見出し画像

DREAMってさすがによく音楽に使われるよね

つい先日、関東・北陸・四国で春一番が吹いたというニュースがありました。これからだんだんと過ごしやすい陽気になり、やがては「暑すぎてかなわない。避暑地で過ごしたい」と感じる季節になっていくのでしょう。

ついこの間までは「寒すぎて難儀する。温暖な地域に住みたい……」。

1965年/昭和40年に発表された、アメリカの歌手グループthe Mamas & the Papasザ・マーマズ・アン・ザ・パーパズの曲『California Dreamin'』はそんな気持ちを歌ったものです。

「The song was written in 1963 while John Phillips and Michelle Phillips were living in New York City during a particularly cold winter, and the latter was missing sunny California.
(この歌が書かれたのは1963年のことで、当時(メンバーである)フィリップス夫妻は特別に寒い冬、ニュー・ヨークに居住しており、(妻)ミシェルの方は(故郷である)陽光溢れるキャラフォーニャを懐かしく思っていた)」
ウィキペディア

『The Mamas & The Papas - California Dreamin'』
https://www.youtube.com/watch?v=N-aK6JnyFmk

今回はdreamという単語を取り上げます。

英語dream

古い時代の英語においてdreamという単語は「喜び」「陽気な騒ぎ」、更には「音楽」を意味していました。

それが「夢」のことになった経緯はまだ解き明かされていないそうです。

寝ている間に見る「夢」

「have a dream of home
故郷の夢を見る」
(研究社新英和中辞典)

「a dream about winning the lottery
宝くじにあたる夢」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

何についての夢なのか、を語るときには前置詞ofやaboutを置きます。

動詞として用いる場合も同じ前置詞です。

「I dreamt of [about] you last night.
昨夜あなたの夢を見ました」
(研究社新英和中辞典)

辞書にはこんな表現も載っています。

「in your dreams
((略式))せいぜい夢でも見ていろ」(同)

もうちょっと詳しく、英英辞典で確認してみましょう。

「used to say in a rude way that something is not likely to happen
(あることが現実には起こりそうもないと無作法に言うのに使われる)」
(ロングマン現代英英辞典)

「something you say to someone who has just told you about something they are hoping for, in order to show that you do not believe it will happen
(望んでいることについてあなたに語ったばかりの人に、それが起こるとはあなたは信じていないことを示す目的で言うこと)」
(Cambridge Dictionary)

結構ひどい言い草、ということなんでしょうね。

「悪夢」はbad dreamでOKですが、nightmareという単語もご存じのことと思います。
(「ナイトメア」の「ナ」を強く読みます)

「Years after the accident I still have nightmares about it.
(その事故から何年も経っているのに私は依然としてそれについての悪夢を見る)」
(ロングマン現代英英辞典)

nightはいいとしてmareって何だ?と思われるでしょう。

これは「妖魔」のことで、この意味は廃れてしまってnightmareの中だけで辛うじて生き残っている状態です。

それを理解したうえでもう一度辞書を見ると「悪夢」の他に

「夢魔(◇寝ている人を窒息させるという怪物または悪霊)」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

という訳語が載っています。

こちらが先で、その後にその魔物が惹き起こす「悪夢」という現象を意味するようになりました。

そちらの方面は全く知らないので引用するだけにしておきますが、「ダークライ」というポケモンの「特性」は「ナイトメア」だそうですね。

「他者を深い眠りに誘い、恐ろしい悪夢を見せる能力を持つ。」
ウィキペディア

白昼夢

まずは国語辞典でこの言葉を確認しましょう。

「日中、目を覚ましたままで空想や想像を夢のように映像として見ていること。また、そのような非現実的な幻想にふけること。白日夢。」
(小学館デジタル大辞泉)

この現象もdreamですが、より明示的にwaking dreamとかdaydreamと言うこともあります。

アメリカのバンドThe Monkees(つづりにご注意)が西暦1967年/昭和42年に発表した曲『Daydream Believer』のdaydreamですね。

『The Monkees - Daydream Believer (Official Music Video)』
https://www.youtube.com/watch?v=xvqeSJlgaNk

似たような感じで「ぼんやりした状態」も意味します。

「She gazed around in a dream.
彼女はぼんやりとあたりを見渡した」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

夢じゃなかろうかと思ってしまうほどの「素晴らしいもの」

「It's a dream of a house!
まさに理想的な家だ
She's a perfect dream.
彼女はまさに理想の女性だ」
(研究社新英和中辞典)

「大きくなったらでんしゃのうんてんしゅさんになりたいです」とかの「夢」

実現させたい「理想」などと言い換えることもできましょう。

「a person's dream of becoming [to become] president
大統領になりたいという夢
fulfill [realize, achieve] one's dream
夢をかなえる」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

