッリはフィレンツェ出身であり、『Primavera』はフィレンツェにあるGalleria degli Uffiziウッフィーツィ美術館で展示されています。

スペイン語flor

flosはスペイン語に流れて、florフロル(複数形はfloresフロレス)の形で現代に存在しています。

「【Dieron】《flores》los tulipanes del jardín.
庭のチューリップが《花を》【つけた】」
(小学館西和中辞典;カッコ類は引用者がつけた)

「花」以外に色々な意味が辞書に載っていますが、中にはこんなものも。

「(ワインなどの表面に浮く)皮膜」(同)

Wine-Linkというサイトにもう少し詳しく載っていました。

「シェリーやヴァン・ジョーヌを樽で熟成させる際に出来る一種の上皮のような酵母の膜。
ワインを樽で熟成させる際に、あえて産膜酵母を生育させ、その酵母が生成する白い膜(=フロール)でワインを覆うようにすると、酸化は進まないが、特有の風味を与える。」

この意味限定の単語として英語に取り入れられており、英語での発音は[flɔ́ːr]なのでfloorと同音です。

「The flor is formed naturally under certain winemaking conditions, from indigenous yeasts found in the region of Andalucía in southern Spain.
(フロルは、葡萄酒づくりのある一定の条件下で、スペイン南部のアンダルシア地方に見られる土着の酵母から自然に形成される)」
ウィキペディア

イタリア語fiore

イタリア語のfioreフィオーレ(複数形はfioriフィオーリ)もflosの子孫です。

「offrire [regalare] i fiori
花を捧げる[供える]」
(小学館伊和中辞典)

フィレンツェ最大の観光名所かもしれない「花の聖母マリア大聖堂」は「cattedrale di Santa Maria del Fiore」です。

この「花」は何の花かと言うとgiglioジーリオ(英語lilyと同源)、すなわち百合(ゆり)です。

絵画の題材にされる「受胎告知」ではマリアの純潔の象徴としてこの花が描かれることが多いそうです。

いくつかの作品をウッフィーツィ美術館で見ることができます。

Simone Martiniシモーネ・マルティーニ作

Leonardoレオナルド作

ボッティチェッリ作

ラテン語flosの所で登場した「一番良い部分」という比喩的な意味もあり、次のように使います。

「Erano il fior dell'esercito.
彼らは軍隊の精鋭であった
È un fior di galantuomo.
彼は紳士の鑑(かがみ)だ」
(小学館伊和中辞典)

フランス語fleur

昔のフランス語ではスペイン語と同じつづりでflorでしたが、現代フランス語ではfleurフルール(複数形はfleursフルール)となっています。

「La fleur s'ouvre.
花が咲く
assiette [robe] à fleurs
花柄の皿[ドレス]」
(プログレッシブ仏和辞典)

「一番良い部分」の意味もやっぱりあります。

「femme dans sa fleur
美しい盛りの女性
la fine fleur de la société
社交界の華
fleur de farine
(小麦の)特上粉」(同)

英語flower

そしてようやく英語にたどり着きました。

ラテン語系統の言葉が昔の英語に入ってきた時はflourというつづりだったようです。

そしてblossomはまたまた領域を侵蝕され、「草の花」に関してflowerに譲り渡すことになります。

「arrange flowers 花を生ける
grow [plant] flowers
草花を栽培する[植える]」
(研究社新英和中辞典)

「開花」の意味ではやっぱり不可算扱いです。

「The orchids were in flower.
ランが満開だった」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

毎度おなじみ、「一番良い部分」。

「the flower of one's youth
若盛り
an anthology in which are collected the flower of English poets
英国詩人の精粋が集められている詩集」
(研究社新英和中辞典)

「花」の形容詞

「フローラルの香りが…」などと言いますが、そのfloralが源をたどればラテン語flosから来ていることがこれまでの流れでお分かりいただけると思います。

「floral designs
花模様
floral decorations
花飾り」
(同)

