ミリしら源氏物語 ~玉鬘・都人にあらずんば人にあらず~

源氏物語を読んだことがありますか?

恥ずかしながら、ありませんでした!


世の中には「本好きだったらこれぐらいは読んでいてあたりまえだろう」という名作というものが存在します。
 現代文学だったら「村上春樹読んでるよね?」とか、近代文学だったら「『こゝろ』は読んでるよね?」とか、和歌だったら「『万葉集』読んでるよね?」とか、はたまた海外へ行くと「『ロミオとジュリエット』は読んでるよね?」とか……
 ですが誰もが正規ルートを通ってジャンルに入るわけではありません。興味の方向がちょっとズレていたり、無精な性格で勉強を怠っているとこれだけは読んでおけという必携に手を出さないまま年月が経過してしまうことになります。
 私の場合は、『源氏物語』がド真ん中のソレでした。
 いつ見ても本屋にも図書館にもあり、簡単に手を出すことができて、入門書も揃っている。なのでぼんやりキャラは知ってる。展開もネタも知ってる。源氏物語ネタも分かってしまう。

 けど、実は読んでいない。

 源氏物語に発想を得た『源氏の君の最後の恋』(マルグリット・ユルスナール)は読んでいても『源氏物語』は読んでいない女 というものが出来上がってしまうのです。
 ですが、そこで聞いたのが、フォロワーさんのトークルームでのお話。「『若菜』はいいですよ。中年の男女のドロドロした恋愛の物語なんですよ!」の一言でした。
 中年とは……?
 よく考えたら世間に出回っている源氏物語解説本は、どうも光源氏が頂点に上り詰める前後までをメインとしているような。ですがそういうのって豊臣秀吉が天下を取るまでみたいな話なんですよね多分。天下を取った後がこういうのは本番なんです。私たぶん、源氏物語で一体何が起こってるのかぜんぜん知らない。
 なので「これ知ってる」となりかねない前半を飛ばして、中盤から読み始めてみました

ちなみに本はこちらです。


玉鬘 感想:無茶苦茶おもしろいね!?!?!?

【要約】
今をときめく光源氏は、若い頃、夕顔という姫君を愛したことがあった。
亡くなった夕顔を今も惜しむ光源氏は彼女に使えていた女房の右近を後宮へ招き、話をしては彼女のことを懐かしむ。一方母を失った夕顔の遺児玉鬘は哀れ孤児の身となり、唯一の頼りである乳母によって引き取られて大宰少弐となった夫の下向先である筑紫(九州)に赴くこととなる。
 それから年月が過ぎ、二十歳となった玉鬘は京風の垢抜けた美女に成長するが、すでに頼りの大宰少弐はこの世の人ではなくなり、乳母の子どものうち次男三男はすっかり土着。都に帰る気を失ってしまう。やがて肥後で牽制を誇る武士が美しい玉鬘に目を付け、「妻になって欲しい」と言い寄ってくるようになり、とうとう乳母は筑紫からの脱出を決意。頼る相手も思いつかないまま、無謀な上京を試みるが……

【感想】
いやあ、都人って嫌味ですねえ!
 肥後国一帯に一族がいる豪族ってけっこうな身分じゃないですか。それがまるでオークか何かに口説かれたような言いよう。都人にあらずんば人にあらずというわけか。
 でもそういう空気感が後々まで残って『上京』への執念として残っていたのが分かるという意味で貴重です。今やっている『鎌倉殿の十三人』でも京育ちの頼朝がどうにも板東武者相手に馴染めない様子が書かれてしましたが、この空気をみると納得が行ってしまいます。
 そして不思議なのが既に故人である夕霧の女房である右近と、玉鬘の乳母の主人に対する献身ぶりです。
 源氏が夕顔のことを惜しんで右近を女房として紫の上に仕えさせているのはて納得ができるとしても、わずか四歳のときに母を亡くしろくに顔もおぼえていない玉鬘のために乳母だけでなくその長男豊後介と長女兵部の君までもが家族を捨てて上京を決行しているのは不思議な気もします。なお豊後介と兵部の君は玉鬘の乳兄弟にあたるのか。
 その後、八幡の宮に参拝したときに偶然右近と再会したことにより、玉鬘一行の存在が源氏に知られることになり、実父の内大臣ではなく亡き恋人を偲ぶ源氏が玉鬘を引き取ることに。結果的に玉鬘の家司に取り立てられた豊後介、見事中央での大出世を遂げます。こういう主人が栄達するときには乳兄弟も必ず出世するというコンボ、主が女性の場合も成立するんですねえ。
 源氏の邸宅である六条院が登場。具体的な間取りまで考えて居室を決め、玉鬘は側室の一人である花散里の元で教育されることに。そういうことを差配するのは男主人の役目だったんですかね? 「これで若い貴公子が我が家に忍んでくるようなことがあったら愉快になるね」 若い娘を引き取って言うことがコレ。宮廷文学ってすごいなあ……
「姫君(玉鬘)はずいぶんと洗練された方だし、筑紫というのは優雅な土地柄なのかしら。でもその割に他の人たちはみんな田舎くさい」 都人にあらずんば人に非ずがあちこちで出てくる。
 そして元旦には大量の絹が献上され、側室たちの間で分配することに。所領から得たものなのか、それとも他の出所があるのでしょうか。これだけの権勢を誇っているなら贈り物もたくさんありそう。
末摘花の父上から歌学書をもらったけど、面倒くさくなって返しちゃった、と言い出す光源氏。怒る紫の上。源氏はぜんぜん悪びれない様子ですけど、そういうのは後々国宝とかになったりするので本当にちゃんと取って置いて欲しい。
きらびやかな絹(美)も歌学書(学問)も思うがままに手に入る、それが京で権勢を誇るということ。筑紫でのいかにもむさ苦しい様子との比較が悔しいことにお見事です。やっぱり都人は嫌味だが。

当時の文化風俗がそのまま活写されている文学が現存している、今さらそれを言う?というのは重々承知の上で、妻問婚における子どもの立ち位置とか、乳母および乳兄弟と主人の関係、当時の京と地方との関係などがすらすらと頭の中に入ってきて、確かにあまりにも貴重です。
けど私はまだ内大臣さんが何者なのかをよく知らない。実父と再会していない玉鬘がこれからどうなるのか、正室として遇されながらも子どもがいない紫の上の微妙な立ち位置はこれからどうなるのか。
それと本人も言っていましたが、これだけ妻が居るのに本人が言うとおり「子どもが少ない」源氏さん、ギリギリ息子(夕霧)がいるからなんとかなりそうですが、これは本格的に気を揉んじゃうやつだ……



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