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STRIKEは「2」

『乗りものニュース』というニュースサイトより。

「米空母「ロナルド・レーガン」ベトナムへ寄港 海自「いずも」も来航で米大使「歴史的!」とも
https://trafficnews.jp/post/126640
アメリカ海軍の「ロナルド・レーガン」空母打撃群が2023年6月25日、ベトナム中部ダナンに寄港しました。
同国を訪問したのは、空母「ロナルド・レーガン」のほかに、ミサイル巡洋艦「アンティータム」と同「ロバート・スモールズ」です。(中略)
なお、それに先立ち23日には、海上自衛隊の護衛艦「いずも」と「さみだれ」の2隻が、ベトナムのカムランに寄港した後、同国海軍と親善訓練を実施しています。(以下略)」

特に説明も無くサラッと「空母打撃群」と書いてありますが、これはどういう英語を和訳したものかと言いますと「carrier strike group」です。

調べてみたところ、「carrier空母を中心としていくつかの艦を随伴させ、空母に搭載する航空機や、随伴する艦から発射するミサイルを使って陸上の目標をstrike攻撃するように編成されたgroup群」といった話のようです。

今回はこのstrikeという言葉の使い方を見ていきましょう

strikeの動詞用法

「打つ」という、強めの印象を与える言葉ですが、意外なことに元々は「軽く触る」の意でした。

同源のドイツ語streichenシュトライヒェンは「撫(な)でる」「擦(さす)る」などを主たる意味としています。

英語strikeの方はその後、時間の流れとともに「強く打つ」とか「攻撃する」などへと変質していったわけです。

直接目的語になる言葉の性質によって分類してみます。

打たれてしまう側

まずは【打たれてしまう側】が直接目的語になる場合です。人でも物でも、その衝撃を受ける側がstrikeの後に置かれます。

「The batter struck【the ball】.
バッターはボールを打った」

この文で主語は「打つ側の人」ですが、それとは違って主語が《何でもって打つのか》に当たるときは、「衝突する」「襲う」という訳語が適切となります。

「《The lorry》struck【the facade of a church】.
そのトラックはある教会の正面に衝突した
《A large enemy force》struck【a garrison near the capital】.
敵軍が多勢で首都近郊の駐屯地を襲撃した
《Hurricane Katrina》struck【the city of New Orleans】.
ハリケイン「カトリーナ」ニュー・オーリアンズ市を襲った」

strikeの古い形の過去分詞に由来する形容詞strickenは、その手前に《何でもって打つのか》をくっ付けて使用することもできます。

「a 《disaster》-stricken【area】
災害に襲われた地域⇒被災地」

アメリカのギター奏者Larry Carltonラリー・カールトンは西暦1981年/昭和56年に『Strikes Twice』というアルバムを発表しました。

何が「2回strikeする」のか?

アルバムには同じ題名の曲も収録されているのですが、器楽曲なので歌詞がありませんからそこからヒントは得られません。

(それはさておき、『Strikes Twice』は秀逸な曲です)
https://www.youtube.com/watch?v=cqeXvn2RB1I

答えはジャケットにありました。

ギターを弾くカールトンの背後には「稲妻」が描かれています。稲妻もハリケイン同様に「襲う」ものですからstrikeの主語になる資格があります。

もっとも英語人ならば『Strikes Twice』と見ただけで次のことわざが思い浮かぶのかもしれません。

「Lightning never strikes (the same place) twice.」

アルバム/曲の題名はこの言い古された表現を下敷きにしたものだったのです。

辞書によって多少異なる説明になっていますが、ことわざの言わんとするところはこうです。

Cambridge Dictionary
「悪いこと、珍しいことが同じ人物に2度起こることは考えにくい」

Easy Learning Idioms Dictionary
「並外れて幸運/不運であった人物が再び同じ幸運/不運に遭うことは考えにくい」

Merriam-Webster.com Dictionary
「非常に珍しい出来事が再び同じ人物に、あるいは同じ場所で起こることは考えにくい」

もっとも、こういった比喩的な話とは違って、実際の気象現象では「2回strikeしない」わけではないそうです。

アメリカのNational Weather Service国立気象局によると、「稲妻はしばしば、同じ場所に繰り返し落ちる。背が高く、尖っていて、他の物からぽつんと離れているものであれば特にそうなる。Empire State Buildingエンパイア・ステイト・ビルディングには平均して年間23回落ちている」ということです。

