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【書評】「モノが売れない時代の繁盛のつくり方(同文館出版)」~佐藤勝人という経営者が持つ「商人としての構え」を読む~

「モノが売れない時代の繁盛のつくり方(同文館出版)」という本が出て1年が過ぎる。

佐藤氏は「地域一番化戦略」の土台として「顧客一体型経営」を打ち出している。

今はやりの「売りたい人に、売りたいものだけ売ろう」のような「仲間意識」を冗長させるような、他力本願な思考の発想とは一線を画している。

氏の編み出す戦略・戦術・仕掛け・仕組みは、机上の空論から生まれたものではない。

その本質は、写真業の価値と、自店の存亡を賭けた「戦い」の中での気づきや学びによって、導き出された独自の「時代への視点」と言える。

勝人塾で学ぶ私にとって、彼の思考は「経営」というものよりは、根幹である「人間」への考察によって構築されていると言っていい。

つまり、経営戦略のような「論理」をベースにしたような口調で持論を展開しつつも、その実は、顧客や自分、そしてアソシエイトを通して描く店としての在り方、つまり「倫理」をベースとしているのである。

このことに気づける商人・商業者・経営者が果たしてどのくらいいるのだろうか。

ほとんどの人は、気づけない。
いや、気づくことができないのだ。
そこには「倫理」が求められるからである。

昨今の経営者は、よく勉強していると思う。
本も良く読むし、セミナーへも積極的に参加するし、自分の考えを発信することも努力している。

しかし、その中身は、「自己承認欲求」で満ちており、最終的にお客さんにフィードバックされているような感じは極めて少ないのだ。

お客様はいつも正しい。
常にお客様から学ぶこと。

これはどういうことか。
そこには、佐藤氏が「繁盛」という比喩で伝えたい本質がある。

「繁盛」とは、あらゆるお客さんが集う状態を指す。
あらゆるお客さんとは、自分が規定しているお客イメージと、未規定のお客イメージの両方が集う状態を指すと感じている。

これはつまり、「商人とは、商品のプロとして、その消費量の最大化を持って、地域に文化的な価値を根付かせることができる」ということではないだろうか。

商人の使命は、自分の好きな人に、好きなものを売る行為ではない。
真なる意味としては、自分がプロとして引き受けた商品を、地域に根付かせて、お客さんの人生に彩りや豊かさを感じさせるための営みなのではないだろうか。

こういう売り方があるよ、とか。
こういう商品が売れるよ、とか。
こういう経営が優れてるよ、とか。
こういう社長が格好いいよ、とか。

誰かが描いた「虚構」を真似することで、なんとなく頑張れたような気になることが目的なのではなく。

あなたには、あなたにしかない使命、あなたにしか出来ない能力、あなたにしか守れないお客さん、あなたにしか見えない商売の未来がある。

それを、「自分で見聞きして、感じて、考えて、計画し、実行して、見直して、そして未来を紡ぎ出す」のが商人として、人間として、一番楽しいよね!という、現代に彷徨える商業に携わる人たちへのエールとして、この本が存在していると私は感じている。

何のために、「勝つ」のか。
何のために、「お客を優先する」のか。
何のために、「商品を文化になるまで売る」のか。

大事なポイントは、そのプロセスの中に、これまでに見失ってきた「人間としての心根」が求められることである。
まさに「商人としての構え」とも言えよう。

その奥深く、地平の広さのような示唆の数々に、読む私たちは、どれだけの大切なポイントに気づけるか。
ある意味、佐藤氏からの挑戦とも言える。

単なる「ノウハウ・ハウツー本」のようにしか読めない読者には、これからの商売の未来は決して見えないだろう。

ただし、少しでも、氏の意図に気づける読者にとっては、これから起こる商業の世界の未来が、氏の思考を通して、遥か彼方まで見えているはずである。

出来る限り、平易な文章で、気さくに楽しく書いている言葉の数々。
しかし、その言葉が発露されるまでに重ねた時間や、経験の厚みは表現してきれていない。

読むものは、そういう氏の重厚な試行錯誤の歴史というコンテクストを十二分に配慮しながら、熟読されることをオススメしたい。

本物ほど、読んでも意味が分からないもの。
あなたが読んで意味が分かりきれないのは、あなたの厚みの問題だ。

ここで逃げるか、それとも、分かるまで繰り返し、食らいつくように読むかは、あなた次第だ。

月に一回は、読み直すべき名著である。

読めば読むほどに、あなたが経験を重ねれば重ねるほどに、味わいが深まるのは佐藤氏の書籍の特徴と言える。

さて、今宵も読み直そう。
そして、自分を成長させたい。

読んだことの無い方は、すぐにGETしてください!


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