螺子巻き表紙

時の螺子巻き

あらゆるものは、『そのまま』であることは許されない。
全てのものには、限られた『時』があり、終わりが近付くものには、二つの選択肢が与えられる。
一つは、最初に巻き戻し再び終焉を迎えるか。
もう一つは、止まった時間の歯車を回し続けるか。
しかし、最初の選択肢を選んだ場合、最初に巻き戻せば、全てが最初に戻ってしまう。
つまり、その世界そのものは消滅を意味する。
新たに作られた世界が、前世のものと同じになるとは限らないのである。
そして、止まった時間の歯車を巻き続ければ、世界そのものは消滅しない。
しかし、その世界は既に終わっているものであり、それを無理矢理引き伸ばすためには、延々と歯車を定期的に巻き続けなければならない。
その巻く者が尽きるまで。
だが、それは『彼』の気分次第でもある。


ある街に、一人の旅人が辿り着いた。
少しくすんだ白い布を基調とした服を纏い、右手には歯車を思わせるような飾りを付けた、長い杖。
この国の服装とは全く異なる衣装の青年はとても目立つのだろう。
すれ違う人のほとんどが珍しそうに振り返るほどだった。
少年は、そんな不思議な旅人の後を追った。

「あの・・・・・・旅人さん、ですか?」

恐る恐る背後から尋ねると、旅人は声の主を捜し始める。
そして、旅人は彼の頭二つ分ぐらい低い声の主を、背後に見つけた。

「まあ、そんなところだ。この国の住人かい?」
「うん。生まれてからずっと、ここで暮らしてるんだ。旅人さんは、外の国の人だよね?」
「そうか」

旅人は何か考えるような素振りを見せた後、小さく頷き少年を再び見る。

「この国を色々と見て回りたいんだけど・・・・・・もしよければ、案内してもらえないかな?」
「うんっ、いいよ!」

少年は、嬉しそうに大きく頷き、旅人の右袖を掴みながら思いっきり走り始める。


「まずは、どこに行きたい?」
「そうだね、まずは人が多そうなところを」


「旅人さんは、今までどんな世界を見てきたの?」

目的地への先導する少年が、旅人の方を振り返る。
右手の杖を突きながらゆっくりとその後をついて行く旅人は、少し考えた後、甲口を開いた。

「いっぱい見てきたよ。
水の上にある国、空に浮かんでいる国、国そのものが遺跡として守られている国、魔法が存在する国、砂漠に覆われている国・・・・・・まだまだ、数え切れないほど」

少年は大きく目を輝かせながら、その話を聞いていた。

「すごいなぁ。ねえ、その国はどこにあるの?」
「あー・・・・・・うーん・・・・・・いっぱい色々な所に行ってたから、結構忘れちゃったな」

 旅人は一旦言葉を切り、更に続ける。

「でも、ほとんど私が訪ねた国はもう無くなっているんだけどね」
「? ん、まあいっか。旅人さん、着いたよ。ここが大通り」

目の前には、多くの人で賑わう大きな道が現われた。
しっかりと整備された中央の広い道路。
側には道に沿って隙間無く並んでいる露店。
大半は、外国からの輸入物を扱っている店で、どの店もお客と店主の声で溢れている。
そして更に道から離れたところには、食堂のような場所があちこちにあり、歩道のそばには野外でも食べられるように椅子とテーブルが設けられている。
今は丁度正午を過ぎた辺りのせいか、客があちこちに座り、それぞれ自分の食事を楽しんでいる。

「この国は・・・・・・とても平和みたいだね」

 周りをぐるりと見回した旅人は、ポツリと呟く。

「うん、この国はもう長い間戦争とか、災害とかが起きていないから。今の国王様のおかげ」
「なるほどね。じゃあ、次に行こうか」


「次は、どこに行きたい?」
「じゃあ、次は水が多いところ」


土塀で作られた壁や木造の扉。または、全て木造の建物。
どうやら、この国の建造技術はさほど進歩していないようだが、この国の住人はあまり苦労している様子は見られない。
食べ物も豊かで、多くの国とも交易をしているのだろう。
いわいるファンタジーで出てくるような、田舎染みたという表現では表現しきれない、豊かではないが、温かみのあるような町並みが続く。
二人は大通りから離れ、しばらく歩き続ける。その間も、二人の間には楽しげな会話が続く。
少年は、聞いたことも無いような沢山の国について、旅人から教えてもらっていた。

