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その眼には力が

二年前、初めての一人旅でモロッコに行きました。アフリカ大陸という語感にわくわくしながらその地に降り立ったのは、夏休みも後半に入った九月のことでした。

もー興味が止まらないんですよあの国。アラビア語のミミズみたいな文字とかフランスパンみたいに硬いナンとか不思議な形のタジン鍋とか小銭を手の上でジャラジャラ転がしながら歩くあんちゃんの多さとかバカみたいに砂糖ぶち込む中国茶とか。その全部が全部、しっかりとその土地の人や生活に根付いていて本当に素敵なんです。
今日はそんな国にいた人の記録です。


青の街と呼ばれるシャウエンで、アリという若いパパとモシンという青年に出会いました。今日は、アリの話です。



シャウエンという街は、急な斜面を縫うように発達した旧市街と平地に発展した新市街に分かれています。アリは旧市街を好み、モシンは新市街を好みました。
アリは旧市街の中腹に一軒の雑貨屋を構えています。その道に掛かっていた茶色のズボンがカッコよくて、思わず立ち止まっていたらアリが話しかけてくれました。拙い英語同士はすぐに打ち解けました。アリは普段サハラの向こうに住んでいますが、ハイシーズンはシャウエンに出稼ぎに来ているそうです。アリには生まれて間もないお子さんがいます。その子とアリは、まあまあ狭いお店の中で、出稼ぎの間中寝泊まりしているそうです。私の宿に誘うと、現地人は追い出されてしまうといっていました。観光客と現地の人々の温度差は折に触れて感じていましたが、それにもかかわらず私に分け隔てなく接してくれるアリのほうが私の記憶には残りました。


アリは、砂漠に暮らす遊牧民の末裔だそうです。ペンダントが方位磁石になる話や、ベルベル族の旗に込められた意味などについて小一時間かけて私に説明してくれました。その青赤黄色、そして緑色を纏わせたストールを私が気に入ったのは、一点ものの商品一つ一つに愛着を持って接している姿を思い出したかったからです。


その輝く目と伝えようとする手に、いつの間にか引き込まれていました。


その人の経験や思考は目に宿ると思うから、人は目を見るんだと思いました。


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