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ロードレースとプロテクター:プロテクター比較インプレッション編

※本記事は私の執筆している「ロードレースとプロテクター」シリーズの第4弾となります。過去記事は以下のリンクよりお読みください。
アンケート考察・ファーストインプレッション編
レース編ほか
続レース編・普及の未来(?)編

 前回までの記事は主にプロテクターを自転車競技に導入すること自体の可否について考え、いくつかの考察と検証を通じて私が持つようになった「プロテクターを自転車競技に導入することは十分に可能である」という考えを発信するものでありました。喜ばしいことに、そんな発信を見ることでプロテクターに関心を持ち、あまつさえ実際に購入してみてくださる方もいらっしゃるようですね。しかし、その一方で多くの自転車競技関係者の方々にとってみればプロテクターというのはいまだ得体の知れぬものであって、興味を持つことがあってもなかなか購入まで踏み切れないという状況にあるであろうことも理解しています。そこで本記事では私が現在所持しているプロテクター3種類のインプレッションを書くとともに、プロテクターを購入する前に知っておきたいであろう情報についても紹介することによって自転車競技関係者の皆様とプロテクターの距離を少しでも縮められればと思います。

比較インプレッション

 今回私が比較するのは以下の3種類となります。
・【DAYTONA】HBP-022 ストレッチプロテクターベスト(以下「DAYTONA」と表記)

・【POi DESIGNS】BPJ-03P SPORT GUARD BODY CE(以下「POi」と表記)

・【HYOD】D3O® AIR PROTECT VEST (onepiece)(以下「HYOD」と表記)

 これらは全て体の形状を大きく変更せずにインナーとして着用可能であり、プロテクター本体は胸部・背部ともにCE規格レベル1に適合しながらも柔らかい素材で構成されているという、前回の記事においてJBCF及びJCFの見解として示されたレースの際に着用しても問題のないプロテクターの条件に合致するものとなっています。
 今回はこれらの3製品の中で着用感、通気性、防御力の3項目について3段階評価をしつつ、その他の要素についても触れていきます。
※今回のインプレッションにおいては自転車競技で使用することを念頭に上記の製品を評価しますが、これらの製品は自転車競技で使用するために開発された製品であるとは限らず、ここでの評価とはあくまでもイレギュラーな使い方をした際の評価であるということに留意して以下の内容をご覧いただけると幸いです。

DAYTONA

 DAYTONAはこれまでの記事において「サステック」として紹介してきたものと同一製品です。私が最初に購入し、最も多くの時間着用し、また今回紹介する中で唯一暑い時期のレースでも試すことのできている製品となります。重量は530gと、今回比較する3種類の中で最も軽量です。

〇着用時の外見 

未着用状態
DAYTONA着用中

 着用時の外見はかなりスマートに感じられます。前から見ると薄っすらとプロテクターのラインが見えていますが、後ろは前ほど目立たず、横から見るともうほとんどわかりません。近い距離で人と話していても着用していると気付かれる方が稀ですし、自転車に乗ってしまえばさらに分かりづらくなります。

〇着用感 ★★★
 着用感は非常に良好です。初めて着用する際には胸部に若干の存在感がありましたが、上からジャージを着て走り出してしまえばほとんど存在を感じなくなりました。比較的軽量でプロテクターの面積自体も小さいおかげか、スプリントから背面ポケットからの補給といったものまで、ロードレースで考えられる動きに支障が出たと感じたことは一度もありません。

〇通気性 ★★☆
 通気性はこの3製品の中だと中間にあるように感じます。胸部のプロテクターにはかなり多くの穴が開けられており、またベストの生地も風を遮るような材質のものではありませんが、それでもプロテクターのある部分から風が抜けてくるようには感じられません。だからと言って、暑い中で胸部や背部がはっきりと分かるほど蒸れてくるのかと言われればそのようにも感じないので、特別優秀ではないものの暑い中でも着用するのに十分な通気性は持ち合わせているように思えます。少なくとも私は、気温35℃程度のレースでもこのプロテクターを着用して問題なく走りきれています。

DAYTONA 胸部

 背部のプロテクターについては小さな穴が開けられているのみですが、それでも特別蒸れるようには感じません。下の写真を見ると分かるようにプロテクター自体の面積が他の製品に比べて小さいため、プロテクターのない部分から熱を逃がせているのではないかと考えています。

DAYTONA 背部
背部プロテクター面積比較
上からDAYTONA、HYOD、POi

〇防御力 ★
 防御力は最低評価の★1つとなります。その理由は、胸部・背部ともにプロテクターの面積が3種の中で最も小さいことです。重量の軽さと着用感の良さはこの部分とのトレードオフということになるでしょう。