「じゃあ、僕たちが喋っている言葉以外の言葉を使っている国があるの?」
「ああ。私達が喋っている言葉以外に、百以上はあるよよ」
「旅人さんは、その言葉ぜんぶ分かる?」
「何となく、かな。一つの言葉を覚えるということは、長い時間をかけて学ばないといけないから、結構時間がかかってしまう。
たまに、面倒だなぁってサボっちゃうときがあってね」
「あはは。あ、着いたよ。ここは、この街の水源地なんだ」

目の前に現われたのは、直径が二キロ以上で深さが五メートルほどありそうな巨大な穴。
そして、その巨大な空間を全て満たすほどの大量の水。高く上る太陽の光を受け、ユラユラと揺れる波がキラキラと反射している。

「大きいね。ここの水が、ここに住んでいる人全員へ行き渡るのかい?」
「まあ、一応ね」

 少年の今まで見せていた楽しげな表情に、少し影が入る。

「僕たちは、ここの水を直接汲んで来るんだ。水が直接行くのは、王様たちだけだから」
「そうだったんだ・・・・・・」
「あ、でも。水が直接行くって言っても、まだまだ不十分らしいから、お城の人もまだここに汲みに来てるんだよ」

つまり、この国ではあらゆる点で、十分な技術が発達していないということになる。

(あぁ、中途半端に終わってしまったな・・・・・・ここは)

 旅人は、再び少年に尋ねた。

「じゃあ、次、お願いできるかい?」


「次は、どこに行きたい?」
「そうだね・・・・・・じゃあ、次はこの国で最も高い所」


旅人が案内された場所は、国の中央に位置する石を煉瓦のように重ねたような壁の、円柱のような巨大な塔だった。
周囲の建造物は大体が一階建てだったので、この国のどこにいてもこの塔を望むことが出来た。
螺旋状に続く石造りの延々と上り続け、二人はとうとう最上階まで上りきる。
屋上は展望台のようになっていたが、二人以外客は誰もいなかった
。旅人は、あちこちに穴のように空いている窓らしき場所から、街を眺める。
どこまでも続く同じような建物、そして旅人から見て左側、方角では北に当たる方向には、山のふもとに作られた巨大な城。
おそらく、あそこがこの国の国王の暮らす城なのだろう。
しかし、旅人はそれ以外にも気付いたことがあった
。それは、この場に立って気付いたことではなく、この街に丁度着いたときから気づいていたものである。
当然、高い場所であれば必ず吹いていそうなものがあるはずなのだが・・・・・・。

「この国には、風は吹かないのかい?」

旅人の突然の問いに、驚き少し戸惑っていたようだが、少年はすぐに首を横に振った。

「ううん。ここ二、三年前ぐらいだよ。それまでは、ここに登ってもずっと風が吹いていたんだ」

(となると、この国の『時』が止まったのはここ数年のこと、か・・・・・・)

「そうだったんだ。そろそろ、次へ行ってもかまわないかい?」
「うん、いいよ」

「・・・・・・色々、案内させて悪いね」

螺旋階段を下りながら、ゆっくりと右手に持つ杖で進む旅人に、先を進む少年は首を横に振った。

「いいよ。僕も好きで案内しているんだから」
「そうかい。じゃあ、次が最後だよ」


「次は、どこに行きたい?」
「そうだね・・・・・・この国で、一番偉い人の所」


少年は、何となくだが旅人の雰囲気が変わっているような気がした。
最初に会った時から、さっきの塔を上りきるまでは、優しくてふんわりとした雰囲気を持っていたように感じていたのだが、今自分の後ろを歩いている旅人は、どこか違っていた。

