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『この川のむこうに君がいる』 〜ふつうでいたい気持ち

こんにちは、ことろです。
今回は『この川のむこうに君がいる』という本を紹介したいと思います。

『この川のむこうに君がいる』は、著・濱野京子、装画・北澤平祐のヤングアダルト小説です。
全12章あり、東日本大震災のことがテーマとなっています。

主人公は、岩井梨乃(いわい りの)。高校一年生。
小学校6年生の頃に被災し、引っ越した先の中学に上がったものの、被災者扱いされ思うように過ごせなかったので、高校では自分のことを誰も知らない場所に行こうと決めた。震災で兄を亡くしている。宮城出身。
高校では昔からクラリネットに憧れていて吹奏楽部に入部するも、サックスを担当することになる。

赤崎陶子(あかざき とうこ)。
梨乃のクラスメイト。高校に入って初めての友達。
同じく吹奏楽部に入部。クラリネット担当。

紺野遼(こんの りょう)。
梨乃と同じ高校一年生。吹奏楽部。トロンボーン担当。
福島出身で、東京の中学を出たものの、言葉に少しなまりが残っている。
被災者であることは特には隠していない。
福島に彼女がいる。遠距離恋愛。

長尾純平(ながお じゅんぺい)。
梨乃と同じ高校一年生。吹奏楽部。トランペット担当。
遼と仲がいい。
梨乃、陶子、遼、純平で途中まで一緒に帰ることがある。

崎山帆波(さきやま ほなみ)。
梨乃と同じ高校一年生。吹奏楽部。弦バス担当。

小関真彩(こせき まあや)。
梨乃と同じ高校一年生。吹奏楽部。フルート担当。

若宮詩緒(わかみや しお)。
高校三年生。吹奏楽部の部長。テナーサックス担当。
未経験である梨乃をサックス担当に引き抜き、教育してくれる優しい先輩。
「黒いオルフェ」を聞いてから次第に梨乃の憧れにもなっていく。

横手美湖(よこて みこ)。
梨乃のクラスメイト。遼のことが気になっている。

菊池愛希菜(きくち あきな)。
梨乃の小学校時代からの友人。地元の県立高校に進学している。
地元の人間で今でも連絡を取り合う唯一の友人。
太一と付き合うことになる。

菅原太一(すがわら たいち)。
梨乃の兄の親友。梨乃の元彼。
太一も被災したが、梨乃の家よりかは比較的軽い状況だった。
あるときから、震災の経験を語る活動を始める。


主人公の岩井梨乃は、晴れて高校生になり電車通学になりました。
毎日越えていく川を梨乃は感慨深げに見つめます。
通うことになった私立緑野(みどりの)学園高校は落ち着いた雰囲気の共学校。一学年が五クラスで東京の私立校の中では少なめなようです。
それでも、梨乃にとってここは良いところでした。
それは、誰も自分を知っている人がいないから。
自分を知らないということは、自分がどこの出身かも知らないわけで、当然自分から言うつもりもありません。

入学して二日目の今日は、体育館に集まって上級生との対面式やオリエンテーションが行われました。そして、教室でホームルームが行われ、自己紹介をすることになります。
担任の先生が出席番号の最初と最後の人がじゃんけんをして勝ったほうがどちらからはじめるか決めるという指示を出し、結果うしろから自己紹介をすることになりました。
梨乃は苗字が岩井なので、だいぶ後です。
みんなそれぞれ出身中学を言ったり、希望する部活の名前を言ったり。自分の名前の漢字を言ったりもしました。
梨乃のクラス、一年三組は三十四人。そのほとんどが東京の中学から進学していましたが、梨乃以外にも男子生徒がひとり埼玉県から通学してくるようでした。とはいっても電車の路線は違いましたが。
大丈夫、梨乃のことを知る人はいませんし、同じ路線の人もいません。

とうとう梨乃の番になりました。
「岩井梨乃です。果物の梨という字のリと……」
「乃」という漢字をどう表現したらいいのか悩みます。
「えーと……二画のノです」
そのとき、前の席に座っていたポニーテールの女の子が「乃木坂のノ?」と言ってくれて、周りからは笑いが漏れましたが、それがきっかけでその子と仲良くなることができました。
名前は「赤崎陶子」。同じ埼玉組で蕨市出身です。部活は吹奏楽部に入るつもりのようです。クラリネットをやっているようでした。
ちなみに、梨乃の今の家は埼玉の戸田市にあり、最寄駅は戸田公園。陶子とは路線が違いますが、赤羽までは一緒に行けそうです。

