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短編【バックミラー・ピーピング】小説

花澤はなざわ能景よしかげの場合》

会社までは車で片道45分の道のり。その間、信号機は9つ。一日平均5回は信号待ちをする。いまの会社に務めて6年になるが、9つ全ての信号機に引っかかるというミラクルは一度しかない。

運転中に信号待ちをするのは軽いストレスになるらしいが私にとって、止まらずに信号機の下を通過する方がストレスになる。いつも信号機に近づく度に『赤になれ!赤になれ!止めてくれ!』と呪文のようにつぶやく。何故か?それは私の趣味が【覗き】だからだ。

信号待ちで停車した瞬間、私は車内のバックミラーで後ろの車を見る。正確に言えば、後ろの運転手を見る。車の中というのは非常にプライベートな空間だ。だから誰しも見られているとは思ってはいない。ところが、それを私が見ている。ある者は鼻クソをほじっていたり、またある者は大あくびをしたり。歌を熱唱している者もいれば、口喧嘩している恋人同士の修羅場に遭遇する事もある。実に楽しい。今日もそのショータイムを楽しむために、3つ目の信号機に止まった瞬間、私はすぐさまバックミラーを見た。

今回の獲物は20代の青年だ。彼は何をするでもなく、只々バックミラーを見ている。鏡に映った自分の顔を見ているのか?確かにイケメンだ。だが、私はナルシストに興味はない。今回は外れか…。と思いながらも、彼を見ていると、ある事に気がついた。バックミラーを見ている彼の目が血走っているのだ。しかも角度からして自分の顔を見ているのではなく、どうやら後の車を見ている様子だ。一体何を見ているのだ!残念ながら私のバックミラーからは、後の車のもう一つ後ろの車内を見る事は出来ない。私は眼鏡を外し、レンズを拭いてもう一度バックミラーを見る。そんな事をしても、二台後ろの車内など見ることは出来ないのに…。後の男は身を乗り出して、食い入る様にバックミラーをみている。異常に目を充血させながら!一体何を見ているのだ!嗚呼!私も覗いてみたい!


三好みよしセインマリアせいんまりあ香澄かすみの場合》


私は、信号待ちが大好き。理由は後の運転手を観察できるから。要するに覗き。悪趣味だけど凄く楽しい。こんな事を趣味にしているのは私くらいだろう。はっきり言って私は美人だ。自覚している。だから、街中を歩くと100パーセントじろじろ見られる。それが苦痛。だから逆にじろじろ見てやる!そういう思いで初めたバックミラー・ピーピング。今日も信号待ちで後の運転手をバックミラーでの覗きみる。そると、40代後半のオジサンが、血走った目でバックミラーを見ている。眼鏡を外してレンズを拭いて、充血した目で。後の車を覗き見しているみたいだ。一体なにを見ているの!嗚呼!私も見たい!!


山下やました利秀としひでの場合》

俺の趣味はバックミラーで後ろの運転手の様子をの覗き見する事。今日も親父から借りたボロい車で信号待中に後の車をチェック。いいかげん新車を買ってくれよ。こんな車だから、女一人もひっかけられない。まあ、いい。いずれ俺が外車を買ってやるよ。いまは、しがないコンビニ店員だけどな!そんな事よりよ後方チェック!すると物凄い美人が物凄く目を見開いてバックミラーを見ていた。ハーフか!すごい美人だ!どうやら後ろの車を覗き見しているようだ。一体何を見ているんだ!嗚呼!俺も見たい!!


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蛍光灯のノイズ

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