胸部プロテクター面積比較
上からDAYTONA、HYOD、POi

 ただし、プロテクターの衝撃吸収能力自体は3製品ともCE規格レベル1適合製品ということで大きな差はありません。そもそもこの★比較自体がこの3製品の中でのことなので、ここでの★の数の違いが実際の落車時の身体防護について与える影響というのは、プロテクターを着用しているかしていないかの違いと比べれば非常に小さなものとなるでしょう。
 なお、DAYTONAはこの製品に対応したプロテクター本体を別売りしており、面積は広がらないもののより防御性能の高いCE規格レベル2に適合したプロテクターを手に入れることも可能です。

〇その他
 
DAYTONAについてこのほかに少々気になる点があるとすれば、使用を重ねていくと背面プロテクターの裏側(体に着く側)が黒ずんでくるということです。これに関しては脱いですぐ洗うようにしていても徐々に黒ずんできてしまいましたし、私以外の方の写真を見ても同様の状態となっているようなので、製品の特性の一つなのでしょう。

もとは表面と同じくきれいな黄色だった


POi

 POiは今回紹介する3製品の中で最もプロテクターの面積が広く、その代わり重量が最も重い900gとなっています。

〇着用時の外見

POi着用中

 外見は前、後ろ共に着用していることがかなり分かりやすくなっており、横からも注視すると何かを着ているのが分かりそうですね。ただ、これを着用して出場したレースで近い位置を走っていた選手に聞いてみても分からなかったというので、自転車に乗っていればプロテクター着用の有無というのは思っている以上に分かりづらいものなのかもしれませんね。

着用感 ★★
 着用感は先に紹介したDAYTONAや、この後に紹介するHYODよりも劣ります。特に胸部のプロテクターは着用すると写真で比較してみた時以上の存在感がありました。ただし、そのせいで自転車上での動きに制約がかかるかと言われればそのようなことはなく、ダンシングやスプリント、低い姿勢の巡航から補給食の摂取まで問題なく行えました。

通気性 ★
 通気性は3製品の中で最も悪いと言わざるを得ません。胸部、背部ともにプロテクターの面積が最も大きく、それでいて穴が特別多く開けられているわけでもないため仕方のない部分でしょう。

POi 胸部
POi 背部

 12月という寒い時期に行われたレースにおいても、連続でもがくような場面になると胸部プロテクターとの接触部分や背部の首に近いあたりが蒸れてくるのを感じられます。また普段使いで気温28℃ほどの日に試した際には信号待ちなどで停止した際に背部が蒸れる感覚が強く、より暑い日に着用するのは厳しいと思いました。

〇防御力 ★★★
 防御力は今回の3製品の中だと文句なく最高評価をつけられます。胸部、背部ともに保護される面積が広く、落車時に体が転がってしまうような状況においても怪我を最小限に食い止められるでしょう。

〇その他
 
3製品の中でPOiは唯一、ベスト部が手洗い推奨であると明記されています。プロテクターを外したうえで、40℃以下の液温で手洗いし日陰で乾燥させるというのが公式ホームページで紹介されている洗濯方法です。

HYOD

 HYODは見た目からも分かる通り、通気性に力を入れて作られたプロテクターです。胸部、背部ともにプロテクターに多数の穴が開けられており、さらにベストもメッシュ生地を採用しています。また税込27,390円とDAYTONAやPOiと比べて3倍近くも高価であるという点も考慮要素に入ってくるでしょう。重量は820gです。
 私が所持しているものは胸部プロテクターが一体型でファスナーが右寄りに配置されたモデルとなっていますが、他の2製品のように胸部プロテクターが左右に分割されているモデルも同価格で販売されています。

〇着用時の外見

 外見は先に紹介した2製品の中間といったような印象を受けます。どちらかと言えば胸部はDAYTONA寄り、背部はPOi寄りに見えますかね。これも自転車の上でそこまで目立つものではありません。

〇着用感 ★★☆
 着用感は良好です。胸部は一体型となっているため面積自体は広いものの外端部の大きさはDAYTONAとほぼ同サイズであるため、DAYTONAを先に着ていた身としては大きな違和感なく着ることができました。背部はやや大きめであるため若干存在感を感じることがあるかもしれませんが、私の場合はすぐに慣れました。もちろん自転車上での体の動きにも制約を感じることはありません。

〇通気性 ★★★
 
通気性はこのプロテクターの本領というところもあり、非常に優秀であるように感じます。特に胸部はプロテクターがあるはずの部分からも風が抜けてきていることを感じられました。