1例目ではdreamの内容をofの句やto不定詞を使って述べています。

「寝ているときの夢」とは異なり、こちらの「夢」は「叶(かな)える」という動詞をしばしば伴いますが、2例目に出てくるような動詞がそれに対応する英語です。

これらはdreamを直接目的語にする他動詞として登場していますが、一方、dreamが主語になって「叶う」と言いたい場合には例の表現の出番です。

「Dreams sometimes come true.
夢は実現することもある」
(研究社新英和中辞典)

dreamと「come true」の組み合わせはお馴染みだと思いますが、ちょっと次の文をご覧ください。

「First of all, I’m really happy to be here at Manchester United. It’s my dream come true.」

It's a dream come true to be wearing this shirt.」

ブラジル人サッカー選手のAntonyアントニが、イングランドのサッカー・クラブ「Manchester Unitedマンチェスター・ユーナイテッド」に一昨年加入した際に受けたインタビューからの引用です。

慣れていないと文の構造の解釈に戸惑う表現です。以下のような感じに受け取ってしまうかもしれません。

①「【It’s my/a dream】come true」
【 】の中でSVCがすでに完成しているのでcome trueが余計

②「It’s《my/a dream come true》」
《 》の中がSVCだとするとIt’sの役割が不明

①と②、どちらのカッコの解釈を採用するにしても余計な部分が付いてしまっていて戸惑う、という具合です。

しかも②の場合、述語動詞であると思ったcomeが「3単現」のcomesじゃなくて良いのか?というさらなる疑問が。

結局①も②も誤った解釈です。

「不規則動詞を覚えよう」という時にcomeは「come - came - come」と暗記すると思いますが、その過去分詞の方のcomeがここで出てくるものの正体です。

つまり「分詞の形容詞的用法」などと習うものであり、自動詞comeの過去分詞は「完了」を表しますから「come true」で「本当になった~~」という意味合いを持ってdreamを修飾するわけです。

「First of all, I’m really happy to be here at Manchester United. It’s my dream come true.
(最初に、私はここマンチェスター・ユーナイテッドに来れてほんとに幸せです。それは叶った私の夢です)」

「It's a dream come true to be wearing this shirt.
(このユニフォームを着ているのは叶ったひとつの夢です)」

「夢にも思わない」

動詞dreamを否定文で使う、「夢にも思わない」という日本語と対応する表現があります。前置詞はofを用います。

「I wouldn't dream of breaking the law.
法律を破ることなんて夢にも思わない」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

否定語を先頭に持ってくるやり方は、英語学習で「倒置」を習う時の定番の一つです。

Little [Never] did I dream [I little dreamed] of meeting her.
彼女に会おうとは夢にも思わなかった」
(研究社新英和中辞典)

dreamの後にthat節が続くタイプは過去形で使われるようです。

「I never dreamed that I should have offended her.
彼女の感情を傷つけたとは夢にも思わなかった」(同)

ドイツ語では

ドイツ語で「夢」はTraumトラオムですが、見た目から判るようにdreamと同源です。

「Ich habe meine Mutter【im Traum】gesehen.
私は【夢の中で】母の姿を見た
【Mein langjähriger Traum】hat sich erfüllt.
【私の長年の夢】が実現した」
(小学館プログレッシブ独和辞典;【 】は引用者がつけた。以下同様)

動詞形は「a」がウムラウトになって、träumenトロイメンです。

「Ich【habe】von meiner Mutter【geträumt】.
私は母の【夢を見た】
Sie【träumt】davon, Sängerin zu werden.
彼女は歌手になることを【夢見ている】」(同)

この動詞に接尾辞-ereiを付けて作られた名詞がTräumereiトロイマライであり、シューマン作のピアノ曲の題名としてご存じの方も多いでしょう。
(「トロイマライ」の「ラ」を強く読んでください)

「『子供の情景』(こどものじょうけい、ドイツ語: Kinderszenen)作品15は、ロベルト・シューマンが作曲したピアノ曲の代表作のひとつ。特に第7曲『トロイメライ』は名高い。」

『Schumann - Träumerei, "Kinderszenen" No. 7, Scenes from Childhood | Vladimir Horowitz』
https://www.youtube.com/watch?v=6z82w0l6kwE