何でもって打つのか

《何でもって打つのか》が直接目的語になて、「打ち付ける」という訳語になる場合もあります。

「An angry John struck《his fist》on【the table】.
ジョンは怒って自分の拳(こぶし)をテーブルに打ち付けた」

この文では【打たれてしまう側】も前置詞onを介して登場しています。

【 】と《 》が逆の位置関係で登場することもあります。その場合、《何でもって打つのか》は前置詞withの助けを借ります。

「The boy struck【the nails】with《the hammer borrowed from his father》.
少年は父親から借りた金槌で釘を打った」

もたらされるもの

次の文では直接目的語は〔もたらされるもの〕です。(1例目のthe manは間接目的語です)

「The husband struck【the man】〔a blow〕in【the abdomen】.
夫はその男の腹に一撃を食らわせた
The composer tried striking〔a chord〕on【the piano】.
その作曲家はピアノで和音を鳴らしてみた
The Mint has begun to strike〔new coins〕.
造幣局が新しい硬貨の鋳造を開始した」

次のような抽象的なものにも使えます。

「Violence and looting struck〔terror〕into【his heart】.
暴力と掠奪(りゃくだつ)が彼の心に恐怖をしみこませた
We need to strike〔the right balance between regulating digital markets and encouraging innovation〕.
我々はディジタル市場を規制することと、革新を奨励することの間の適切なバランスをとる必要がある」

(「バランスをとる」の「とる」は「take」ではありません)

名詞用法

名詞としては「打撃」「攻撃」や、野球/ボウリングの「ストライク」がお馴染みです。

「ク」でなくて「キ」で表記する「ストライキ」は、日本語では「同盟罷業 (どうめい ひぎょう)」と言うそうですよ。

この「罷」という漢字は、見かけるとすれば「問題の有った大臣を罷免(ひめん)する」といった場合が一般的だと思います。「罷免」の場合の「罷」は「役目を辞めさせる」の意です。

一方「罷業」の場合の「罷」は「仕事を中止する」ことを表します。

strikeがなぜ「共通の目的を達するために同一行動をとると約束して(⇒同盟)、仕事をしない」ことになるのか…

Online Etymology Dictionaryには2つの説が載っています。いずれも、strikeに「おろす」という意味があることがカギとなります。

①労働者が工具を「下ろす」⇒仕事をしない

②船乗り達が帆を「降ろす」⇒船出を拒む

「軽く触る⇒打つ」は他にも

strokeその1

strikeと同じ意味の変遷を経た単語がstrokeです。

これまたstrike同様に、スポーツ(例えばゴルフ、テニス、水泳など)で見かける言葉でもあります。

「The golfer won by three strokes.
そのゴルフ選手は3打差で勝った
The tennis player stepped forward to hit a backhand ground stroke.
そのテニス選手は、地面でバウンドしてきた球を逆手で打とうとして一歩踏み出した
The second swimmer does breaststroke.
(メドレー・リレーでは)第2泳者は平泳ぎをする」

動作としての「ひと打ち/ひと掻き」や、総合的に方法を言う「打法/泳法」を意味します。

やはり「ひと▲▲」の仲間と言える、「ひと筆」や「キーボードのひと打ち」という動作を表すこともあります。

「The painter poured his heart into art with strokes of the brush.
その画家は自分の心を、絵筆を揮(ふる)うことで美術作品の中に注ぎ込んだ
This software monitors every keystroke typed by a user.
このソフトウェアは利用者が打ったキー操作を逐一監視する」

また、strikeの項で登場したlightningにもstrokeが「打撃」「一撃」として使われます。

「The mighty tree was split by a stroke of lightning.
その巨大な木は稲妻の一撃によって裂けた」

雷は「ただ大きな音がするだけ」「ただ光るだけ」だったらいいのですが、その電気エネルギーがもたらす被害は全くシャレにならず、恐ろしいものです。

『【落雷の瞬間】大雨のなか火花が 「一瞬で燃えた」住人語る恐怖(2023年7月5日)』
https://www.youtube.com/watch?v=-4SAL6R6ZeE

脳卒中などの「一撃」「発作」を表すこともあります。

「a fatal stroke
死の一撃(◇卒中など)
have [suffer] a stroke
脳卒中で倒れる」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

strokeその2

辞書には別個の項目として、同じつづりのstrokeがもう1つ載っています。これも「軽く触る」から来ていますが、こちらは現在も元々の意味に近い意味「撫(な)でる」で使われます。つまり先程のドイツ語streichenと同じです。

「The girl smiled and stroked her dog on the back.
少女は微笑み、飼い犬の背中を撫でた」

また、慣用表現として「stroke ▲▲ the wrong way」あるいは「stroke ▲▲'s hair the wrong way」というのが載っています。この場合のwrongは「逆」という意味であり、日本語でも言う「▲▲(の気持ち)を逆撫でする」ことを意味します。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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