人のようで、人で無いような・・・・・・そんな、感じがしていた。

二人の行き先は、先程向かった塔からはさほど遠くは無かったため、二十分程度歩き続けて辿り着いた。
幸い、この国の国王は国民に城を解放しているため、常に城の門は開いていた。
そして、中に入る二人も、近くの警備兵らしい上半身金属の鎧を纏った男達には不審に思われることは無かった。
そのまま歩みを進め、二人は城の入り口まで辿り着いた。

「ねえ、旅人さん」
「どうかしたのかい?」
「着いたけど、これからどうするの?
ここは観光できるような場所じゃないけど・・・・・・何か用事があるの?」

旅人は、小さくそしてゆっくり頷いた。

「ああ・・・・・・」

少年を見下ろし、そしてそのまま目の前にある扉をじっと見た。そして、言葉を続ける。

「この国の、国王様に用事があってね」

そのまま、旅人は城の中へと入っていった。
その後を、ためらいながらも少年は急いで後を追った。

この国の城は非常に質素で、特に国民から大量の税を搾り取っているような様子は無い。
また、物資が豊かな街中を見ると、大体は予想できたが、ここまで城の中にはほとんど何も無いということは、旅人の予想をはるかに超えていた。
建物中はほとんどが空間で、床にはじゅうたんが引いてあり、玉座へ一直線という程度だった。
その中を、旅人は淡々と歩みを進める。その後ろを、不安そうに歩く少年。
少し歩くと、旅人はぴたりと立ち止まる。諸運年も急いで立ち止まる。
二人は、この国で最も偉い人がいる所へ辿り着いた。
一人は五十前後の中年の男性。髭をたっぷりたくわえ、見せる表情から、性格は穏やかそうである。
そして、その側には同じぐらいの年代の女性。

「ようこそ、旅の人。私がこの国を治めている王だ。
何用かな?」

どうやら、男性はこの国の現国王、女性はその王妃のようだ。
旅人は持っている杖を左手に持ち替え、そのまま杖を支えにしたまま右手を左手側へ曲げ、深く頭を下げた。

「初めまして。国王殿、そして王妃殿。私は偶然この国へやって来た旅の者です。
実は、国王殿にお願いがありまして・・・・・・」

国王は、小さく微笑みながら返答した。

「旅の方、頭を上げてください。私に出来る程度であれば、構いませんよ」
「ありがとうございます。
一応、この国の一番偉い方の許可を貰わないといけないと思いまして・・・・・・」

旅人は微笑みながら、言葉を続ける。

「この国を、消そうと思いまして。宜しいですか?」

淡々と述べられたこの言葉は、あまりにも理解しがたいものだった。
国王は、不思議そうに旅人を見る。しかし、旅人には笑みが張り付いたままである。
その背後では、目の前で起こっている事実が信じられないような目で旅人を見る少年の姿。

「旅人さんっ、この国を消すって・・・・・・どういうこと?」

少年の必死で口にした言葉が聞こえないのか、旅人は続けた。

「この国は、長い間『時』を刻んできました。そして、その成果として、この様な生ぬるい平穏を手に入れました。
しかし、世界は常に同じ形は保てません。この世界の『時』はもう止まりました。
即ち、それはこの世界が終わる、ということです。
ですので、この国をゼロから巻き戻さなければならないのですが、一応はその国の最もトップに立つ方の許可を貰わなければならない決まりでして・・・・・・ちなみに、このまま世界の『時』を止めた状態は続きません。
あと数年経てば、この国は自動的に消滅します。
さて、どうしますか?」

国王は、ジッと旅人を見つめる。すると、側に座っている王妃が、何かを思い出したように小さく呟き始めた。

「もしや、旅の方。貴殿はもしや・・・・・・数多の世界を渡り歩き、すべての国と呼ばれる世界の『時』を管理する・・・・・・」
「黒天使・・・・・・」

最後の言葉に詰まった王妃の後を旅人の背後にいた少年が、最後の言葉を繋げる。
旅人は、笑みを浮かべながら頷いた。

「ええ、私は『時』を管理する黒天使クロノスと申す者です。まさか、私の噂が流れていたとは・・・・・・驚きですね。
私の通った世界は全て、最初に巻き戻しておいたのですが」
「その国から、貴殿が巻き戻す直前に出て行った民が何人かいるそうです。
彼らの話から、この話が生まれ、今ではあちこちの国に広まっているでしょう」