この英単語は直接的にはフランス語からの輸入品です。

「exposition florale
花の展覧会
art de l'arrangement floral
生け花」
(プログレッシブ仏和辞典)

「開花する」

昔のフランス語florirという動詞は植物が「開花する」こと、比喩的に人などが「繫栄する」ことを意味する言葉でした。

現代フランス語ではfleurirフルリールというつづりになっています。

「Au printemps les champs [les jardins] fleurissent.
春になると野原[公園]は一面花でいっぱいになる
Les romantisme florissait en France au XIXe siècle.
ロマン主義はフランスでは19世紀に隆盛を極めた」
(小学館ロベール仏和大辞典)

(2例目で見られるように、比喩的意味の場合に半過去形の語幹内でeurではなく、昔ながらのorが採用されることがあるそうです)

英語に輸入されたものは現代フランス語ではなく、昔のフランス語に基づくものなのでorの方になっています。

それがflourishです。

英語でも、草木が「繁茂する」や、事業などが「繁盛する」「隆盛する」として用いられます。

「Roses flourish in the English climate.
バラは英国の風土ではよく育つ
His business seems to be flourishing.
彼の商売は繁盛しているらしい」
(研究社新英和中辞典)

ここまでは確かに「開花」の意味合いが感じられます。

ところがどういうわけか、他動詞用法で「見せびらかす」「(見せびらかしに)振り回す」という用法が生まれました。

「He flourished his credit card.
彼はクレジットカードを見せびらかした
The guard flourished his pistol at the crowd.
警備員は群衆に向かってピストルを振り回した」
(研究社新英和中辞典)

群衆の中に潜んでいる、悪事を働く可能性のある人間に対して、「Don't even think about it.」というメッセージを暗に送っているのですね。

またまた「一番良い部分」

flosからここまでの話で何度か「一番良い部分」という意味が登場していましたが、特にフランス語fleurの項でご紹介した「fleur de farine(小麦の)特上粉」に関連して、英語でflourという単語があります。

「小麦粉」という製品になれるのは、根や茎その他を含む小麦全体の中の「一番良い部分」ということです。

flowerと語源を一にするものであり、現代英語でつづりが違っていても発音は[fláuər]で同一です。

「Blend the sugar, eggs, and flour.
砂糖、たまご、小麦粉を混ぜ合わせなさい」
(大修館書店ジーニアス英和大辞典 用例プラス)

物質名詞として、sugar同様に不可算の扱いですね。

動詞として「小麦粉を塗(まぶ)す」があります。

「After flouring a chicken, chill for one hour. The coating will adhere better during frying.
とり肉に小麦粉をつけたあとで1時間冷やしなさい。そうすれば焼いているときも小麦粉がはがれません」(同)

「小麦粉」

ラテン語系統の言葉flourですが、逆にラテン語系統の言語で「小麦粉」は、flosとは別語源の単語が使われています。

またまた持ち出しますが、「fleur de farine(小麦の)特上粉」は分析的に言うと「小麦farine+のde+一番良い部分fleur」であり、このfarineがその単語です。

これと共通の語源を有するのがスペイン語のharinaアリナであり、イタリア語のfarinaファリーナです。

farinaはイタリア人の名字によく使われます。

Battista Farinaバッティスタ・ファリーナにはPininピニンという愛称がありました。

「兄弟の中で1番小さい子」を意味します。

実際は11人兄弟の10番目の子ということなので、11番目の子が生まれる前に付けられた愛称なのかもしれません。

彼は長じて車体製造会社を創業します。

その名も「Pininfarinaピニンファリーナ」。

一番有名なのはいくつものフェッラーリ車のデザインを担当したことでしょう。

例えばこれ

「1961年、法務大臣の提案で、イタリアのグロンキ大統領は社会的で産業の活動における彼の業績を考慮、彼の姓をピニンファリーナ(Pininfarina)へと改名することを認可。」
ウィキペディア

というわけで、珍しい改名が行われたのでした。

お読みいただきありがとうございました。ではまた。

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