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短編【結末】小説   

深夜三時。執筆に行き詰まった私は近所のコンビニに来た。カフェインが多めの缶コーヒーとメンソールの煙草を買ってアパートに戻る。今書いている小説の次の展開を考えながら。主人公の女流小説家、美咲みさきは、突然現れた謎の少女リリカに殺される。と言うのが第一の案。もう一つの案は読者の意表をついて逆にリリカが殺される。というもの。どちらの結末にせよ、謎の少女リリカが一体何者なのかは明かさずに物語は突然終わる。こんな尻切れトンボのような終わり方をして読者はどう思うだろうか。なんて事を考えながらアパートに着くと私の部屋の隣のドアに一人の可愛らしい少女が立っていた。


「どうも」
と私は軽く声をかけて少女の後を通り過ぎようとした。すると不安に満ちた声で呼び止められた。

「あの」
「はい?」
「ここに住んでいる男の人、どうされました?」
「え?そこ、誰も住んでませんよ」
「そんな…」

聞けば、その少女は故郷でモデルにスカウトされ上京してきたらしい。そのスカウトをした男が差し出した名刺の住所がこのアパートだった。たしか、この部屋にいた男は一週間ほど前に引っ越したはずだ。

「私…他に行くところ、ないんです…」

そう言われて私は一晩、少女を泊める事にした。適当にくつろいでと私は言って、小説の続きを書き始めた。

「へぇ。小説家なんですかぁ」

彼女は私のノートパソコンを勝手に覗きこんで「読んでもいいですか?」と言った。

「別にいいよ。ただし、声に出してね」
「声に?」
「そう。客観的に聞いてみたいの」
「はい。私でよければ」

私は席を彼女にゆずった。

「じゃ、読みますね。『深夜三時。執筆に行き詰まった私は近所のコンビニに来た。カフェインが多めの缶コーヒーとメンソールの煙草を買ってアパートに戻る。今書いている小説の次の展開を考えながら』」

彼女は私の小説を澄んだ声で読んだ。
私は、まだ何も食べていないという彼女の為に林檎をむいてあげた。

「『主人公の女流小説家、美咲みさきは、突然現れた謎の少女リリカに殺される。と言うのが第一の案。もう一つの案は読者の意表をついて逆にリリカが殺される。というもの』」

モデルにスカウトされるだけの事はあって、彼女は綺麗な顔立ちだ。それに朗読もなかなか上手い。女優を目指してもいいんじゃないのか。それにしても、このナイフは本当に良く切れる。


「『どちらの結末にせよ、謎の少女リリカは一体何者なのかは明かさずに物語は突然終わる。こんな尻切れトンボのような終わり方をして読者はどう思うだろうか。なんて事を考えながらアパートに着くと、私の部屋のドアの隣のドアに、一人の可愛らしい少女が立っていた。「どうも」と私は軽く声をかけて少女の後ろを通り過ぎようとした。すると不安に満ちた声で呼び止められた。「あの」「はい?」「そこに住んでいる男の人、どうされました?」「え?そこ、誰も住んでいませんよ」「そんな…」聞けば、その少女は故郷でモデルにスカウトされ、上京してきたらしい。そのスカウトをした男が差し出した名刺の住所がこのアパートだった。たしか、この部屋にいた男は一週間ほど前に引っ越したはずだ。「他に行く所が無いんです」そう言われて私は一晩、少女を泊める事にした。「へぇ、小説家なんですかぁ」彼女は私のノートパソコンを勝手に覗きこんで「読んでもいいですか?」と行った。「別にいいよ。ただし、声に出してね」「声に?」「そう。客観的に聞いてみたいの」「はい。私でよければ」私は彼女に席をゆずった。「じゃ、読みますね。『深夜三時。仕事に行き詰まった私は近所のコンビニに来た。カフェインが多めの缶コーヒーとメンソールの煙草を買ってアパートに戻る。今書いている小説の次の展開を考えながら』…」

突然、彼女は読むのをやめた。


「なんか、話が全然、先に進みませんね…」
彼女は、パソコンのディスプレイから目を離して、私を見た。私は無言で林檎にナイフを何度も突き立てる。林檎の果汁が手のひらに溢れている。


「…どうしたんですか?林檎、グズグズになっちゃいますよ?」
「そうね。話しが全然先に進まないの。リリカが現れないから」
「え?」
「あなた、名前は?」
「私の?」
「そう。あなたの名前」 
「どうしたんですか?急に…」
「リリカでしょ?」

私はナイフを彼女に向けた。リリカよね?そうでしょ?

「やめて下さい。何ですか急に…」
「言いなさいよ!アナタの名前は!名前は何なの!」
「私は…」

彼女はゆっくりと笑みを湛えて言った。

「リリカ」


主人公の女流小説家、美咲は、突然現れた謎の少女リリカに殺される。と言うのが第一の案。もう一つの案は、読者の意表をついて逆にリリカが殺される。と言うもの。どちらの結末にせよ、謎の少女リリカが一体何者なのかは明かさずに物語は突然終わる。こんな尻切れトンボのような終わり方をして読者はどう思うだろうか。

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