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[詩]「厭世」

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数年前の作です。悪しからず。
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テレビではお笑い芸人とおバカタレントと呼ばれる者たちを起用した
ワンパターンと言える番組が無限ループのように連日連夜にわたり放送されている
芸人たちが勝手にトークやギャグで番組を進行していってくれるので制作側の手間が省けるからである
でも テレビ局側の人間は「これは拙い」と感じていないのだろうか?
家族全員が茶の間のテレビに釘付けの時代はもう数十年も前に終わっている
そして メディアとしての役割と可能性を放棄して安易な方向に流れたテレビ局が流す報道はウソ泣きのようでどこか偽物っぽくて俄かに信じることができない
そうしたテレビをBGMのようにして点けている無明な大衆はどこに流されていくのか?
不思議な世界はさらに不可思議さを増していく

政治の世界では首相が国会で平気で嘘をつき
明らかに嘘っぽい顔をした取り巻きどもが恥の上塗りをする
果てはアメリカの大統領までもが虚偽をツイッターで呟く時代だ
何と薄っぺらい世界なのだ
いや為政者が人を騙すのは昔から変わらないことだ
そもそも時間の経過に従い世界はより良くなり幸福感も増すはずだという多くの人が信じる仮説は間違っている
進化や進歩は幻想なのだ

進化と進歩について説明すれば
得たものの代償として失うものが必ずあり
一方で失ったが故に思いがけず得るものがあるはずで
二面性をもつこの世界では得失の総量がいつも等しくなると規定されている

ゾウリムシとマグロとトカゲと鷹そして人間のどれが一番幸せか
愚問である
幸せという目に見えぬものは暇を持て余すようになった人間が創り上げた概念であり
普遍性もなくこの宇宙に適用される法則でもない
要するに人間にとっての幸せとは他の生物にしてみれば生きているとか満腹という程度の意味しか持たない
したがって答えは生きているという意味において皆成功者であり
つまらぬ観点からの指標においては皆一様に幸せであると言えるであろう
その中でも人間が一番お目出度く意味もなく苦悩する性質を持つと付け加えておこう

さて
この時代の空気感や雰囲気に激しい嫌悪感を抱きながら
私は尾根に設えた高窓だけしかない小さな部屋に一人で籠り
空を眺めて暮らしている
そして清談めいた哲学的な自問自答を繰り返し
純化しつつも無力化の螺旋階段を少しずつ下っている

今日は日がな一日
一国の宰相までもが現実から逃避し形而上の事柄だけを論じ
ぼんやりしているうちに他国の武力に圧倒されて滅んだ
遠い昔の国のことなどに思いを巡らせていた
現実から遊離した精神性は美しくとも無力である
そうだな 明日にはこの部屋を出ていこう
この世界に嫌悪しながらも現実の地に足を付けて
あの場所に向かって歩き始めるのだ

そうして今 私は色鮮やかな夕焼けを一人で眺めている


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