その日は自然と陶子と帰ることになりました。
お互いまだ様子を見ながら会話しているので多少ぎこちないですが、仲良くはできています。
何気ない会話を済ませ電車に乗ると、途中、新河岸(しんがし)川と荒川を渡ります。
荒川は関東地方の中では、かなり大きな川です。
これから三年間、この川を渡って通学する。
梨乃は少し前まで川なんて見たくもないと思っていたのですが、今は大丈夫。そう思い込むことにしました。

家に帰ると母親がリビングのソファに座って編み物をしていました。
今日は仕事が休みなようです。
母親は今、信販(しんぱん)会社で事務のパートをしています。週四日の勤務ですが、曜日は一定ではありませんでした。先月から始めたばかりの仕事で、主な仕事はパソコンのデータ入力だといいます。
ここに引っ越してきて、もうすぐ三年。
ようやく、母親もここで暮らすことに慣れてきたのかもしれません。

ベッドに横になり、天井を見つめながら「三年か……」とひとりごちます。
いや、過去は振り返らない。これからだ、と思い、新しいクラスメートのことを思い浮かべながら、陶子とは仲良くなれそうだなと思いました。
しかし、ひとつ引っかかります。
それは、梨乃も昔、クラリネットを吹いてみたかったということ。
小学六年生の頃には中学に入ったら吹奏楽部でクラリネットを吹きたいと思っていたのですが、結局それは実現しませんでした。
今からでも遅くはないでしょうか?
もしも、高校の吹奏楽部が未経験者でも受け入れてくれるところだったら……

次の日、梨乃が登校すると、教室の入り口で横手美湖に話しかけられました。
なんと言うことはない雑談だったのですが、その後も時折、美湖とは会話をするようになります。梨乃は、ある理由で美湖のことを少し苦手になるのですが。

その日の昼休みは、陶子と一緒に昼食を取ることになりました。
少しずつグループが出来上がっていく中、同じ出身校の集まりを見ていると、陶子が「ちょっと心細いね」と言いました。陶子も梨乃と一緒でひとりで高校に上がったのでした。まあ、梨乃は陶子とは違い、自らそれを望んで選んだのですが、そんなことは言いません。
話は吹奏楽部の見学についてに移りました。
梨乃が未経験でも入れるなら入ってみたいことを告げると、陶子は嬉しそうに一緒に見学に行こうよと誘ってくれました。
笑顔になった陶子を見て、梨乃は少しほっとしました。

吹奏楽部は、二年と三年合わせて十五人。高校にしては人数が少なめだと陶子が教えてくれました。男子部員が少ないのも吹奏楽部にはよくあることで、十五人中九人が女子生徒でした。
梨乃と陶子が見学に行った日は、それぞれのパートに別れて練習する日でした。好きな楽器を見学していいと顧問の先生に言われ、陶子と共にクラリネットの生徒たちが練習する部屋に入ります。
クラリネットは現在三人。陶子が、まずまずのレベルの中学でクラリネットを吹いていたこと、楽器も持っていることを告げると、一気に歓迎ムードになりました。
「岩井さんは?」
梨乃は未経験で、楽器も持っていないことを告げました。それでも入れるのか尋ねると、高校から始めた部員も多いから大丈夫とのことでした。でも、楽器はやってた人優先になっちゃうかも、とも言われました。
梨乃はお金のこともあるし、家事の手伝いもあるので、母親と相談してみますと答えました。待ってるよと言われましたが、経験者である陶子ほどは期待されてないのだろうなあと思いました。
それでも、吹いてみる? と聞かれて、やってみることにしました。
先輩のマウスピースを借りて、一度吹いてみます。まったく音が出ませんでした。
「あ、ぜんぜんだめだ」
気持ちが焦って、手に汗がにじみます。みんなはいとも簡単そうに音を出しているのに。でも、先輩たちは優しかったので「最初はみんなそうだよ」と励ましてくれました。
何度か試しているうちに、ピーッと大きな音が出ました。
「そうそう。けっこう肺活量、ありそうだね」
マウスピースだけとはいえ、初めてクラリネットを吹いた。身体がすいっと軽くなるような、高揚感がありました。
梨乃は決めます。吹奏楽部に入る、と。

