見出し画像

STORMは「嵐」だけではないし、「嵐」はSTORMだけではない

Tom Cruiseトム・クルーズの映画の内の2つ、『Top Gun』と『A Few Good Men』。

どちらにおいても彼はアメリカ海軍に所属する軍人を演じていて、前者ではもちろん戦闘機パイロットの、後者では法務部勤務の法務官の役です。

この2つの作品の要素を混ぜ合わせたテレビ・ドラマが『JAG』です。
(クルーズが出演しているわけではありません)

戦闘機パイロットとして勤務していたものの、夜盲症と診断されてその道を諦め、法律の勉強をして海軍法務部(Judge Advocate General's Corps)へと異動してそちらで活躍する、といった話です。

西暦1995年/平成7年から2005年/17年にかけて、シーズン10まで放映された人気シリーズでしたが、2と3のオープニングには次のようなナレーションが入っていました。

「Following in his father's footsteps as a Naval Aviator, Lieutenant Commander Harmon Rabb, Jr. suffered a crash while landing his Tomcat on a storm-tossed carrier at sea.(以下略)
(海軍パイロットとしての父親の足跡をたどる中で、ハーモン・ラブ・ジューニャ少佐は操縦するF-14戦闘機を、航海中に暴風で揺さぶられる空母に着艦させるに際に(甲板に)激突するという経験をした)」

実際の映像をご覧ください。

『JAG - opening credits』
https://www.youtube.com/watch?v=Rv2BbUOW6Ys

▲▲+ハイフン+過去分詞

ここで登場するstorm-tossedという形容詞を分析すると、tossedは他動詞toss(激しく揺らす)の過去分詞に由来するので「激しく揺らされた」という受け身の意味合いになります。

受動態の文であれば「be tossed by a storm」といった具合にtossedの後ろに前置詞の助けで登場する要素stormを、前置詞by無しでハイフンを介して前に置いていることになります。

同様の組み立て方をした言葉の例として2つご紹介します。

①strikeの他動詞用法の1つ「襲う」を使ったdisaster-stricken「災害に見舞われた」

「Even when entering a fixed telephone number in a disaster-stricken area, be sure to include the area code.
(固定電話の番号を被災地内で(災害用伝言ダイヤルに)登録するときであっても、必ず市外局番を含めて下さい)」
NTT東日本の英語ページより)

②rideの他動詞用法の1つ「苦しめる」を使ったdebt-ridden「借金苦の」

「Atlanta is the most debt-ridden metro among the 50 largest, with residents owing an average of $45,891 in non-mortgage debt.
(アトランタは最大規模の主要都市圏行政府50の内、最も負債に苦しんでおり、そこの住民は住宅ローン関係を除いて平均4万5891ドルを借りている計算になる)」
LendingTreeというサイトより)

stir

さて今回はstormを中心にしたお話をするのですが、前段階として、同源の言葉stirから始めます。

物理的なstir

物理的に「掻(か)き回す」「掻き混ぜる」ことを言う用法です。

「stir up the mud at the bottom of a pond
池の底の泥をかき回す
She stirred sugar into her tea.
彼女は砂糖をかき回しながらお茶に混ぜた」
(研究社新英和中辞典)

名詞用法もあります。

「Give the mixture a good stir.
(食材を合わせたものに十分な掻き混ぜを与えてください⇒よく掻き混ぜてください)」
(Online OXFORD Collocation Dictionary)

必ずしも「回転」という動きだとは限りません。

「The breeze stirred the leaves.
そよ風が木の葉を揺り動かし(てい)た」
(研究社新英和中辞典)

より抽象的なstir

文字通りではないstirの用例を、動詞用法・名詞用法の順で引用します。

「stir up a demonstration
デモを扇動する
The news made [created, caused] quite a stir.
その知らせで大騒ぎになった」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「煽る」とか「騒ぎ」は「掻き混ぜ」だと言えるでしょう。

「人」や「感情」を直接目的語にすることもあります。

「He stirred the other boys to mischief.
彼はほかの少年たちをそそのかしていたずらをさせた
There's nothing like a sleeping child to stir up affection in the beholder.
眠っている子供の姿ほど見る人の愛情をかき立てるものはない」
(研究社新英和中辞典)

storm

このようなstirの「掻き回す」感覚がstormにも宿っています。

物理的なstorm

もちろん「嵐」です。

「A terrible storm caught the party on their way back.
一行は帰途恐ろしい暴風雨に襲われた」(同)

