数字を捉える。

梅雨が明け、そろそろ本格的な夏がやってきそうです。コロナ明けから大変だった飲食業界はこの暑さとも戦わなくてはならないので更に大変になるでしょう。どうすれば乗り越えていけるのか。

僕はどんな業界でも数字を把握し理解することは大切だと思っています。自分のしている事にどれだけお金がかかっているのかもそうですし、どんな割合でお金がかかっているかも理解しなければなりません。

これは当たり前のことなのですが意外と出来ている人が少ない印象です。

料理ならば素材にどれくらいかかるのか、人件費は?家賃は?維持費にどれくらいかかり、光熱費はどれくらいなのか?最近だとプラットフォームの手数料がいくらかかるかなども考えねばなりません。

僕はそれが普通で、知らなければならないものだと思っています。でなければ、収支を見た後にどこを改善すれば良いかがわからないからです。


良いものは原価で作られるわけではない。


これは声を大にして言いたいのですが、良いサービスや商品はかけた原価の分だけ良くなるわけではありません。その商品にあった適正値というものがあり、そこからバランスをとって全体像を描く必要があるからです。

良い料理を作ろうと思うと良い食材を使いたくなるのは当たり前のことです。高級レストランでは原価率が35〜45%なんていうのはざらにあります。それ自体は全然問題ないと思っていて、それでも収支が合うのなら気にする必要がないからです。

しかし、コロナで世の中が変化し、店舗以外で料理を提供するときに今までと同じ感覚で商品を作ってしまうパターンがあります。

例えばデリバリーでウーバーイーツを使う場合、使うとなった時点で35%の手数料を支払う必要があります。それなのに今までと同じような数字のバランスで商品を作ると当たり前ですが数字が合いません。作れば作るほど赤字になる可能性まであります。

これは考えれば直ぐにわかることなのですが、プラットフォームを使ってから儲からない、意味がない、などと言い始める人も少なくない。なぜこのようなことが起きてしまうのか。


数字で戦えるか?


実店舗で販売する事とプラットフォーム上で販売する事、自社ECで販売する事は、同じ料理を作るとしても意味合いが全然違います。かかってくる経費が違うので当たり前なのですが、この辺りの数字の概念を理解してない場合があるからです。

実店舗の場合、手数料などはほとんどかかりませんが家賃が存在します。だからこそ数字の計算が楽なのですが、プラットフォームの場合手数料がかかります。この数字を把握しなければいけません。売上に対する何%が経費でかかるのか。実店舗で営業をしながらプラトフォームを使うのか、プラットフォームだけで販売するのかでも変わります。

飲食は販売方法は多様化してきてますが、それに合わせた商品開発や数字の調整をちゃんと出来ている人は多くありません。それはモノを作る事に重きを置きすぎているからです。

モノを作る事は一番大切です。そのモノが良くなければ評価は得られませんし顧客は掴めないからです。だからこそみんなそこだけには意識を向けます。しかし売れた時、軌道に乗った時の事を考えていないケースがあります。

どんなに良いモノでも数字が残らなければ意味がない。お客様が喜んでもスタッフや自分たちが潤わなければ継続できないからです。

1個モノを作る事と1000個作る事は別物ですし、1個モノを売る事と1000個売る事も違います。同じモノを作っていても数を大きくしていく中でかかる費用の割合が変化する場合があります。特に人件費や売上に対する家賃の割合は大きく変化します。


固定費と変動費の概念とは。


一般的な飲食店の場合、家賃は固定費です。店の広さに対して席数が決まるからです。客単価×客数×営業日数で全て決まります。この場合、その店舗の売り上げの絶対数が決まり、それに対する家賃比率は変わらないので固定費になります。

しかしECやデリバリーの場合、客数の概念に天井が無くなるので(限界はあるが)売上は店舗の場合よりも大きく伸びる可能性があるので、売上に対する家賃比率は変化します。

20席しかない店舗で1回転に1時間かかるとすれば、1日10時間だとして200人しか提供できません。時間制ならきれいに回りますが、時間制ではない場合、食事をする人の食べる時間に左右されます。これは店舗側ではコントロールしにくい部分。

