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短編【黒子】小説  

父はフラス人。母は元タカラ・ジェンヌ。父の家系を遡れば、ブルボン王朝の貴族に辿り着く。つまり、ボクには僅かながら貴族の血が混じっている。母は日本人とドイツ人のハーフ。ボクの身体は日本人の血よりも、欧米人の血が色濃く混ざっている。

だから、ボクの目鼻立ちは整っている。幼い頃から可愛い可愛いと言われ、いつしか綺麗な顔だね、と言われるようになった。綺麗だといわれる事に慣れたのは、つい最近だ。男のクセに綺麗な顔だと言われる事にずっと抵抗が有った。

色白で長身。栗毛色の柔らかい髪。青みのかかった澄んだ瞳。筋の通った高い鼻。笑うとくっきり浮き出る笑窪。そして、鼻の下にある小さな黒子ほくろ

…ボクには好きなモノがある。ボクはそれを愛している。ボクがこの世で愛して止まないモノ。それは鏡の中にある。ボクはそれを見る為に毎日、鏡を見る。人はボクの事をナルシストだというだろう。だけどボクは、自分の顔が嫌いなのだ。男のクセに整い過ぎている顔立ちに嫌悪感を覚える。ならば何故、鏡を見るのか?それは、鼻の下の小さな黒子を見る為なのだ。

完璧に近い顔にただ一点、鼻の下の溝、人中と呼ばれる所に薄くて小さな黒子がある。この黒子がボクの完璧な容貌のバランスを崩している。この黒子があるから、美しすぎる自分の顔を見る事ができるのだ。ボクは毎日鏡を見る度に思う。もっと濃くなればいいのに、もっと大きくなればいいのに。それは一種の破壊願望なのかも知れない。そうやって、愛情を注いで自分の黒子を観察して行く内に、いつしかボクは黒子を愛してしまった。

そう、ボクがこの世で愛して愛して止まないもの、それは鼻の下の黒子だ。黒子への愛に目覚めて以来、ボクは人を愛する事が出来なくなった。今まで何度か告白されたが全て断った。一度学校一の美女、アミに告白された事がある。勿論それも断った。学校一の美女、アミには予想外の出来事だったのだろう。その後、アミはしばらく学校を休んでいた。

しばらくして、あいつは男好きだよ。そんな噂が流れた。たぶんアミが流した噂だろう。プライドの高いアミらしい。くだらない。そんなとき、一人の女生徒が転校してきた。彼女は色黒で肩幅が大きくて、どこかゴリラを連想させた。そして彼女はボクの隣の席に座る事になった。

「よろしくね」

ゴリラ女はボクに話しかけてきた。ボクは宜しくと、愛想笑いをしようと彼女の顔を見た瞬間に恋に落ちた。彼女に恋をしてその日の内に告白をした。

なぜ僕は恋に落ちてしまったのか。それは彼女の鼻の下には濃くて大きな黒子があったからだ!ボクの理想の黒子が!ボクはその黒子に、恋をした!

「あの…」
「はい?」
「好きです、ボクと付き合って下さい」
「御免なさい。タイプじゃないんで」

それ以来僕は彼女を、彼女の黒子をストーキングしている。あんな理想の黒子かのじょは他にはいない。

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