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短編【リピート・デイズ】小説



リピート・1

午前六時。私はいつもより早く目覚めた。ドリカムに『決戦は金曜日』と言う名曲が有る。愛の告白を決戦と置き換え、意気込む女性の心の機微を描いた名曲。今日はその金曜日。私にとっても決戦の日。だからと言って告白をすると言うようなロマンチックな意味での決戦じゃない。もっと現実的な意味での『決戦の日』なのだ。私は、ある大手出版会社に務めている。今日、私が記事を書いている音楽専門誌『メロディライン』特別号の企画発表会議の日だ。入社して六年、私は長年温めてきたある企画を今日の会議でプレゼンする。この企画が通るか通らないかで私の会社での地位も決まってくる。つまり、今日が私にとっての『決戦の金曜日』なのだ。私が長年温めて来た企画、それは、ロックを知る者なら誰でも驚き興味をそそられる驚愕の企画だ。

八年前に突然解散したカリスマ・ロックバンド『ケルビム』のメイン・ボーカル、カインとリード・ギター、アベルの対談。これが私が提案する渾身の企画。天使の声を持つ男アベルと、堕天使の指先を持つ男カイン。二人は共に天才で有るが故に惹かれ合い天才であるが故に決別した。『ケルビム』のファンならば、いや、ロックを愛する者ならば、この二人の対談を見逃すはずが無い。

午前六時。いつもより早く目覚めた私は冷たいシャワーを浴びてスーツに着替え、いつもより十五分早く出勤した。気合は充分だ。車を運転しながら何度もプレゼンのイメージ・トレーニングをする。完璧だ。抜かりはない。会社に到着し自分のデスクに座る。後は会議に出席する人数分、練に練った企画書をコピーして会議室に行くだけだ。

私は深呼吸して鞄から企画書を取り出し、あれ?見当たらない。鞄に奥にしまったのかな?大事な大事な企画書だから奥の方に、ん?企画書を…。あれ?ちょっと待って。あれ?うそ!無い!企画書が入って無い!ちょっと待って!何?マジ?うそ?どうして入って無いの!私は記憶の糸を高速で手繰り寄せた。そして、思い出した。確かに一度は鞄に入れた。だけど、寝る前にもう一度、確認の為に鞄から取り出したのだった!と言うことは、企画書は家にある!寝室に!会議が始まるのは後三十分!どうしてこんな時に!ああ!助けて!神様!お願い時間を戻してー!

気がつくと私は自分の部屋のベットの上で寝ていた。パジャマ姿で。うそ!時間が、戻った!!


リピート・2


私はベットから飛び起きて時計を見た。午前六時。時間が戻った!いや、そんな筈は無い。あれは、夢だったんだ。そう、とてもリアルな夢。今日は私が記事を書いている音楽専門誌『メロディライン』特別号の企画発表会議の日だ。

私は長年温めてきたある企画を今日の会議でプレゼンする。私が長年温めて来た企画、それは、ロックを知る者なら誰でも驚き興味をそそられる驚愕の企画だ。八年前に突然解散したカリスマ・ロックバンド『ケルビム』のメイン・ボーカル、カインとリード・ギター、アベルの対談。これが私が提案する渾身の企画。天使の声を持つ男アベルと、堕天使の指先を持つ男カイン。共に天才で有るが故に二人は惹かれ合い、天才であるが故に決別した。『ケルビム』のファンならば、いや、ロックを愛する者ならば、この二人の対談を見逃す筈が無い。

この企画が通るか通らないかで私の会社での地位も決まってくる。絶対に!何としてでも!この企画を通してみせる!そんなプレッシャーが、私にあんな恐ろしい夢を見せた。夢の中で私は、いつもの様に朝のシャワーを浴びて会社へ出勤した。そして、会社について企画書を鞄から取り出そうとしたら、その企画書が入っていないのだ!顔面蒼白!私は神様に祈った!神様お願い!時間を戻して!気が付くと私はベットの上にいた。

そういう夢を見た。本当に夢で良かった。私はベットから降りると、鞄の中を確認した。そこには企画書は入って居なかった。危ない、危ない。あの夢を見なければ、本当に企画書を持たずに会社に行ったかもしれない。