この例文では主語stormに組み合わされる動詞はcatchでしたが、それ以外にどんな動詞を取ることが可能か、Online OXFORD Collocation Dictionaryからいくつかご紹介します。

・自動詞用法
「The storm raged all night.
(その嵐は終夜猛威を揮(ふる)った)
The storm broke while we were on the mountain.
(その嵐は我々がその山にいた時に急に起こった)」

・他動詞用法
「It was the worst storm to hit London this century.
(今世紀ロンドンを襲った嵐として最悪のものだった)
Winter storms swept the coasts.
(冬の嵐がたびたび沿岸地方で荒れ狂った)」

アメリカのバンドStarshipスターシップの曲『Sara』(西暦1986年/昭和61年)の歌詞にstormが登場します。

歌詞中1人称である男と、2人称である女Saraとの間の愛情関係が破綻する内容の歌です。

「Storms are brewing in your eyes」

stormを主語にする動詞のもう1つの例としてbe brewing(今にも起ころうとしている)をご紹介したわけです。

「嵐」的な勢いのあること

比喩的に使うとこんな感じです。

「a storm of applause
あらしのような拍手かっさい.
a storm of tears
あふれ出る涙」
(研究社新英和中辞典)

動詞として使うと…

「storm out of the room
怒って部屋から出て行く」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「storm at a person
人をどなりつける
The enemy stormed the castle.
敵が城を襲撃した」
(研究社新英和中辞典)

「疾風怒濤」

ところで、英和辞典を引くとこんな記載が。

「storm and stress
疾風怒涛
(◇18世紀後半ドイツに起こった文芸運動Sturm und Drangの英訳)」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

もう少し詳しく…

「18世紀後半、若き日のゲーテ・シラーなどを中心にドイツで興った文学革新運動。理性偏重の啓蒙 (けいもう) 主義に反対し、感情の自由と人間性の解放とを強調した。クリンガーの同名の戯曲に由来する名称。」
(小学館デジタル大辞泉)

これに沿ってstorm and stressの訳語を選択するならば「感情激発と切迫」となるでしょうか。

ドイツ語Sturm

元々のドイツ語Sturmシュトゥルムは見た目からお判りのようにstormと同源です。

「Der Sturm wütet.
あらしが荒れ狂う」
(小学館プログレッシブ独和辞典)

但し英語のstormとちょっと違うのは、Sturmには「雨」の要素が含まれず、「強風」であることのみを表します。

ですから「暴風」と言いたければ「雨」の要素を付け加えて「Sturm und Regen」とします。

以下の例文では比喩的「嵐」である「興奮」や「突撃」です。

「Sein Barometer steht auf Sturm.
彼は一荒れしそうな雰囲気だ
eine Stadt im Sturm erobern
町を強襲して攻略する」(同)

ところでSturmシュトゥルム undウント DrangドラングのDrangは「衝動、切迫」の意です。

ですからこの文芸運動のことを「疾風怒濤=激しい風と激しい大波」というように和訳すると、本来ドイツ語で言っていることが伝わりにくい感じがします。

英語tempest

英語で「嵐」と言えば「テンペスト」を思い起こされる方もいらっしゃるでしょう。

文芸・音楽の分野で、有名な作品の題名として使われているからです。

「テンペスト【The Tempest】 の解説
1⃣シェークスピアの戯曲。5幕。1611年作。弟に領地を奪われたミラノの公爵が、魔法によって嵐を起こし、弟らの船を難破させ復讐するが、のちに和解し領地に帰る。作者の最後の作品。

2⃣ベートーベンのピアノソナタ第17番の通称。ニ短調。1802年の作。名称は、ベートーベンが弟子のシンドラーに、同曲の理解のために1⃣を読むよう語ったという逸話にちなむ。」
(小学館デジタル大辞泉)

stormがゲルマン語系統なのに対して、tempestはラテン語系統であり、昔のフランス語tempesteを輸入したものです。

stormより一層強い暴風雨のことを指すようです。

「the sudden summertime tempest drove us off the golf course and into the clubhouse
(その突然の夏の暴風雨のせいで我々はゴルフ・コースからクラブハウスへと追い立てられた)」
(Merriam-Webster)

そしてやはり比喩的な「嵐」である「騒動」「大混乱」を意味することもあります。

「I hadn't foreseen the tempest my request would cause.
(私は、自分の要請が惹き起こすであろう騒動を見越していなかった)」
(Collins Thesaurus of the English Language – Complete and Unabridged)

