長谷川麟『延長戦』を読んでの感想
はじめに
珍しく歌集の感想の記事です。
オンライン歌会の「茶屋町歌会」などさまざまな場でお世話になっている長谷川麟さんの第一歌集『延長戦』を読み終えた。
長谷川さんにお会いした時にご恵贈くださった歌集で、サインも書いて頂いた歌集です(自慢です)。
読んでる途中はところどころで笑いながら読んでいたのだが、読み終えた時はなんだか嬉しいさみしさを感じた歌集だった。
笑いの理由
笑った歌には共通点があって、自分で言葉にすると"詰み"の歌だ。
一番好きな連作である「夜ともなれば」から2首引用する。
1首目がわかりやすいだろうか。
主体が妹に結構強烈な言葉をもらう。こんなことを言われてしまったら主体としてはもう言い返す言葉が見つからないのではないだろうか。まさしく"詰まれた"会話である。関係性としても主体と妹のパワーバランスや妹の強烈な個性が際立ち、連作を面白くする1首だと思う。
2首目も主体としてはもうどうしようもない状況にあって、これも歌として提示されたら笑ってしまう。
どちらの歌も主体の弱い部分が見えてきて、読み手であるぼくはクスクス笑いながら読んでいた。
こういった類の歌は全編を通して多く出てくる。
さみしさの理由
では、読後の嬉しいさみしさはどこから来たのだろう。
簡単な言葉にしてしまうと"未来への意志"だと思う。
まず表題作である連作「延長戦」から1首引用する。
そのまんま"未来"というワードが出てくる。またバイトへと向かうことも先へ進む意志を表している。
この"先へ進む意志"を感じさせる歌は特に歌集の後半で多く出てくる印象がある。
連作「いーぶん」からも1首。
まぶしい。
大きいクリスマスツリーを求めるのは家族がいる人、それもこの先しばらくは楽しく暮らせるほどの仲睦まじさのある家族がいる人、もしくは家族になるパートナーがいる人だろう。
あたたかい気持ちになるとともに前へと進む強さを感じる。それも生活感のある強さだ。
まとまるかわからないまとめ
そう。強さが大事なのだ。
この記事を書いているぼくは自己認識としては詰んでる部分の多い人間である。だからこそ笑いの理由で引用した詰みの歌に出てくる主体の弱い面で大いに笑ったのだ。共感の笑いである。
しかし、この笑いだけでは良い歌集とは思わなかっただろう。さみしさの理由で書いたような未来への意志がところどころで出てくるからこそ、主体の生活感のある強さがあったからこそ、手元に置いて何度も読み返したくなる読後感を抱いたのだ。この弱さと強さのバランスが、"詰み"と"その先"のバランスが歌集を読み終えた時に嬉しいさみしさを感じさせてくれる。
歌集という単位で優れていると思う。自然と好きになれる歌集でした。
簡単かつ短めですが感想でした。
読んで頂きありがとうございました。
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