母親と二人の夕食後、梨乃は皿洗いを済ませ、吹奏楽部に入りたいことを告げました。(いつの頃からか、食器の後片付けは梨乃の仕事になっていました。)
母親は楽器を買わなければいけないのか、などお金の心配をしています。梨乃も我が家にはお金の余裕がない中、私立の高校に行かせてもらっていることを知っているので、あまり強くは言えません。
「楽器、買わなきゃいけないなら、お父さんにも聞かないと」
このところ、父親の帰りが遅くて、夕飯も母親と二人きりという日が続いています。
「あんまりお金がかかるようだとねぇ」
梨乃は少しイラッときて、もし楽器を買わなければいけないようだったら入部は諦めると言い放ち、自室へ逃げてしまいました。
しかし、すぐに母親に当たったことを後悔します。母親には優しくしなければいけないのに……と。
気を取り直して、陶子に聞いてみようと思い立ち、メッセージを送ります。
すると、クラリネットやフルートは自前の人も多いけど、普通は学校にあるそうで、わざわざ買わなくても大丈夫そうでした。

最初のうちはみんなよそよそしかったこのクラスも、見渡してみるとだんだんとグループができあがりつつありました。
梨乃は陶子と自然と名前で呼び合う仲になり、仲間ができたことにほっとしていました。
その日の昼休み、陶子と一緒に昼食を取っていると(陶子はお弁当、梨乃は購買部で買った牛乳と美湖に教えてもらったクラブハウスサンド)、美湖と向原妃津留(むかいはら ひづる)が声をかけてきました。
妃津留もクラリネットを吹いていたそうなのですが、ここの高校は強豪校というわけでもないので物足りなさそうと入部を拒んでいます。美湖はバトミントン部に誘われているそうです。
そのうち兄弟の話になり、陶子には妹がいるようでした。美湖はお兄さん、妃津留は兄と弟に挟まれていて大変なようでした。
「岩井さん、きょうだいは?」
本当は兄がいたのですが、震災で亡くしているとは言えず、「わたしは、一人だけ」と答えるしかありませんでした。
「独りっ子かあ。親の愛、独占だね」
悪気はない妃津留の言葉に、梨乃はただ静かに笑うことしかできませんでした。


梨乃が陶子と共に吹奏楽部に入部したのは、四月も後半になってからのことでした。
新入部員が顔を合わせることになったその日、ここでも自己紹介をすることになりました。
吹奏楽部の顧問の先生は、松山美耶という名前の音楽教師で、四十代のふくよかな女性でした。
部長は、三年の若宮詩緒。体格がよく、背も高い。担当の楽器はテナーサックス。
一年の新入部員は、全部で九名、女子が六人でした。
活動の概要を説明したのは部長の詩緒でした。いちばんの目標は、夏に行われるコンクールですが、そのほかに年明けにはアンサンブルコンテストがあります。それ以外にも演奏の機会はあって、秋には文化祭、十二月には区内のホールを借りて演奏会も行われます。
東京都の吹奏楽コンクールは、人数の上限別に、大編成のA組、中編成のB組、小編成のC組に分かれています。
この春卒業した三年生部員は四人で、去年は部員が十九人しかいなかったこともあり、二十人までのC組に出場しましたが、今年は一年全員がコンクールに参加できれば、二十名を越すから、B組での出場を目指すことになります。ちなみに、中編成のB組は、BⅠとBⅡに分かれます。AとBⅡでの成績優秀校は上位のコンクールに進むことができますが、BⅠとCには上位大会はありません。BⅡは、東京都吹奏楽コンクールの先に、東日本学校吹奏楽大会があり、A組の優秀校は全国大会へと駒を進めることができます。