HYOD 胸部

 ただ、何度ももがいたりするようなシチュエーションの後では背部がかすかに蒸れるように感じられることもあります。これは単純にDAYTONAよりもプロテクター部の面積が大きいからであると考えられるため、本体を風が通りやすくする工夫によって通気性を確保するHYODとプロテクター部の面積の小ささから通気性が良く感じるDAYTONAでは通気性の質が違うかもしれません。

HYOD 背部


 また、HYODについては気温25℃以上になるような日に着用して走ることができていないため、暑さへの対応力は未知数な部分があります。

〇防御力 ★★☆
 
防御力は今回の3製品の中では中間にあると評価します。胸部が一体型であるために中心のラインについては他よりも防御力が高いでしょうが、その一方でPOiほどの保護範囲が広いわけでもありません。
 また、HYODのベストのお腹の部分には薄いスポンジ状のプロテクションも付いており、無いよりはマシ程度のものではあるものの防御力を高めています。

〇その他
 通販で購入する場合HYODはamazonで購入することはできず、一部サイズが楽天で販売されている他は公式サイトから購入することになり、どちらも販売価格は定価のままです。
 あと、胸部プロテクターをベストに収納するのがややきつく、無理に入れようとするとベスト側が破けます(1敗)。

どのプロテクターを選ぶべきか

 ここまでプロテクターを3製品評価してきましたが、結局のところどのプロテクターを選ぶのがよいのか?人によって重視するところは様々あると思いますが、ロードレースに使うために1枚選ぶとするならば私はDAYTONAをお勧めします。

 理由としては、まず非常に着用感がよいことが挙げられます。プロテクター部が小さいことと軽さが相まって他の2製品と比べても走っている途中にプロテクターの存在感が薄いことを如実に感じますし、それでいて防御力も不安に感じるほどのものではありません。ロードレースで使うことを念頭に置くとDAYTONAのプロテクター部の面積は通気性と軽さ、防御力、動きやすさのバランスが取れた絶妙なものであるように感じられます。
 
 また、HYODも良い選択肢になると思います。胸部からも風が抜けてくる感覚というのはDAYTONAでは味わえないものですし、防御力も高めなので、この2つの要素のために2万円近い金額を余計に支払えるのであればそこまで大きく後悔することはないと思います。ただ、HYODに関しては暑い環境下での検証が十分にできていないために、私からはDAYTONAほどオールシーズンで活躍できますと断言できません。

 一方、POiを選ぶというのはロードレース選手に向けてはあまりお勧めできないかなと思います。プロテクター部が大きく通気性が悪いというのがネックになってしまい、寒い間はともかく日常生活で暑さを感じる程度の気温になってくるとパフォーマンスにも影響が出かねないと思います。着用感に関しても、普段POiを使っている父がDAYTONAを着て走るとかなり軽さを感じ、存在感も薄いと言っていたことから明確にDAYTONAにアドバンテージがあるように思えます。
 しかし、シクロクロスを主戦場とされる方にとってはPOiは有力な選択肢になりえるかもしれません。冬に行われるシクロクロスであればPOiはむしろ寒さをしのぐ防寒具としても機能しますし、バイクを担ぐ際にハンドルが胸に当たってしまうという方向けにも、より広いプロテクター面積は良い方向に働くかもしれません。…とはいうものの私はシクロクロスを走らないので、実際のところPOiがどの程度シクロクロスに適性を持っているのかを正確に判断することはできません。申し訳ありませんが、選ぶときは自己判断でお願いいたします。


プロテクターのここが知りたい!

 ここからはプロテクターを導入するに先立ち知っておきたいであろう情報について、いくつか紹介していこうと思います。

洗濯について

 プロテクターをどのように洗うのかを知りたいという声はいくつか上がっていましたので、ここで私のプロテクターの扱いについてお話ししていこうと思います。
 まず基本的なこととして、私の所持しているようなタイプのプロテクターは全てプロテクター部とベスト部が分離可能です。プロテクター本体を外してしまえばベスト部はただのポケット付きベストなので、POiのような洗い方の指定が無ければ洗濯機に放り込んで普通に洗えます。
 次に外したプロテクター部の扱いについてですが、そこまで汗をかかなかった場合には除菌シートでプロテクター全体を拭いてから収納場所にしまうようにしています。長時間のライドであったり、かなり汗をかいてしまったという場合にはシャワーを浴びる際に一緒に持ち込み、全体を流したり軽くもみ洗いなどしてから干し、ついでにリセッシュを吹きかけています。個人的にはこの程度は手間であるとも思いませんし、特に問題も起こっていません。

胸バンド式心拍系との相性

 私にはプロテクターを実際に着用する以前に、胸部にプロテクターを着用すると胸バンド式の心拍系と当たって痛みが出てしまうのではないかという懸念がありました。しかし、実際に着用してみるとプロテクターが分割型、一体型のいずれであっても問題なく胸バンド式の心拍系を運用できています。

