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あなたの周りに潜むPRIMEとその一味

最近の新聞の1面には「我が国の地震」と「アメリカの大統領選挙」の記事が並んでいることがあります。

この2つはもちろん、事柄としては関連はありません。

しかし地震と米大統領選を語る時に出てくる言葉に共通のものが、私の知る限り少なくとも1つあります。

「新幹線1.3秒で緊急停止、JR東日本が新技術導入へ
日刊工業新聞 2023年12月07日
JR東日本は2024年3月から、地震発生時により早く新幹線を緊急停止できる技術を導入する。地震の初期微動(P波)をもとに高い精度で地震規模(マグニチュード)を推定し、新幹線への送電停止までの時間を平均で2・6秒短縮して1・3秒とする。」
https://newswitch.jp/p/39595

「トランプ氏、共和予備選で連勝 ヘイリー氏は選挙戦継続
[マンチェスター(米ニューハンプシャー州) 23日 ロイター] - エジソン・リサーチの予想によると、米大統領選に向けた共和党候補指名争い第2戦の東部ニューハンプシャー州予備選は、トランプ前大統領が勝利した。党内での優勢をさらに強め、本選でバイデン大統領と対決する可能性が高まった。」
https://jp.reuters.com/world/us/ISG57SO2UZJO3DXS4YIHOJV37A-2024-01-24/

「初期微動(P波)」は「primary wave」、「予備選(挙)」は「primary election」となりますから、primaryプライメリが共通です。

primary

「第1位の」などを意味するラテン語primariusが語源で、英語においてはfirstと使い方が重なることもあります。

面白いもので、「ランキングで1つ目」だとそれは「1番上」を意味するのに対して、「階段/段階で1つ目」ならば「1番下」ということになります。

前者での使い方はこうです。

「首位の,主な,主要な
a primary suspect
第一容疑者
one's primary goals in life
人生の主要目的
of primary concern
いちばん関心のある」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

後者の使用例は以下のようなものです。

「primary education
初等教育
the primary stage of civilization
文明の初期段階」(同)

「予備選挙」はこちらの方でしょうし、primary colorすなわち「原色」も後者タイプだと思います。

(primary electionもprimary colorも、「primary」とだけ言う名詞用法があります)

premier(とその仲間)

フランス語では

ラテン語primariusがフランス語に入ってpremierプルミエとなりました。

英語primaryと似たような守備範囲です。

「1番上」タイプだと

「Cet élève est premier en maths.
その生徒は数学で第1位の成績だ
avoir le premier rôle
主役を務める
événements de première importance
極めて重大な出来事」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

であり、「1番下」タイプでは

「Je suis en première année de droit.
私は法学部の1年生です
les premiers secours
応急手当
retrouver son ardeur première
当初の熱意を取り戻す」(同)

という感じです。

フランス語では、説明対象の名詞が複数であったり、女性名詞であったりすると形容詞であってもそれに対応する形に変化します。

例文中のpremiersは複数形であり、premièreプルミエルは女性形です。

(尚、同語源のスペイン語primeroプリメロはその女性形premeraプリメラが、かつて日産が製造販売していた車種「プリメーラ」に使われていました)

英語では

primaryが直接ラテン語から借用したのに対して、このフランス語が英語に入ってきた形がpremierです。

([primíəプリア]か[prémiəプミア]と発音します)

「第1位の」か「最初期の」を表します。

「1番上」タイプの使い方でよく知られているのが、イングランドのサッカー・リーグであるPremier Leagueプレミア・リーグでしょう。

フランス語の女性形premièreも英語に入ってきており(つづりのèはeに置き換わっていますが)、[primíərプリアル]あるいは[prémièəプミエア]と発音します。

演劇の「初日」、映画の「特別封切」のことです。

「Rossini’s work had its premiere at the Paris Opera.
(ロッシーニのその作品はパリ・オペラ座で初演が行われた)」
(ロングマン現代英英辞典)

動詞用法もあります。

「The movie premiered on December 21,1937.
(その映画は1937年12月21日に封切られた)」(同)