私はいつもの様にシャワーを浴びてスーツに着替えて出社した。会社について企画書をコピーする。その前にページ数と順番が合っているかチェック。すると、幾つか必要の無い用紙が出てきた。これはシュレッダーにかける。しかし、変な夢をみたなぁ。とてもリアルで夢とは思えなかった。

なんて事を考えながら作業をしていたら企画書までシュレッダーにかけてしまった!大事な大事な企画書をシュレッダーに!ウソでしょ!ちょっと待って!何?マジ?うそ?私は急いでシュレッダーから企画書を引き離したが、半分以上切り刻まれてしまった!会議が始まるのは後三十分!どーして、こんな時に!ああ!助けて!神様!お願い時間を戻して!

気がつくと自分の部屋のベットの上で寝ていた。パジャマ姿で。うそ!時間が、戻った!!


リピート・3


私はベットから飛び起きて時計を見た。午前六時。時間が戻った!いや、そんな筈は無い。あれは、夢だったんだ。そう、とてもリアルな夢。今日は音楽専門誌『メロディライン』特別号の企画発表会議の日だ。

八年前に突然解散したカリスマ・ロックバンド『ケルビム』のメイン・ボーカル、カインとリード・ギター、アベルの対談。これが私が提案する渾身の企画だ。天使の声を持つ男アベルと、堕天使の指先を持つ男カイン。共に天才で有るが故に二人は惹かれ合い、天才であるが故に決別した。『ケルビム』のファンならば、いや、ロックを愛する者ならば、この二人の対談を見逃す筈が無い。

この企画が通るか通らないかで私の会社での地位も決まってくる。絶対に!何としてでも!この企画を通してみせる!そんなプレッシャーが、私にあんな恐ろしい夢を見せた。夢の中で私は、いつもの様に朝のシャワーを浴びて会社へ出勤した。そして、会社について企画書をコピーしようとしたら、大事な企画書をシュレッダーにかけてしまった!!

顔面蒼白!私は神様に祈った!神様お願い!時間を戻して!気が付くと私はベットの上にいた。出勤する前に戻ったのだ。本当に夢で良かった。私はいつもの様にシャワーを浴びてスーツに着替えて出社した。

会社について企画書をコピーしようとしたら、コピー機の中に取り忘れの用紙が入っていた。まったく。ちゃんと確認してよ。私はその用紙を取り除いて何気なく見た。

なんとそのコピー用紙には『ロック・バンド【ケルビム】の対談企画』と書かれていた!私の企画と丸かぶり!うそでしょ!今日、企画会議でプレゼンするのは私と同期入社の沢田さわだの二人。

沢田のやつ!私の企画をパクッたな!私は急いで会議室に走った。何故ならプレゼンする順番は先に会議室に着いた者から始めるからだ!アイツより先にプレゼンしないと私がパクッたと思われてしまう!会議室に着いたら既に沢田が中に居た!ウソでしょ!ちょっと待って!マジ?うそ?ああ!助けて!神様!お願い時間を戻して!

気がつくと私は自分の部屋のベットの上で寝ていた。パジャマ姿で。うそ!時間が、戻った!!


リピート・4


私はベットから飛び起きて時計を見た。午前六時。時間が戻った!間違い無い!時間が戻ってる!私は今日起こった出来事をゆっくりとパジャマ姿で思い出した。私は大手出版会社に務めている。今日はそこで発行している音楽雑誌『メロディライン』の企画会議の日だ。私は解散したカリスマ・ロックバント『ケルビム』のボーカル、カインとギターのアベルの対談を企画した。私は会社に出勤して企画書をコピーしようとしたら、なんとその企画書を家に忘れて来たのだ!

私は神様に祈った!お願い!時間を戻して!気がつくと午前六時。私はベットの上にいた。変な夢を見たと思い企画書をちゃんと鞄にいれて出勤。ところが今度は私の凡ミスで大事な企画書の一部をシュレッダーにかけてしまった!私は神様に祈った!お願い!時間を戻して!

