見出し画像

ロードレースとプロテクター:続レース編・普及の未来(?)編

※本記事は私が以前書いた「ロードレースとプロテクター:レース編ほか」の続きとなっています。ご覧になっていない方は、先に前回の記事をお読みいただくことを推奨いたします。

続レース編

 さて、前回の記事では南魚沼ロードレースにて初めてプロテクターを実戦投入した際の感想を書きましたが、今回の続レース編ではそれに引き続いて参戦した群馬CSCロードレース2連戦において感じたことや確認したことを書いていこうと思います。詳しくは後述しますが、個人的にもプロテクターに関することについても実りの多い2連戦となりました。

【重要】プロテクター着用を許可する際の基準について

 前回の記事において私は、南魚沼ロードレースに参加するに先立ってJBCFからプロテクターを着用することについて許可を得ていたという内容を書いていました。しかし前回書いた内容だけだとこの許可が私に対して出されたものなのか、私が着用している製品(サステック:下記URL)に対して出されたものなのか、それとももっと普遍的に許可されるものなのかという部分が不明瞭でした。

 そこで今回参戦した群馬CSCロードレースにおいて、実際にこの許可を出すのに関わったJBCFスタッフの方とお話しをした結果、いくつかの事柄について確認を取れたのでその内容を以下に記していきます。

・UCI規則において衣類に関する規制を示す条項は存在するが、それらが想定しているのは主に最も外側に装着される衣類の加工(ボルテックスジェネレーター等)であって、インナーに装着する衣類を規制することを示すような条項は実質的に存在しない。プロテクターの身体保護という目的にかんがみても、現在の規則は胴体部のインナーとして軟質のプロテクターを装着することを妨げるものではない(ただしプロテクターによってあまりにも大きく身体形態が変更される場合はこの限りではない)。この見解はJBCF独自のものではなく、JCFにも問い合わせたうえでの結論として出されたものであるため、学連・高体連等のUCI・JCF規則を採用している競技団体においても同じ理論を用いてプロテクターを着用できる可能性が高い

・上記の見解はプロテクターがインナータイプであることを前提としているため、今後仮にジャージ一体型のプロテクターが登場することになった場合に現行の規則上許可されるかというのは不明である。

・硬質のプロテクター装着の可否は、動きに対する制約等の問題があるため現実的に選手が着用することを想定しづらいとして、今回は協議されていない。また、膝や肘、頸部等の露出部分へのプロテクター装着の可否も今回は協議されていない。

 要約すると、「体の形を大きく変えてしまわない限り、胴体部にインナーとして柔らかい素材のプロテクターを装着することは広く認められる」ということになります。上記タイプのプロテクターであれば着用者が私でなくとも、また装着するのが私の使用している製品でなくとも幅広く着用可能ということですね。胴体部以外にプロテクターを着用したい際には改めて判断を仰ぐ必要はありますが、このシリーズの最初の記事において示した私が求めるタイプのプロテクターであれば、現行規則上簡単に着用が認められると確認をとることができたのは大きな進展です。

この程度の身体形態の変化は全く問題ない
photo:(c)gg_kasai


 また、上にも太字で示した通りインナーにプロテクターを着用することがJCFの見解によっても認められたというのはかなり大きい出来事であるように感じています。今後の活動における様々なことを、このJCFの見解に基づいて考えていけるようになったのはプロテクターに関する検証を始めて以来最大の進展であるといっても良いかもしれません。


DAY1

 ここからはレース時の話に入っていきます。
 2連戦初日のDAY1は群馬CSC逆周りを10周、計60km走るレースでした。距離は短かったものの、断続的に雨が降って寒く感じるほどという厳しい条件下でのレースでした。私としては前回の南魚沼と真逆の気象条件の中で、プロテクターに対する感触が変わるのか等にも注目していました。
 レース開始時こそやんでいたものの、スタート後すぐに再び降り出した雨は2周目に一時レースがストップするという展開と相まって選手たちの体を冷やし、リスタート後のペースアップでは多くの選手が脱落していきました。

photo:(c)gg_kasai

 そんな厳しい展開の中で私がメイン集団に残れたのは、イナーメのレインジェルとプロテクターのおかげだと言えるでしょう。特に背面部のプロテクターが降ってくる雨の多くをはじくことによって体が冷えづらくなるという効果は、走っていてはっきりと感じられるものでした。別にプロテクターに対してそのような効果を求めていたわけではありませんが、思わぬ副次的なメリットとしてレース中非常に助けられました。
 この日は最後までメイン集団に残り、18位でゴールしました。


DAY2

 DAY2はDAY1と同じく群馬CSCの逆周を、倍の20周120km走るレースでした。気象条件的には曇りから時々晴れ間も見える走りやすいものでしたが、3時間を超えることになるレースの中でプロテクターに対する感想が変わるのかというところに気を配りながら走っていました。
 このレースでは個人的にも大きなチャレンジとして、序盤から逃げ集団に加わってみました。私以外はE1での上位常連など非常に高い実力と実績を誇る選手達で構成された5名の逃げ集団でしたが、その中で一時千切れそうになる場面もありながらも約7周、40km程にわたってローテーションを回し逃げることができました。

photo:(c)gg_kasai

 昨年は同じコースで似たような動きをしようとして1周でドロップした挙句にメイン集団にもついていけずにDNFという憂き目を見ましたが、今年はメイン集団に吸収された後も最終周まで持ちこたえ、最後の登りでドロップしてしまったものの41位で無事に完走しました。
 このレースは私自身としても非常に楽しく走ることができたうえに、序盤から高い強度で走り続けたうえでの3時間以上にわたるレースでも、プロテクターが体に対し悪影響を及ぼしているような感覚がなかったということを確認できるなど多くの収穫があるレースでした。

