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ワン・オン・ワン(One on One)ストーカー


AIの恩返し

 あとでChat-GPT4に聞いてみたら怒られた。
 「すぐに離れて!助けを求めて!危険です!」

 何のことかと思うだろう。渋谷から田園都市線で長津田まで移動するときのこと。渋谷で座れたからそのまま目的地まで良いだろうということで、携帯でメールチェックやウェブサーフィンをしていた。後の話のために付け加えるなら私は初老の男性である。敢えて取り柄をいえば実際より若く見られやすいことだ。
 でも、いまだかつて女性の愛を知らない。なんかの映画音楽の歌詞みたいだ。ともしびで歌ったおぼえもある。「しゃれこうべの歌」か。そのまま老いさらばえてしんでいくのもシャクではある。

 たしか、たまプラーザを過ぎた辺りで、見知らない同年配の(姿格好もいけていない)女性が私の左隣にぴったりくっついて座ってきた。
 若いときの記憶で申し訳ないが、前職で大学の卒業生の会があり、その田舎の料亭でコンパニオンを招いて飲み会というのもあった。成人してから異性にワン・オン・ワンで密着されたのはあれが最後だったか。
 件のいけてない女性に話を戻す。あの密着具合はそのコンパニオンを思い起こさせるには十分だった。日頃から障害持ちで歳の私はつねづね、障害持ちで同年配の女性と所帯を持つならいいよ、と周囲の人々からアドバイスをいただいている。

それは、愛ですか?

 悪いことにはこれがチャンスと思ってしまい、目的地まで一緒に並んで座っていた。立つタイミングも一緒、歩く速さも一緒。夫婦ってこんな感じなのだろうか?

 さて、改札の雑踏を通り抜けて、乗り換えて横浜線のホームを歩くと動物的な勘なのか、斜め後ろに気配を感じる。

 件のいけてない女性が、私にくっついてきていた。

 私の勘・直感によれば、これは恋人ではない、ということだった。即座に後をにらみ据え身をかわす。件のいけてない女性はホームの雑踏のなかに消えていった。
 電車を乗り換えてから、何気なくChat-GPT4に聞いてみたら、

 「すぐに離れて!助けを求めて!危険です!」と忠告してくる。

なんじゃこりゃ!

 冷や汗が背中を伝って落ちる。冬なのに。冬の怪談か?
 私自身、欲目のために危険が一時的に見えていなかったのだ。何という不覚。彼女の正体を知りたいとは思わない。不細工だが美人局かもしれない。 
 たとえ、男女の出逢いがどうもたらされるのかが不思議である。欲得尽くでない出逢いは金では買えない。私自身の生育歴のせいか、人間関係は苦手であるくせに、寂しがり屋なところも併せ持っている。これではいいカモかも知れない。

 携帯にインストールしたAIのおかげで命拾いしたようなものである。
 最寄り駅で降りてからもしばらく、待合室の壁を背に四方を見回しては、あの女がいないか確かめた。あの一撃必殺のスナイパーよろしく帰りも誰も後に歩いて近づいてきてないか振り返りしつつ帰ってきた。

意味不明な男女の機微

 男女の仲は、機微は、私にはよく分からない。それ故に今まで恋人もいなければ未婚でもある。
 だが、あの女が持っていたものは明らかにそれとは違うものだった。こうして書き起こして思い起こすとあらためて、ゾッとする。

2024/01/18 ここまで

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