月と北極星
5日間のタイ一人旅も最終日。夜行列車でチェンマイに行ったり、アユタヤの遺跡を回ったりとても充実した旅行だった。最終日はバンコクに滞在し、深夜便の飛行機まで、時間をつぶしていた。
町中歩き回って日も暮れかけてきた。チャオプラヤー川沿いに倉庫街を改築したショッピングセンターがあり、そこまでシャトルボートが出ている。夕空の下でちょっとしたクルージングを楽しんだ。高層ビルの狭間からきれいな夕焼けと、月と北極星が見えた。
一日中歩き回って疲れがたまっていた。これから深夜のフライトなので少しでも疲れを癒したい。調べるとそこから歩いて10分ほどの観光客があまり来ないようなところにマッサージ街があるとの情報を見つけ、その中のとあるお店を訪れた。
勇気をもって扉を開け「タイマッサージ、OK?」と言うと、
少し年老いたお婆さんが受付をしてくれ、パジャマのようなリラックス着に着替える。最初の数分そのお婆さんが足のマッサージをしてくれたが、知らないうちにもう少し若い女性に代わる。
特に会話することもなく、愛想笑い等もない。なんともなしに施術を受けているが、力加減も絶妙で丁寧に丁寧に足や肩や背中をほぐしてくれる。
マッサージ時間の半分くらいが過ぎた頃、
「Where are you from ?」と突然質問をされた。
「I came from Japan」と私は答えた。
その女性は首を傾げる。
「Singapore?」
「No」「I'm Japanese」「Tokyo」
拙いなりに伝えようとしたが、伝わらず。この女性は日本を知らないのだろうか、、。
会話はそれで終わり、その後も丁寧なマッサージをしてくれた。私は日本を知らないことに対して、残念だとは思わなかった。
逆にどこの国ともわからないような私に心のこもったマッサージをしてくれていることに感激した。
「One hundred fifty baht」
150バーツを払った後、その女性にチップで50バーツを渡す。初めてのチップの経験だった。義務的にではなく、心のこもったマッサージをしてくれてありがとうという感謝の意味を込めたものだった。
マッサージを終え、暗い夜道を歩きながら考える。「日本を知らない人」に私は出会ったことはあったのだろうか?と。
日本は世界的にみんな知っていて、尚且つ好かれることが多い国というイメージだった。でも中には日本を知らない人もいるのだ、でも私は今までの人生で一度も出会ったことはなかった。それはなぜなのだろうか。
「日本に住んでいたり、訪れている人で日本を知らない人はいない。」
すなわち
「日本から出ない限り、日本を知らない人には絶対に出会うことはない。」
こんな、当たり前のことに今更気づいたのだ。異国の地を旅することは、気付かなかったものの見方をこのように与えてくれるのかと。
私は、一人で気ままに海外旅行したのは台湾に続き2回目だった。台湾では、日本人と名乗らなくても、日本語で挨拶されたり、向こうからコミュニケーションを取ろうとしてくれたことが多かった気がする。
今回のタイ旅行でも、欧米人の人に「二ホン、住んだことある、ダイスキ!!」と声をかけられたりした。
でもそれは「日本人だと分かって話しかけてくれている」だけで、実はごく一部なのかもしれない。
⏱⏱⏱⏱⏱⏱
日本に帰り、一日ぐっすり寝て、現実に戻った。
会社帰りにふと夜空を見ると、バンコクで船の上から見たのと同じ、月と北極星が見えた。
日本を知らない彼女や、今後出会うかもしれないまだ見ぬ異国の地の人たちも同じ風景を見ているかもなとしみじみ思った。
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