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[詩]「青の胞子」

海のような
空のような
その青は
彼の国の
人里離れた奥山の
森に囲まれた
小さな小さな湖の
午睡の頃の
水面の色なのだという

春まだ浅い
おぼろ月のかかる夜半には
彼の湖の水面から
音もなく
あまたの微細な
青の胞子が
群れて湧き上がり
渦巻きながらゆっくりゆっくり
月照らす紫紺の空へと向かうのだそうな

風に流され
幾月か
否幾十年
いまこの窓辺に
微細な青の胞子が舞い降りた

その青は
海のようであり
空のようでもあり
遠くの山脈のようでもある
例えようのない色合いをした
その青の胞子は
やがてここに固着する

その青の胞子を見つけた私は
運がよければ
幾十年か後
海のような
空のような
遠くの山並みのような
その青に遷移するのである



「青の胞子」は「青」シリーズの中の一篇です。
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