映画に関する記事でよく「ワールド・プレミア」とかいうやつがこれですね。

「「キック・アス」「キングスマン」シリーズを手掛けたマシュー・ボーン監督の最新作「ARGYLLE アーガイル」のワールドプレミアが1月24日(現地時間)、ロンドンのレスター・スクエアで行われ、ボーン監督のほか、ヘンリー・カビル、ブライス・ダラス・ハワード、デュア・リパ、サム・ロックウェル、サミュエル・L・ジャクソンらが出席した。」
映画.comのサイトより)

偽物にご注意

「プレミア」とカタカナ表記されているものにはこのpremier/premiereとは無関係のものもあります。

別語源の英単語premiumプリーミアムと混同しませんように。

「プレミアム
4 入場券などの、正規の料金の上に加えられる割増金。プレミア。「—がつく」
5 商品につける景品や懸賞の賞品。プレミア。「—セール」
6 (形容詞的に用いて)高級な。上等な。「—ビール」」」
(小学館デジタル大辞泉)

「プレミアム」が「プレミア」となったのは言い間違えなのか、それともpremiumの複数形がpremiaであることから来たものか、その辺りは分かりません。

かつて「ジャパン・プレミアム」いうものがありました。

「ジャパン・プレミアム(Japan Premium)とは、日本の金融機関が海外の金融市場から資金調達するとき上乗せされた、その他の国の(表向きは同程度の信用力とされる)金融機関より高い金利のことである。」
ウィキペディア

金融機関にお勤めの方はさぞ苛々(いらいら)なさったことでしょう。

prime

primaryやpremierがラテン語primariusから来ていることは前述したとおりですが、このprimariusはそもそもprimusという言葉に-ariusという接尾辞が付いて出来たものでした。

そしてprimus単体の方の子孫も英語に入ってきています。

primeプライムです。

基本的な形容詞用法と名詞用法

「1番上」系では

「prime building lots
第一等の建設用地
in prime condition
最良の状態
a prime concern
最大の関心事」
(研究社新英和中辞典)

という形容詞用法と、

「in the prime of life [manhood]
壮年期に, 血気盛りの時に
She's in her prime.
彼女は女盛りだ」(同)

という名詞用法があります。

「Amazonプライム」や「東証プライム」は「1番上」系の名称なのでしょう。

「1番下」系では

「the prime cause
根本的原因」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「In mathematics, a prime number is a whole number greater than 1 that cannot be divided exactly by any whole number except itself and the number 1, for example 17.
(数学において、素数とは1より大きな整数でかつ、「その数字そのもの」と「1」以外の整数では割り切れないものを言う。例えば17)」
(Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary)

が形容詞用法、

「the prime of the moon
新月
the prime of the year
春」
(研究社新英和中辞典)

が名詞用法です。
(文脈次第で、「prime」だけでも「素数」を意味ことが可能です)

「1番下」系は、語源的つながりのあるprimitiveを連想させます。

「primitive man
原始人
primitive passions
根元的な感情」(同)

「′」の名前

「プライム(′)は「x′」のように文字や数字の肩に添えられる類似物や単位量の分割などを示す記号で、(中略)ペンで素早く書きつけることからダッシュとも呼ばれる。」
ウィキペディア

「時 ⇒ 分 ⇒ 秒」や「ヤード ⇒ フィート ⇒ インチ」など、⇒の方向に細かく分割されていく単位量があります。

「分/フィート」を「時/ヤード」の「【第1段階の】《小》〔部分〕」、「秒/インチ」をそれより更に分割された「【第2段階の】《小》〔部分〕」と考えます。

ラテン語で「〔pars〕《minuta》【prima】」「〔pars〕《minuta》【secunda】」となりますが、この【prima】が英語でprimeということです。

Major League Baseballのサイトで、例えば大谷翔平選手のページを開くと「6′4"」と載っていますが、彼の身長をヤード・ポンド法で「6フィート4インチ」と表しているわけです。

時間の場合は「′」は「分」の数字に付きますが、英語やその他ヨーロッパ言語で「分」をminuteなどと呼ぶのは《minuta小》の方を採用してしまったからです。

「"」=「秒」も《minuta小》であるわけですが、こちらは【secunda第2段階の】の方を生かして区別し、secondなどと呼ばれていることはご存じの通りです。

