料理におけるUIとUX

最近様々な所でUI,UXという言葉を見かける。少し前までは何のことか分からず意識もしなかったが、異なるジャンルの方達と触れ合う機会が増えたことで自然と考えるようになってきた。


UIとは『ユーザーとの接点』UXとは『ユーザーの体験』。このように言われている。では料理におけるUI,UXとは何なのだろう?


先ずはUI。料理、レストランにとってこのUIという部分はかなり重要だ。接点という意味で、椅子テーブルから始まりカトラリー、お皿やグラス。様々な食材。もっと広く言えば空間内に流れる音楽やサービスするスタッフもそういえるだろう。如何にスムーズに料理に触れてもらうかを考えた時、盛り付けという部分もUIに入ると僕は考える。

UX(料理を食べる事で得られる体験)は、その空間で感じる事、サービスから感じる事、コース全体から感じる事、そして一皿ごとに感じる事と多岐にわたる。その一つ一つにどのようなアプローチをするか?

パートナーの誕生日に来る方もいれば、結婚記念日や合格祝い。単純に美味しいものを食べるためなのか、勉強のために来ているのか。


僕が一番大切にしていることは、当たり前だが『美味しさ』だ。そしてさらに言えば複雑な組み合わせだとしても何を食べているか、食べてもらいたいかがわかる料理。奇抜なだけの組み合わせではなく、意図があり説得力があり納得できるもの。自分の考えを真っ直ぐに届けるためには、どうやって食べてもらうかまで考え抜かなければならない。そうなると必然的に盛り付けや形は決まってくる。

味を縦に層にする

例えばお菓子屋さんのケーキ。これは考えに考え抜かれている。テイクアウトが出来るため何処で誰がどのように食べるかが分からない。食べ方次第で届けたい味わいが届かないかもしれない。その為にどこをどう食べても味が一定になるように、縦にパーツを積み重ねている。どこをとっても同じ味わいが口に入るように設計されているのだ。これがバラバラに配置さえていると食べ手によってパーツごとの口に入る割合が変わってしまい、本来の美味しさが伝わらない。また食べる方向もある程度コントロールされている。


食べ方の進行方向は無意識のうちに決まっている

例えば三角にカットされたケーキ。ほぼ全ての人が鋭角な方から食べるはずだ。丸みのある方からは食べない。ケーキが鋭角な方を左向きにするからかもしれない。これは基本的に右利きの人が多いので左手にフォーク、右手にナイフを持つためで、左から右へと進む方が食べやすいので鋭角な方は左を向いている。なので人はケーキを見た瞬間に鋭角な方から食べようと無意識に感じる。

ケーキ以外でも同じで、料理を右から左に食べる人はあまりいません。無意識のうちにそれを避けるのです。何故なら動作として理にかなっていないからだ。また、奥から手前も理にかなっていない。なので、左から右へ、手前から奥へと味が変化するように盛り付けをすると、一皿の中で何度も味が変化するようにデザインできる。先ずは素材だけ、次はソースと、最後はソースと付け合わせとすべて同時に、と。相手に食べ方を伝えなくともある程度コントロールすることが出来る。


この二つの事から、味を縦に重ねるようにし、尚且つ左から右へ(手前から奥)と変化を付けた盛り付けにすれば、自分の意図する味わいの変化をデザインする事ができるのだ。ここまでをUIとしてうまく作りこむことで、UXの価値を最大限まで高められる。(ここに更に口の中での変化や香りの感じ方順番が絡んでくるがそれは次回詳しく説明する)

インスタ映えを狙いすぎ、味の重ね方や盛り付けの流れを無視してしまうと、見た目に対しての味わいのギャップで印象に残らない料理になりやすい。(写真を見ないと味を思い出せないなど)


更にレストランでは食材の情報やシェフの考え、合わせるワインなど様々な要素(UI)が掛け合わさり、舌も心も満たされ、感動へと導かれる(UX)。同時に知識や哲学にも触れる事が出来ると、その価値はさらに上がるだろう。

これから食はどう変わっていくのだろう。

美味しさは勿論だが『その先』が大切になってくる。

美味しいの先に何があるのか。

食べる事で生産者の事を知り、日本の一次産業について思慮を巡らせるのか。

食の安全について考え、自分たちは勿論、子供たちの未来まで語り合えるのか。

料理人のクリエイティブに触れ自分の仕事や人生に活かすのか。

美味しいだけではなく、その先にある何かに触れてほしい。どんなルートを通るとしても待っているのはきっと小さな幸せ。

どんな些細なことでもいい。あなたの人生をほんの一ミリでも動かせたなら、僕も幸せだ。


皆様の優しさに救われてます泣