普及の未来(?)編

 ここからはプロテクター普及の未来(?)について個人的な考えを書いていくことになります。なぜ(?)が付くのかですが、私はメーカー側の人間ではなくしがない一大学生であり、実際にロードレース向けのプロテクターが開発されているのかを確認できない立場にあるためです。これ以後の話はロードレース向けのプロテクターが開発されている、あるいは今後されることを前提にしているため、もしかしたら私の完全なる妄想・理想論を語るだけの編になるかもしれません。この前提に注意したうえでご覧いただけますと幸いです。

UCIが規則化しないと普及しない?

 ロードレースとプロテクターの関係を論じる際に往々にして出てくる意見として、「UCIが規則化しない限りロードレースにおいてプロテクターは普及しない」というものがあります。これは一面においては事実なのでしょう。規則化により様々なメーカーが参入し、急速に技術が発展するとともに一般層にまで広まるというのはヘルメットがこれまでたどってきた歴史であり、プロテクターにおいても規則化というのは重要な論点になってくると思われます。
 しかし、だからといってUCIが規則化するまでにできることはないのかと言えば、その答えは否だと私は考えています。というよりも、初期の普及はUCIの力を借りないで行う必要があるというのが私の考えです。またもヘルメットのたどった歴史を見ることになりますが、例えば初めて自転車専用ヘルメットとされる製品が発売されたのは1975年であり、1980年代から90年代にかけてもヘルメットについていくつかの技術革新がなされています(参考:Wikipedia「ヘルメット(自転車)」)。UCIがロードレースにおいてヘルメット義務化の試みを本格的に始めたのは1990年代、最終的に義務化されたのは2004年のことになりますから、自転車用ヘルメットというのはUCIが関与しだす前からすでに10年以上の歴史を持つものだったのです。私は当時を生きていた人間ではないため確かなことは言えませんが、UCIがヘルメット義務化の試みを始めた1990年代には、世界中の人々が近くの自転車ショップに行けば簡単にヘルメットを買えるという程度の状況にはあったのではないでしょうか。そうでなければUCIほどの影響力のある組織が装備の義務化という大改革に乗り出すことはできないと私は考えています。
 これらのことにプロテクターの現状を当てはめてみると、ロードレース向けのプロテクターというものは発表すらされていませんし、当然近くの自転車ショップに行ったところで簡単に購入することなどできません。このような状況であるにもかかわらずUCIが「来年からロードレースにおいてプロテクターを義務化します」などと言い出したら大炎上待ったなしでしょう。つまり、UCIにプロテクターの義務化を検討してもらえるような舞台はメーカーやユーザー側が作り出す必要があると考えられるのです。

規則化への筋道

 では日本にいる私たちがこの舞台を作り出すためにできることは何で、そのための筋道はどういったことなのでしょうか。ここからは妄想に妄想を重ねた議論になってしまいますが、少々お付き合いください。
 そもそもとしてロードレース用プロテクターが開発及び販売されることが必要ですが、これがないと話が進まないのであったということにしましょう。そのうえである程度この存在が日本の自転車業界に浸透したと判断できる状況になれば、まずは高体連や学連、JBCFなどの競技団体ごとの規則においてプロテクターに関する文言を入れるように要請することは可能でしょう。いきなり義務化を求める必要はありませんし、「装着することを推奨する」くらいの文言を入れてもらえるだけでも効果は出ると思います。特に高体連や学連のような組織は「発達途上にある青少年の身体を保護するため」等の理由付けがしやすいですし、保護者の方々からの支持も比較的取り付けやすいと思われますので切り口として適任であるように思えます。
 そうして国内のレースシーンにおいてプロテクターが徐々に地位を確立することに成功したならば、次はその取り組みを海外に発信していくことが求められるでしょう。海外選手が日本に訪れる大会において宣伝するのでも良いでしょうし、現代らしくSNSを活用するという方法も当然使うべきだと思います。それらの発信がいったい誰に届き、どの程度の効果を上げるのかというのは全く想像できませんが、少なくともヘルメットの際よりは早く情報が回り、UCIやUCIに対して影響力を持つ人物、組織の目に留まりやすくなっているでしょう。

おわりに

 ここまで妄想の重ね掛けのような意見を述べてきましたが、仮に上記のような展開が理想通りに回ったとしても、ロードレースにおいてプロテクターが普遍化するまで少なくとも5年以上はかかるでしょうし、うまくいかなければプロテクターを導入するという取り組みが断念してしまうことすら容易に考えられます。なにせ人類は100年以上もプロテクターを着用せずにレースを走ってきたわけですから、むしろそうなる方が自然にすら思えます。しかし、ヘルメットはその戦いに打ち勝ちました。前例がある以上、プロテクターが絶対に導入できないという道理はありません。
 しかしこのプロテクターに関する議論をさらに進展させるには様々な人の力が必要となるでしょう。検証者もより幅広い層から出てきてもらう必要がありますし、プロテクターを作る側、ルールを作る側の方との協力も不可欠です。ロードレース自体の普及のためにもこれまでの先入観を捨てて、ロードレースとプロテクター、またはそこに行き着かなくともロードレースの安全性について真剣に考える人が一人でも増えることを願ってやみません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?