「1番下」に塗る

primeには動詞用法もあり、例えば「前もって教え込む」の意味があります。

「The President was primed with the latest data by his aides.
大統領は補佐官たちから最新のデータを提供された」
(研究社新英和中辞典)

その他、壁などに「下塗りをする」ことも表し、その用途に使う塗料をprimerプライマと呼びます。

「プライマー塗装とは外壁や屋根を塗装する際、最初に行う「下塗り」のことで、その後に塗る中塗りや上塗り用塗料の密着性を高める接着剤としての役割と、塗装面の凸凹をなめらかに整える役割をになっています。」
「ハピすむ」のサイトより)

「壁」以外に「顔」にも塗ります。

「化粧品の「プライマー」は化粧下地の一種!使い方やおすすめ20選
化粧品のプライマーとは、簡単にいうと「化粧下地」のこと。建設工事の現場で扱われるプライマーのように「下地」という意味であることに変わりありません。くすみや毛穴など肌悩みに特化したものも多く、ベースメイクの仕上がりを良くしてくれるお役立ちコスメです。」
「CanCam」のサイトより)

primo/prima

プリモ店

かつてホンダの販売店は「プリモ店」とか「クリオ店」とか「ベルノ店」といった販売チャンネルに分かれていました。(現在は解消)

「プリモ」はイタリア語primoから来ていると思われますが、もちろんラテン語primusの子孫です。

primoの語尾の母音を取り替えると女性形primaになります。

プリマ

「プリマ」と聞いて思い出すのが、「プリマ・ドンナ」「プリマ・バッレリーナ」といったところでしょうか。

prima donna(donnaはladyに相当するイタリア語):オペラで「主役=1番手」となる女の歌手

prima ballerina:バレエで「1番手」となる女の踊り手

もうひとつ、「プリマハム」もプリマから連想される言葉です。

同社のサイトで沿革を見ると、社名を「プリマハム株式会社」に変更したという項目に載っているロゴの画像がバレエ・ダンサー男女の2人の絵になっているのが判ります。

(尚、同社は東証プライムに上場しています)

春は花の季節

1月も下旬となり、立春も間近です。

とは言え、『早春賦』の歌い出しにもあるように、「春は名のみの風の寒さや…」となりそうですが。

『早春賦(♬春は名のみの)歌詞の意味つき byひまわり🌻×9 合唱【日本の歌百選】』
https://www.youtube.com/watch?v=Ibyh1pAbKIY

春になって「1番目」に咲く花、が由来だという説もあるのがprimroseです。
(日本語ではサクラソウ)

中世のラテン語でprimaとrosaから作られた言葉だそうです。

英語ではprimroseプリムロウズですが、フランス語ではprimevèreプリムヴェールと呼びます。

前半primeはともかくとして、後半の要素vèreは「春」を意味します。

early springに咲く花、ということです。

これと同語源の単語をイタリア語とスペイン語に求めると、どちらもprimaveraというつづりで存在します。
(イタリア語では「プリマヴェーラ」、スペイン語では「プリマベラ」)

しかしprimaveraは花の名前ではなく、単に「春」という季節名を表すに過ぎません。

では取って返して、フランス語では季節名「春」は何というのか。

printempsプランタンがそれであり、これはprinまでがfirstという要素、tempsが「時」「季節」を意味する要素です。

premierとprimeをまたいで

内閣を構成する大臣たちの中で「席=第1位の席次」の人を一般名詞として「首相」と呼びます。

我が国で「首相」に当たる人の名称は「内閣総理大臣」です。

イギリスの「首相」は英語で「Prime Minister」であることはお馴染みでしょう。

しかし英和辞典のpremierの項を見るとここにも「首相」という訳語が載っています。

英語から見て日本、フランス、イタリアなどの「首相」をpremierで表現するとのことです。

また、イギリスはご存じのように「連合王国」であり、Scotlandスコットランド、Walesウェイルズ、Northern Ireland北アイアランドの「首相」はfirst ministerとなります。

primeとpremierとfirstの「共演」です。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

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