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短編【レッテル】小説

一年間の講演回数42回。取得した資格は134。執筆した本は180冊以上。

私がこれまでどんな本を書いてきたのかというと【頭が良くなるイメージ将棋】【三日坊主ジョギング入門】【細胞から変える、超深呼吸美容法】。将棋の本を書いたりジョギングの本をかいたり美容法の本をかいたり、とにかく色んな本を書いている。

だから、周りの人から「先生は子供の頃から頭が良かったんでしょうね」と言われる。だが、実は小学6年まで本当に頭の悪い子供だったのだ。掛け算九九を完全に覚えたのも中学になってからだったし、平仮名の『は』と『わ』の文章上での違いを理解したのも中学になってからだった。

この話をすると、大抵の人は信じてくれない。一年間に42回も講演し、134の資格を持ち、180冊以上の本を書く男が、掛け算九九もまともに出来なかったなんて。そんなどうしようも無い私の才能をいち早く見抜いた恩師がいた。

その恩師は、私が通っていた小学校の校長先生だった。ある日、その校長が私のクラスにやってきて、担任の先生にこう言った。

「あの子と、あの子は今から凄く伸びる子だからね」

私ともう一人の生徒を指さしてそう言ったのだ。その後、私は作家になり、もう一人は実業家になった。二人とも落ちこぼれだったのに。何を見て校長先生は私の才能を見抜いたのだろうか。今でも不思議でならない。そんな話しを編集者にしたら

「おもしろいですね!ぜひ、その校長先生と対談しましょう!」

と言う事になった。校長先生は90歳を超えている。まだ御存命なのかも心配だったし、たとえ生きていたとしても対談をするほどの体力が有るのかも心配だった。

「いやあ、齋藤さいとう君。元気そうだね」

対談の会場に現れた校長先生は90代とは思えないほど矍鑠としていた。杖も使わずしっかりと二本の足で歩き指定された椅子に座った。付き添いの孫が傍に立っている。孫と言っても50近い。聞けば彼も教員をしていると言う。

「お久しぶりです」
「君の活躍、頼もしく思っていたよ。本も幾つか読んだ。なかなか面白かったよ」
「お恥ずかしい」
「今日は、君と対談するという事なんだが、どんな事を話せばいいのかな」
「覚えていらっしゃるか存じませんが、校長先生が小学6年生だった私に指をさして『あの子は今から凄く伸びる子だからね』とおっしゃいましたよね」
「ああ」
「何故、私の才能を見抜けたのですか?」
「あれは、適当に言ったんだよ」
「え?適当?」
「子供は素直だかなねぇ。悪い子のレッテルを貼れば悪い子になるし、良い子のレッテルを貼れば良い子になる。ただ、それだけの事だよ」

一年間の講演回数42回。取得した資格は134。執筆した本は180冊以上の私のバイタリティは先生が貼り付けたレッテルが源だったのだ。

先生との対談を終えて、その帰り道、私は次の書籍の構想を練っていた。タイトルは【良い子をつくる レッテル心理術】いや、駄目だ。それでは売れない。

悪人ワルを育てるレッテル魔導書ピカトリスク

これで決まりだ。

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