旅人は、納得したように再び頷く。

「なるほど。となれば話は早いですね。では、許可をもらえますか?」

国王と王妃は、お互い顔を見合わせたがすぐに二人は旅人の方を見る。そして、仕方なさそうに頷いた。

「そうしなければ、この国は消えてしまうのだろう?」
「ええ、その証拠にこの国では風が消えています。風が消えるということは、その国の『時』が止まったことを意味します。
これ以上止まった状態が続けば、すぐにこの国の自然のバランスが崩れ、大飢饉、大災害が起こりますよ」

もう一度、国王は王妃を見た。そして、王妃も小さく頷く。

「分かった・・・・・・貴殿の自由にして欲しい」

国王の返答を受け、旅人は一礼。そして、頭を上げるとすぐに国王の方へ近づき始めた。

「ありがとうございます。それでは、早速・・・・・・」
「ま、待って下さい!」

旅人の前二、突如小さな影が行く手を遮った。
小さな両手を広げ、睨みながら見上げているのは、先程まで背後で怯えるように隠れていた少年だった。
少年のそのような姿を見て、旅人は動きを止めて不思議そうに首を傾げる。

「おや、どうかしましたか?」
「こ、この国は・・・・・・『時』を巻き戻した時、この国は、一体どうなるんですか?」

旅人は少し考えた後、あっさりと、そして他人事のように答えた。

「全て、無の状態になります。
全てをゼロから再び始めるので、文明、知識、人間、あらゆる分野において、今まで積み重ねてきたものが一瞬にして消え去ります。
もちろん、人の記憶もですが」

すると、少年は首を大きく横へ振った。

「そんなの、おかしいじゃないですか!
僕たちの生きている国は、まだ動いています。生きています!
それを、みんなが知らないうちにすべてを消すなんて・・・・・・変だと思わないんですか?」

旅人は、一度ため息をこぼして答える。

「私の場合は、これが仕事なので」
「だけどっ・・・・・・人の意思とは関係無しに、すべてをあなた一人が勝手に変えていいんですか?」

少年が必死の訴えを続ける中、少年の肩を誰かが叩く。振り返ってみると、そこには国王がいた。

「少年、君の言うことは確かに正しい。しかし、我々人間にも、限界というものがある。
我々は、まだ限界に達していないかもしれないが、もうこの国が限界なのだよ。
一度、一からやり直さなければ・・・・・・」
「それこそ・・・・・・おかしいです!
どうして、僕たちは国や世界が動くときに邪魔者として消えなきゃいけないんですか!
僕たちだって、世界や国と同じように生きているんです!」

少年は、先程の旅人と国王達の会話を聞いていた時に感じたこと全てを言葉に変えて、小さな身体から力いっぱい吐き出す。
そして、更に言葉を続ける。

「旅人さん! この国と僕たち、一緒に動き続けることは出来ないんですか?
可能性があったら、教えて下さい!」

必死に訴える少年の姿を見て、初めて驚きの表情を見せた旅人。
そして、一度俯いて何かを考えているような素振りを見せる。

「人には『変われる力』がある、か・・・・・・彼にしては、核心の突いたことを言うのですね・・・・・・」

しばらくすると、旅人は何かを思い出したかのように呟いた。
そして、顔を上げ必死に大きな両目に大粒の涙を浮かばせながら旅人に訴えかけていた少年を見下ろしながら、小さく微笑んだ。

「大丈夫。一つだけ、方法がありますよ。
しかし、唯一の可能性であるこの方法は、少々強引な方法です・・・・・・そして、君の協力が不可欠です」

旅人は、懐を少し探り、その中から取り出したものを、握り締めながら少年の両掌へ乗せた。
それは、チェーンを輪のように繋げたものの中を通っている、少年の両手で抱えられるほどの大きさの、何かの螺子巻きだった。