しかしデリバリーやテイクアウトのなら調理時間という自分たちでコントロールできる部分で戦えます。これはとても重要な事で、努力した分縮める事が出来るし、それによって売上を伸ばせます。客数の概念がなくなる事は飲食店にとっては革命です。

更にECになると物理的にアクセスできる人数の桁が外れます。

例えば店舗に受け取りに行くなどの場合、会計にかかる時間やその店舗に入れる人数などに制限がかかります。20人しか入れないお店に100人入れませんから。しかしネット上なら何百人でも何千人でも集まれます。これは本当に凄い事です。

一般的な飲食店はお客様のスペースと製造スペースが同じところにあります。その分広さが必要ですし、広くなる分だけ初期費用がかかる。

しかしデリバリーやテイクアウト、ECなら席が入らないので、製造スペースだけ確保すれば良い。また、立地なども通常の飲食店ほど考慮しなくて良くなります。(商品が移動するという意味で。ECは特に。)

現在僕が手伝っているシェアキッチン事業のプライベートブランドのデリバリーでは2坪ほどのスペースで料理を作っています。通常の飲食店ではあり得ませんが、この場所で月商450万を生み出しました。これはまだまだ売上が伸びる余地があり、その分だけ家賃比率は下がり、利益が出やすくなります。家賃が変動費になるのです。

これはデリバリーという形態に合わせた商品開発とオペレーション構築の賜物です。それなしにはあり得ません。手数料が35%かかったとしても数字が残るバランスにすれば良いだけなので利益も出せます。

このようなシェアキッチンの場合、飲食店起業にかかる初期費用がかなり安く抑えれられます。リスクなく始めて実験ができるのです。


数字のバランスは大きく変化しない。


飲食店なら家賃は10%、原価率は30%、人件費率は20%などと大枠の数字は決まっています(この辺りに収めると良いよという指針)しかしそこに収めるのはかなり大変です。

この計算からすると家賃が30%かかるとほとんど利益は残りません。だからこそ目指す売上にあった家賃を知らなければなりませんし、家賃に合わせた売上目標を立てる必要もあります。

どちらから決めても良いのですが、全体のバランスを整えられるかで判断すべきです。その中でどれくらい利益が見込めるのか、その為にどの費用を調節するのかを考えるべきなのです。

利益を減らしてでも良いモノを作りたいならその分材料費をかければ良い。しかし利益が出ないのに材料費をあげる事は基本的にあり得ません。だからこそ全体の数字のバランスを掴む必要があるのです。ここが今後の飲食店やモノ作りの中でかなり重要になります。

店舗型からECや様々な手段でモノを届ける場合にどのように数字を整えるのか。数字を理解しなければやっていけません。

逆に飲食店の場合、人件費は固定費扱いです。残業代がつかなかったり、何時間働いても給料が同じという概念がいまだにあります。

本来は変動費であり、残業代は通常の給与の1.25倍です。そんな当たり前の事を無視しているからこそどうにか成り立っているという側面もあり、本当に変えていかなければなりません。

数字の正しい理解は、環境を整える事になるのです。





レストランなどの素晴らしい料理の価値は良く理解しているつもりです。しかし時代に合わなくなっていたり、持続性がない事も周知の事実です。こんな時代だからこそ、持続性のある、健全な数字の仕事をするべきだと思います。

数字を理解することから始め、どのように健全にしていくか。働く人もモノを買う人も健全で幸せになれる構造をどのように作っていくか。

僕自身ももっと考えて、やりがいも、数字も、文化的なものも守れるように挑戦していきたいと思います。

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新しい料理人の働き方から、個人でどう生きていくか、どう価値を生みだしていくかを色々な視点で書き綴ります。月3~4回ほどの更新なので、定期購読がお勧めです。

曜日や時間、場所に捕らわれずに料理を自由に表現するためにレストランを辞めた料理人の働き方を変えていく奮闘記。 これから増えていくだろう料理…

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