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ショートストーリー*

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記事一覧

いつか同じ景色を。

「紅葉が池に写って綺麗ですね」と私が呟くと、先生もまた「立派な庭園だね。物語の中にいるみ…

傘をさしてくれた人。

忘れられない人がいる。名前も知らないどこかの誰か。恋ってわけじゃない。けれど、心に何かを…

思い出のその先には、それぞれの人生を。

インスタントのコーヒーを入れて、ふぅ、とソファに腰を下ろす。 連日の自粛に暇を弄びながら…

凪いだ心に映るのは、本当の自分。

「好きだったのは、あなたじゃなく         あなたのステータスだった。」 好きだと…

恋する涼み客は、熱を帯びて帰路につく。

夏休みの予定は、半年前から決めていた。 この春就職した先輩に会いに、京都へ行くと。 川の…

「人生80年のうちの、たった1年」

飄々としていて胡散臭い、調子のいいことばかり言うマネージャーが言った言葉を、10年以上経っ…

赤いタンバリンを鳴らす君。

"あ〜好きなんだろうな、あいつのこと" わかりやすいほど目をハートにして、彼女はあの日、赤いタンバリンを叩いていた。あいつが歌う曲に合わせて、チャカチャカと楽しそうに撃っていた。 +++ この春入社した彼女は、僕らより7年後輩にあたる眩し過ぎる新入社員の一人だった。いつもニコニコしていて、周りをよく見てる。誰よりも努力してるくせに、そんなそぶりは一切見せない。謙虚で芯のある子だなと感心していた。 会社の飲みの二次会でも、みんなの飲み物を気にしたり、場を盛り上げたり、歌

途立つ娘は懐かしき日を思い出す。

離陸特有の浮遊感に、ヒュンッと内臓が浮き上がる。 ふと、あの日 父と下った坂道を思い出す…

見慣れた景色の美しさを知る時、私は初めて自由を手にした。

私は生まれ育った田舎町が大っ嫌いだ。近くにコンビニもないし、当然スタバもない。娯楽といえ…

自分探しの旅の果て。

30歳を目前に、私は猛烈に焦っていた。 同じような毎日。かと言って変える勇気もない。そのく…

私だけが知る、約束の行末。

「35歳になってもお互い独身だったら、その時は結婚しようか」 未練を残しながら別れたカッ…

ちっとも謎めいてなくたっていいから、ずっと私だけのヒーローでいて。

私にとって、彼はヒーローだった。 つまんない日々を極彩色に染めてくれた、優しくて、謎めい…

君がいつか忘れてしまっても。

キミちゃんは未熟児だった。ミルクの食いつきも悪く、年子のお姉ちゃんと比べてもずいぶん小さ…

行き着く先が見えなくて。

私たちはどこに向かっているのだろう。 どこに辿り着くのだろう。 私の未来に、彼はいるのだろうか。 彼と出会ったのは、大学2年の時だった。みんなで遊ぶ時もなんとなくよく一緒にいて、これといった大きなきっかけもなくいつの間にやら彼氏と彼女になって、あっという間に4年が過ぎた。 笑うポイントも怒るポイントもだいたい一緒で、映画の好みも食の好みもだいたい一緒。常にふたりでいるよりも、お互いの時間を尊重しあえるところも合うから居心地が良い。なんだかとってもしっくりくるし、自然体でい