英語reverie

英語にはreverieレヴリという「夢」関連の単語があり、dreamの「白昼夢」用法と似て、「夢想」「空想」を意味します。

「be lost in (a) reverie
空想[もの思い]にふけっている.
fall into a reverie about the past
過去の思いにふける」
(研究社新英和中辞典)

dreamがゲルマン語系だったのに対してこちらはラテン語系であり、フランス語rêverieレヴリを輸入したものです。

フランス語でも「夢想」「空想」「バカげた考え」を表します。

「Perdu dans ses rêveries des années 1970, Obama a fait le choix du nihilisme, et maintenant des millions d'êtres humains vont payer pour ces erreurs.
(西暦1970年代の空想に耽(ふけ)ってオウバーマは虚無主義的選択をした。そして今や何百万もの人類がこの過失の犠牲になる)」
(Reverso)

「夢」を表す、より一般的な単語、つまりdreamと同じ守備範囲の単語はrêverieと同源のrêveレーヴです。

「Cette nuit, j'ai fait【un rêve étrange】.
ゆうべ【不思議な夢】を見た
Ce n'est qu'un rêve.
それは夢物語でしかない
réaliser son rêve
夢を実現する」
(小学館プログレッシブ仏和辞典)

スペイン語sueño

「夢」のスペイン語はsueñoスウェニョなんですが、これは若干ヤヤコシイ単語です。

西和辞典を引くと「眠り」系と「夢」系の項目が並んでいます。

「眠り」

ラテン語somnusを源とする「眠り」系は「睡眠」と「眠気」です。

「sueño pesado [ligero]
深い[浅い]眠り
espantar【el sueño】
【睡魔】と闘う」
(小学館西和中辞典)

(ラテン語の「否定の接頭辞in-」+「somnusの語幹somn」+「接尾辞-ia」に由来する英単語が「insomniaインソムニア:眠れないこと、不眠症」です)

動詞「眠る」を意味する一般的な言葉はdormirドルミルであり、別系統の単語です。

「Esta noche【he dormido】ocho horas.
昨夜は8時間【寝た】」(同)

「夢」

一方、somnusから派生したsomniumという言葉から流れてきたsueñoが「夢」系です。

「tener【un buen [mal] sueño】
【いい[悪い]夢】を見る
Por fin【su sueño】tomó realidad.
ついに【彼[彼女](ら)の夢】は実現した」(同)

「夢」系の方の動詞形はsoñarソニャルです。

「Anoche【soñé】con mi abuela.
昨晩祖母の【夢を見た】
Siempre【soñé】con verte [que vinieras a verme].
君に会うのを[君が会いに来てくれることを]ずっと【夢見ていた】」(同)

アメリカのギター奏者Pat Methenyパット・メシーニが西暦1979年/昭和54年に発表した曲に『Sueño con Mexico』があります。
(Mexicoは、アクセント記号を付けてMéxicoが正しい表記ですが)

以下の動画はその当時の演奏ではなく西暦2012年/平成24年のものです。

『Pat Metheny Sueño con México』
https://www.youtube.com/watch?v=csnDosRMjgo

この題名に出てくるsueñoは名詞ではなく、動詞soñarの直説法現在1人称単数の形であり、たまたま同じつづりになっています。

つまり「Sueño con México.」を英訳するならば「I dream of Mexico.」となります。

オマケ

アメリカのアルト・サキソフォン奏者David Sanbornデイヴィッド・サンボーンが西暦1987年/昭和62年に発表した曲『The Dream』。

『The Dream』
https://www.youtube.com/watch?v=SBZ7YURLAIc

基本的には器楽曲ですが、後半にうっすらと人の歌声が聞こえます。しかし「oh」とかなんとか歌っていて、意味のある歌詞としては「every night」しか出てきません。

「毎夜」見る、ある決まった「その夢」だから定冠詞theが題名に出てくるのかもしれません。

それはさて措(お)きその声の主は、ここではシンセサイザーも担当している作曲者Michael Sembelloマイクル・センベロウです。

本人名義の作品として有名なのは、西暦1983年/昭和58のアメリカ映画『Flashdanceフラッシュダンス』にも使われた『Maniacメイニアック』です。

『Michael Sembello - Maniac (1983) (Official Video)』
https://www.youtube.com/watch?v=324it5DKoXU

しかしこの人はもっと昔からスタジオ・ミュージシャンとして活動をしており、参加作品の中には西暦1976年/昭和51年にアメリカの歌手Stevie Wonderスティーヴィー・ワンダーが出した『Sir Duke』があり、センベロウはリード・ギターを担当しています。

『Stevie Wonder - Sir Duke』
https://www.youtube.com/watch?v=6sIjSNTS7Fs

DukeとはもちろんDuke Ellingtonデューク・エリントンのことであり、だから曲中で金管楽器を活躍させているのでしょう。

今現在はどうなのかよく知りませんが、吹奏楽のレパートリーとしてよく取り上げられていた気がします。

『東京都立富士森高等学校吹奏楽部/サー・デューク』
https://www.youtube.com/watch?v=CsbzZlnHOco

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?