「これは・・・・・・?」
「この国を動かし続ける方法。それは、この国の『時』をその螺子巻きを使って人力で動かし続けること。
この城の最も高い所にある時計台にある、一番小さな歯車の中にある鍵穴にそれを差し込む。
そして、それがもう回りきらないという所まで、時計が回る方向へずっと巻き続けるんだ。
それを年に一度続ける限り、この国は動き続ける。だけど、それを一度でも忘れてしまえば、この国は消えてしまうんだ。
長い仕事になる。出来るかい?」

少年は、貰った螺子巻きをしっかりと握り締め大きく頷いた。

「うんっ、僕やるよ! 王様、時計台はここからどうやって行けばいいんですか?」

少年は、すぐに時計台の場所を国王と王妃に尋ね、その場から飛ぶように出て行った。
その姿を見送った後、旅人はどこへとも無く姿を消してしまった。


そこは、深い闇だった。

『珍しいことをやっていたな・・・・・・クロノス』

自分にかけられた声に気付き、旅人・・・・・・クロノスは振り返る。
そこには、一人の十五歳程度の少年の姿。
クロノスと同じ服装だが、色は黒で統一された服を着ているため、この暗闇の中では彼は首のみが浮かんでいるようにも見える。

『おや、いたんですか? クロヴィス』
『今まで、国王や皇帝の意見を完全に無視して、全ての国を巻き戻していたというのに。今回はどうしたのか?』

クロノスは、小さく微笑んだ。

『さあ、どうしてでしょうね。
何だか、彼の願いがほっとけなくて・・・・・・あなたの言う通りかもしれませんね』

クロヴィスと呼ばれた少年は、不思議そうに彼を見る。
『何がだ?』
『人には、偉大な力があるということですよ。
今回のことは、あなたの受け売りからの気まぐれです』
『そうか? お前こそ、本当はあの国のことが気に入ってたんだろう?』
『さあ、どうだったでしょうか』

クロノスは小さく微笑み、暗闇を後にした。


あれから、一体何十年の年月が流れたのだろうか・・・・・・。
ある日、小さな少年は自分の祖父に自分の部屋へ来るようにと呼び出された。
少年が部屋に入ると、祖父は座っていた椅子から立ち上がり、この部屋にある机の一番下にある引き出しの中にある紙袋を取り出した。
そして、その袋を開けて右手で逆さに持ち、少年に両掌を出すように言う。
祖父に言われた通り、少年は袋から出てきたものを両手で受け止めた。
ゴトリと音を立てて、重量感じる金属製の物質。それは、巨大な何かの螺子巻きのようだった。

「おじいちゃん、これは・・・・・・?」
「これは、この国の『時』を止めないための鍵になる螺子巻きだよ。
今まではおじいちゃんがこれをやって来たんだ。
でも、そろそろ身体が動きにくくなってしまってな。お前に託そうと思っている。
いいかい?
この螺子巻きは、この国のお城の一番高い所にある時計台の、一番小さな歯車の中にある鍵穴に差し込むんだ。
そして時計が回る方向へ何度も回すんだよ。螺子がこれ以上回らないってところまでだ。
そうすれば、この国はずっと続く。一年に一度、これを忘れてしまえば、この国はすぐに消えてしまうからね」
「でも、『時』が終わった国は、ぜんぶ黒天使さんが巻きもどしちゃうんじゃないの?」

少年の問いに、祖父はゆっくりと首を横へ振った。

「この国はね、黒天使様に『時』を続けることを許された唯一の国なんだ。
おじいちゃんは、この国が大好きだったから。旅人としてやってきた黒天使様に、お願いしたんだよ。
そして、お前が持っている螺子がもらえたんだ。
これを続けられるのは、お前しかいないんだ。頑張ってくれるかい?」

祖父は少年の両手を、自分の皺だらけの手で温かく包み込んだ。
少年は、大きく笑顔で頷いた。

「うんっ。ぼく、がんばるよ!」


あとがき

この話は『黒天使シリーズ』という共通の人物達が登場する短編集の中のお話の一つで、高校の時に書きました。
現在自サイト( http://hibikore.whitesnow.jp/taivas/ )でサウンドノベルとして公開しています。

また、このシリーズのみ
・登場人物は自分ではデザインしない
・作品は文章のみ
という条件を設けているので、ご想像にお任せしますということにしています。

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