気がつくと午前六時。私はベットの上にいた。変な夢を見たと思い、いつもの様に出勤した。すると今度は同期入社の同僚が、私の対談企画と全く同じ企画をプレゼンする事を知ってしまった!あいつよりも先にプレゼンしなければ、私はあいつの企画をパクッたと思われてしまう!何としてでも先に発表しなければ!準備が出来た者から先に発表するのがここのルール。私は会議室に走った。

だけど、あいつは既に会議室にいた。私は神様に祈った!お願い!時間を戻して!気がつくと午前六時。私はベットの上にいた。間違いない!時間が戻っている!どうして時間が戻ったの?そんな事はどうでもいい!急いで準備をすれば、あいつより先に会議室に行ける!朝ごはんを食べずに軽くシャワーを浴びてスーツに着替え私は会社にすっ飛んでいった。急いで企画書をコピーして会議室に走る!会議が始まるまで三十分も早い。これなら私が一番最初にプレゼンできる!私は意気揚々と会議室のドアを開けた!

そこには既にあいつが居た。なんで?神様お願い!時間を戻して!気がつくと午前六時。私はベットの上にいた。やった!やっぱり時間が戻っている!私は朝ごはんを食べず、シャワーも浴びず、スーツに着替え、軽く髪をセットして家を飛び出し、会社にすっ飛んでいった。急いで企画書をコピーして会議室に走る!会議が始まるまで40分も早い。これなら私が一番最初にプレゼンできる!私は意気揚々と会議室のドアを開けた!そこには既にあいつが居た!あいつは何時に出社してるのよ!

神様お願い!時間を戻して!気がつくと午前六時。私はベットの上にいた。


リピート・5


私はベットから飛び起きて時計を見た。午前六時。時間が戻った!間違い無い!やっぱり時間が戻ってる!私は今日起こった出来事をもう一度ゆっくりとパジャマ姿で思い出した。私は大手出版会社に務めている。今日はそこで発行している音楽雑誌『メロディライン』の企画会議の日だ。私は解散したカリスマ・ロックバント『ケルビム』のボーカル、カインとギターのアベルの対談を企画した。いつもより早く会社に出勤し、企画書をコピーして会議の準備をしている時に、同期入社の同僚が、私の対談企画と全く同じ企画をプレゼンする事を知ってしまった!あいつよりも先にプレゼンしなければ、私はあいつの企画をパクッたと思われてしまう!

何としてでも先に発表しなければ!準備が出来た者から先に発表するのがここのルール。私は会議室に走った。だけど、あいつは既に会議室にいた。私は神様に祈った!お願い!時間を戻して!気がつくと午前六時。私はベットの上にいた。

やった!時間が戻った!いそげ!あいつより先に会議室に行くんだ!私は、朝ごはんも食べずに、シャワーも浴びずにスーツを着て、髪もセットせずに狂ったように会社に駆け込んだ!急いで企画書をコピーして会議室に走る!会議が始まるまで五十分も早い。これなら私が一番最初にプレゼンできる!私は意気揚々と会議室のドアを開けた!

だけど、そこには既にあいつが居た!うそでしょおおお!神様お願い!時間を戻して!午前六時。私は朝ごはんも食べず、シャワーも浴びず、髪もセットせず、パジャマのまま会社に行った!会社の守衛さんが妙な目付きで私を見ているが関係ない!とにかく会議室に急がないと!


ラスト・リピート


「おい、安斎くん」
「あ、編集長」
「どうしたんだ、パジャマ姿で」
「え?あの、実は…」

とにかく驚いた。私の優秀な部下の一人、安斎あんざい里美さとみがパジャマ姿で会社に来ていたからだ。よく見ると靴も履いていない。訳を聞くと、時間を戻せるだとか企画がパクられるだとか、意味不明な事を口走っている。

「大丈夫か安斎くん」
「あの編集長。私、時間がないんです。早く会議室にいかないと」
「聞いてるよ。初めての企画会議なんだろ?頑張りすぎなんじゃないか?少し休んだほうが、」
「あの!本当に時間がないんです!神様お願い!時間を戻して!!」

突然、彼女は大声で叫んだ。仕事のし過ぎでノイローゼになったのかも知れない。私の知り合いで精神科医がいるんだが、紹介しようか。と考えていると。

彼女はゆっくりを目の前から消えていった。

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