ラテン語系統の言語でのtempest

スペイン語tempestadテンペスター、イタリア語tempestaテンペースタ、フランス語tempêteトンペットの例文を引用します。

「文字通り」「比喩的」の両方がやはりあることがご覧いただけます。

「Se desencadenó una tempestad y tuve que refugiarme en una cueva.
あらしが吹き荒れて,私は洞穴に避難せざるを得なかった.
una tempestad de aplausos
あらしのように沸き上がる拍手
una tempestad de las pasiones
激情の嵐」
(小学館西和中辞典)

「La tempesta s'avvicina [si calma].
嵐が近づく[静まる]
tempesta di pugni
げんこつの雨」
(小学館伊和中辞典)

「La tempête fait rage.
嵐が荒れ狂う
Le concert s'est terminé dans une tempête d'applaudissements.
コンサートは嵐のような拍手喝采(かつさい)のうちに幕を閉じた
Cette loi va déchaîner des tempêtes.
この法律は激しい議論を巻き起こすだろう」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

もうちょっと深掘りすると…

英語tempestも含め、各言語とも「temp」で始まっていますが、「temp」と言えば例えばtemporary「一時(いっとき)の」等、「時間」に関係する言葉であるという感覚をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

ラテン語の諺「tempus fugit時は逃げる(光陰矢の如し)」は普通「Time flies.」と英訳されますしね。

tempestasという言葉の意味が、「時の区切り、つまり時期」⇒「天候の区切り、つまり季節」⇒「悪い天候」⇒「嵐」というように、長い年月の中で変化していったらしいです。

そう聞くと、timeの意味の各国語がweatherの意味も併せ持つというややこしい事態もやむを得ないか、と諦(あきら)めがつきます。

「¡Cómo pasa [vuela] el tiempo!
時間のたつのはなんと早いことか
¿Qué tiempo hará mañana?
明日の天気は」
(小学館西和中辞典)

「Il tempo passa in fretta.
は早く過ぎる
Che tempo fa oggi?
今日はどんな天気ですか」
(小学館伊和中辞典)

「Le temps passe vite.
はたちまちのうちに過ぎ去る
Quel temps fait-il?
どんな天気ですか」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

世界各地の「暴風雨を伴う熱帯低気圧」

昭和60年に発売された楽曲『翼の折れたエンジェル』は高橋研という方が作詞・作曲・編曲を担当した作品です。

歌詞の中に「ハリケーン」という言葉が出てきます。

日本にハリケーンはやって来ないので、(野暮なことを言っているのは承知ですが)科学的事実に反しています。

もっともこの曲がアメリカなどを舞台とする物語なら話は別ですが。

hurricaneハーラケインとは…

大西洋西部のカリブ海・メキシコ湾で発生する、暴風雨を伴う強い熱帯低気圧。最大風速が毎秒33メートル以上のものをいう。」
(小学館デジタル大辞泉)

ですから、日本を毎年襲う「颱風/台風」を英訳するのにhurricaneを用いるのは不適切であり、typhoonタイフーンとします。

(尚、インド洋で発生するのがcycloneサイクロウンです)

イタリアの自動車製造会社Automobili Lamborghiniアウトモービリ・ランボルギーニは、よく車種名にスペイン語を使います。

Revueltoは、スペイン語としての発音は「レブウルト」であり、多岐にわたる意味の中には「騒乱」「乱闘」というのもあります。

Diabloは「ディブロ」=「悪魔」、Murciélagoは「ムルシラゴ」=「蝙蝠(こうもり)」。

そういった名前の付いた闘牛用の牛がかつて存在していて、そのイメージに肖(あやか)った車名となっています。

ランボルギーニの紋章は牛なので。

(同社の車種がすべて闘牛由来というわけでも、すべてがスペイン語というわけでもありません)

そしてもう1車種、Huracánウランも闘牛の名前ですが、普通名詞としてはhurricaneに相当する言葉です。

と言うよりも、huracánが先で、英語hurricaneがそれを借用したという順番です。

イタリア語uraganoウラガーノ、フランス語ouraganウラガンも同様にスペイン語から来ています。

大元はラテン語ではなく、カリブ海地域タイノ語の言葉を征服者スペインが取り入れたのでした。

hurricaneという言葉は時にロックの曲に採用されますが、暴風雨の持つ強力さ、凶暴性などのイメージを採り入れたいのでしょうか。

『Scorpions - Rock You Like A Hurricane (Live In Mexico, 23.03.1994)』
https://www.youtube.com/watch?v=TIXUOQ4B0hM

『VOW WOW 「Hurricane」 ベストサウンド』
https://www.youtube.com/watch?v=cor9-XcTpww

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?