耐衝撃性について

 プロテクターの耐衝撃性について説明するのはかなり難しいです。例えばCE規格レベル1に適合する胸部プロテクターというのは「5kgのおもりを高さ約1.02mから落下させ、約16.1km/h未満の速度で衝突させた際に伝わる衝撃が3.059kg以下」のプロテクターであると言うことは可能ですが、具体的にそれがどの程度の耐衝撃成果をイメージすることは非常に困難だと思います。正直なところ、これについては百聞は一見に如かずということで自ら触り、試してみてもらうのが一番なのですが、一応可能な範囲で所感を伝えてみようとは思います。
 私が着用しているプロテクターを他の自転車乗りが触ったときに、大体の場合は「意外にしっかりしている」「思ったより硬い」といったような感想が出てきます。私が所有しているプロテクターは全て着用時に体に沿う程度の柔軟性を持ち合わせていますが、実物はその「柔軟性がある」という言葉から受ける印象よりもかなり硬いものであると思っていただいても良いかと思います。
 そもそも日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)の競技規則ですらライダーの胸部、及び脊柱プロテクション装着義務としてCE規格レベル1以上に適合したものを指定しており、言い換えれば今回私が紹介したプロテクターは全てモーターサイクルスポーツの世界でも着用義務を果たせるほどの耐衝撃性を持ったプロテクターであるということにもなります。

プロテクターの弱点について

 プロテクターは確かに人の身体に加えられる衝撃を受け止め身体を保全し、特に生命に関わったり重篤な後遺症が残る可能性があるような怪我を防ぐのに役立ちますが、逆に言えば自転車に乗るという行為に関してプロテクターにメリットはありません。重量も重くなりますし通気性が悪くなって蒸れてくることもあります。誰もが認識している通り夏にパフォーマンスが落ちる可能性も大いにあるでしょう。上ではDAYTONAやHYODの通気性について高く評価しましたが、そもそも通気性を求めるならプロテクターなんてつけない方が良いに決まっています。
 また、私が個人的に大きいと感じている弱点は、遠征の荷物がかさばってしまうことです。ベストはともかくプロテクター本体は畳むことも出来ないので、遠征の荷物を作る際には普段通りの準備に加えて、バッグの中にプロテクターを入れるスペースを確保しておかないといけません。
 ただ私は自らの生命を守れる可能性が少しでも上がるのであれば、この程度の弱点を受忍しても構わないと思っています。当然価値観は人それぞれですから、皆さまは上記の弱点を認識したうえで、皆様なりの価値判断をしていただければ幸いです。

プロテクターの改善点

 現状世に出ている、自転車競技にも使えそうなプロテクターに関して私が考える改善点ですが、是非ともベスト部は別売りしていただきたいと思います。DAYTONAはプロテクター本体を別売りしているというのは上記の通りですが、逆にベスト部のみを単体で売りに出しているメーカーは私が確認した限りではありません。しかし、プロテクター本体とベスト部とではどう考えてもベスト部の方が早く消耗します。プロテクターは自転車のヘルメットとは違い何度衝撃を受けても再利用できるケースが多いですが、ベスト部は落車してしまえば破れますし、そうでなくとも日々プロテクターを出し入れするうちに破いてしまったり、生地が伸びてきてしまうということも考えられます。そのように考えると別売りに需要があるのはプロテクター本体よりもベスト部なのではないかと私は思うのです。
 今後世に出るかもしれない自転車競技向けのプロテクターというものがもしあれば、是非ともベスト部とプロテクター本体を別売りにしていただきたいと思います。さらに可能であれば双方にバリエーションを作り、好きな組み合わせを選べるというような仕組みにしていただけると、様々なニーズを満たせて買い手としても非常に助かると思います。

終わりに

 今年、2022年は様々なことがありましたが、とりわけインカレの事故は強く印象に残っています。今後、日本の自転車競技を発展させるためにはあの事故が世間に残してしまったイメージを払拭するだけの何かが確実に必要になるでしょう。少しでも早いうちに実効的な対策を普及させ、実績を積み上げていかなければ、危険なスポーツと認識された自転車競技の世界には新たに入ってくる人も減少し、今後さらに先細りしていく競技となり下がってしまうことは十分に考えられます。そのような状況の中で今自らができることを考え、少しずつでも実践してく態度というものが今の自転車競技に携わるすべての人々に求められるでしょう。私の意見や活動に賛成、反対といった立場に関わらず、自らが好きな自転車競技のために何か一歩踏み出す。2023年はそういった人が一人でも多く出てくる年になってほしいと願っています。
 それでは皆様、よいお年をお迎えください。


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