とまあ説明されても、いまいちピンとこない梨乃は「なんだかよくわからない」と隣にいる陶子にささやきますが、陶子からはまずはここに慣れることが先決だと言われました。
新入部員の自己紹介が始まります。
一年生たちは、音楽室の教壇の前に一列に並んで立ちました。
最初に自己紹介したのは、窓際に立っていたボブヘアの生徒「崎山帆波」でした。めずらしくスラックスを履いています。中学で弦バス(コントラバス)担当だったので弦バス希望のようです。先輩たちのざわめきから、弦バス復活という言葉が聞こえました。長身の帆波が得意げに笑うと、威圧感があって、梨乃はいささか気圧されるような印象をもちました。
次は、打って変わって小柄な生徒、帆波と同じ五組の「小関真彩」。中学のときにフルートをやっていたのですが二年の途中で手を怪我してしまい、退部したのだとか。高校になったら再開したいと思っていたので、フルート希望です。
次は、陶子の番。陶子も含め、ここまでずっと経験者ばかりのなかで、自分はやっていけるのだろうかと梨乃はだんだん不安になっていきました。陶子はもちろんクラリネット希望。楽器も持っていると言うと、歓迎!とがやが飛びました。
次は、梨乃の番。緊張しますが、一応一通りのことは言えました。でも、クラリネット希望とは言えず木管楽器がいいと希望のランクを下げてしまいました。クラリネット希望が多く、みな経験者だったため、自分が入る余地はないと思ったのです。
次の番だった男子生徒「長尾純平」が未経験者で、梨乃はほっとしました。希望はトランペット。
いろいろ続いて、最後に自己紹介したのが「紺野遼」。トロンボーンをやっていたそうで、トロンボーン希望です。言葉がすこし訛っていて、出身は福島ということでした。震災に遭ったことも特には隠さず、開けっ広げに紹介します。福島の海沿いに住んでいたけれど、津波と原発のダブルパンチで住めなくなり、東京に越してきたのだそう。大変だったけれど、自分はここで頑張りたいと言ったら、自然と拍手が起こりました。それは遼の言葉に対してだったのか自己紹介がちょうど終わって全員を歓迎するからなのかは、梨乃にはわかりませんでしたが。

一年生の楽器希望は、おおむね叶えられそうでした。陶子はクラリネットに決まり、去年は担当がいなかった弦バスも帆波がやることに決まりました。
「今年は、経験者が多いわね。それも、うまい具合にばらけてる。岩井さん、どうしますか?」
先生の言葉を引き継ぐように、部長の詩緒が言います。
「岩井さん、サックス、やってみませんか?」
クラリネットをやりたかった梨乃としては、次にやってみたかったのはフルートなのですが、サックスはやりたくありませんとは言えず、詩緒の笑顔につられて、頷いてしまいました。
もしかしたら、いずれクラリネットに乗り換えることができるかもしれないと思いながら。

こうして梨乃はアルトサックスを担当することになりました。
サックスは詩緒のほか、戸川拓斗という二年生がアルトサックスを担当していました。今後は、梨乃も含めてこの三人でパート練習をすることになります。

最初のうちは渋っていた梨乃でしたが、先輩の指導のおかげでだんだんと吹けるようになってからはサックスが好きになっていました。
そして、ある日詩緒の「黒いオルフェ」を聞いてからますます好きになり、詩緒のことも元々尊敬していましたが目標にするようになり、いつか自分も「黒いオルフェ」を吹けるようになりたいと自主練するようになります。
音楽は音学ではない、楽しまなくちゃねという顧問の音楽教師の言葉も影響されています。これは梨乃だけではなく吹奏楽部全員ですが。
いつか自分なりのサックスが吹けるようになりたいというのが、梨乃の夢になりました。

しかし、いつからか、練習していると発作のようなものが起き、具合が悪くなって倒れそうになることが何度かありました。なにがきっかけになるかはわからないのですが、理由は震災のことが思い出されるからのようでした。
梨乃は、母親と高台に逃げ、黒い波があっという間に民家を呑み込んでいくのを見ています。そのせいで、川を見たくないと思っているのですが、この高校に通うために毎日川を越えて来ていることも原因のひとつなのでしょうか。地鳴りのような低い音だったり、地震が起きた時の時刻を見ると、発作が起きるようでした。

また、福島出身の紺野遼とも交流が深まっていきます。
梨乃は宮城出身であることを秘密にしているので、遼も全く知らなかったのですが、あるトラブルのせいで遼にだけ梨乃が被災者だということがバレてしまい、二人の中で他人には入れない何かが生まれていきます。それは同士というか、仲間というか、恋愛関係にあると誤解されることも多々ありましたが、そういうことではなく、経験した者にしかわからないことがあって、それを共通項に接しているので、二人の間にはただならぬ空気が漂っていると思われていました。
通学するときの同じ路線になる十数分の間、電車で他愛もない話をするのですが、遼は遠距離恋愛の彼女のこと、梨乃は家族や吹奏楽部のことなどを話し、ほどよい距離感の中で親睦を深めていきました。

また遼も部活に長く来ない日もあったりして、みんなを心配させる事もありました。
理由は遠距離恋愛中の彼女と別れたからなのですが、梨乃は今も地元で生きている人間とそこを離れて暮らしている人間との中にも少しずつ川ができてしまって、いつの間にか埋められない溝になってしまうのかなと考えたりもしました。
同じ震災被害に遭ったといっても、それは十人いれば十人だけ様相は違っていて、家も家族もなくなった人もいれば、両方とも残っている人もいて、道を挟んで向こう側とこちら側、川を挟んでこちら側とあちら側では、それだけで住む世界が違ってくることもざらにあるのだということを、被災者たちは知っています。そしてその残酷さにみんなが苦しんでいます。

梨乃のように被災したことを秘密にして生きる人と、遼のように初めから隠さずに開けっ広げにして生きる人と、どちらが良いも悪いもありません。
ただ、梨乃は「ふつう」に学生生活を送りたいだけなのでした。被災者扱いされて腫物に触るように接してほしくない。かわいそうな子にしてほしくない。
それは、善意でやってのける人もいるので困ったことなのです。
いじめはもちろん悪いことですが、いじめでもなく善意で「この子は被災した子なんだよ」「大変な思いをした子なんだよ」と本人の許可もないところで言いふらしていくのは、本人の気持ちを考えずにカミングアウトする配慮のない行為です。

「ふつう」って、どうすればいいのでしょうか。
簡単なようでいて難しい。けれど本来は、考えすぎず、無関心でもなく、ただ友達としていてあげればいいのではないか、と思います。
梨乃は遼との関係性をみんなに問い詰められたとき、実は被災者であることをカミングアウトしました。みんなと普通の高校生活を送りたかった。
その思いを汲み取った仲間は、もうすでに仲間だったからかもしれませんが、梨乃のことを大事に思い、今までと変わらず「ふつう」に接してくれています。それが、梨乃にとって一番ほしいものでした。肩の荷が下りるようでした。

また母親も息子(梨乃の兄)を亡くし、毎月11日が来ると落ち込んだりしていたのですが、梨乃が変わってきたからでしょうか、母親も少しずつ変わってきているようでした。
母親はずっと兄のことを可愛がっていて、自分より兄のほうが大事なんだろうと思っていましたし、どうして死んだのが兄だったのだろうと落ち込むこともありましたが、父親に、それでも今生きているのは梨乃だけなんだよと言われて、梨乃を大事にしていきたいという思いが伝わったことで、家の中も少しずつですが変わってきているのだと思います。


長くなりました。
いかがでしたでしょうか?
ちょうど投稿する日が東日本大震災の日に近いなと思って、この本を選んでみました。
私も熊本の大震災のときに友人が被災して大変だったことと、私が住む地域もそれなりに揺れて怖い思いをしたことがありましたが、益城で被災した友人にはとても怖い思いをしたことなど言えませんでした。その友人の方がよっぽど怖い思いをしているので……。けれど、だからといって私の中にある怖かった経験も無かったことにはしてはいけないのだなと思います。比べてしまうとちっぽけなことかもしれないけれど、確かにあったことで、私の一部になっているからです。
この本の中でも、震災について語っていく活動を始めた子がいます。自分より重たい経験をしている人がいる中で、忘れたくないことを代わりに語っていくことも大事だし、自分の経験や自分の立場からくる思いを語ることも大事だと思いました。
この本を通して、経験をしていない人たちも「ふつう」に生きることはどういうことか、震災について考えるとはどういうことか、考えていってほしいと思います。

それでは、また
次の本でお会いしましょう〜!

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