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[バズの日記念]「バズる」について辞典出して考えてみた

今日8月2日は「バズの日」だそうだ。 

広告代理店アサツーディ・ケイが制定。
広告手法の一つである「バズ(buzz、噂)」について考える日。
「バ(8)ズ(2)」の語呂合せ。
8月2日 今日は何の日〜毎日が記念日〜

下記ウェブサイトによると、「バズの日」は2007年に制定されたとのことである。

記念日として認められたということは、2007年までには「バズる」や「バズマーケティング」といった言葉は、少なくとも広告業界では浸透していたと予想できる。一般に使われるようになった時期は2016年ごろ(根拠は後述)と思われるが、まだ新語扱いであるのではないだろうか。

国語辞典、特に小型辞典は新語・流行語を載せることに慎重であることが多い。では、「バズる」は国語辞典に記述があるのだろうか。手持ちの辞典(17冊)を調べてみた。

「バズる」が載っていた辞典は4冊

三省堂現代新国語辞典 第六版
明鏡国語辞典 第三版
大辞林 第四版
デジタル大辞泉

以下にそれぞれの辞典の語釈を記載する。

三省堂現代新国語辞典 第六版
[←buzz=うわさ・評判]SNSで、ある投稿が一気に広まったり、ネット上で大きな話題になったりする。
明鏡国語辞典 第三版
〔新〕多くの人が一気に話題にしたり注目したりすることで、短期間で爆発的に流行ること。「SNSの投稿がバズる」「バズった新商品」
▷蜂がブンブン飛ぶ羽音の意の[バズ(buzz)]を、動詞化した語。
大辞林 第四版
〔バズ(buzz)の動詞化〕(主にインターネットで)特定の言葉や、特定の話題への言及が突如として増える。一気に話題になる。
デジタル大辞泉
〔「バズ」の動詞化〕俗に、ウェブ上で、ある特定の事柄について話題にする。特に、SNSを通じて多人数がうわさをしたり、意見や感想を述べ合ったりして、一挙に話題が広まることを指す。

「大辞林」「デジタル大辞泉」には「バズマーケティング」も採録されていたのでそちらも紹介しよう。

大辞林 第四版
【buzz marketing】口コミによって話題を誘発する宣伝活動。人気のあるブログで商品を紹介するものなど。
デジタル大辞泉
【buzz marketing】ウェブ上で一挙に話題が広まる(バズる)ことを利用したマーケティング手法。ソーシャルメディア上の口コミを利用することを指し、バイラルマーケティングとほぼ同義。

(注:バイラルは「ウイルス性の」という意味である。)

なお「一般に使われるようになった時期は2016年ごろ」とした理由は、手持ちの「デジタル大辞泉」が2016年4月更新版であることによる。「デジタル大辞泉」の元になった「大辞泉 第二版」(2012年)には「バズ」は載っていたが「バズる」と「バズマーケティング」は無かったため、移植時に追加されたものと考えられる。

辞典の「編集方針」を読む

ある言葉が辞典に載っているかどうかは、辞典ごとの編集方針の違いによるところが大きい。特に新語・流行語と呼ばれるものについてはこの差異が顕著である。前述したように、「三省堂国語辞典」(三省堂、最新第七版は2012年発行)などは新語・固有名詞をあまり入れたがらない傾向にある。(ただし、例外もあり。参考:[ウルトラマンの日記念]国語辞典に載った特撮ヒーロー

編集方針は、辞典の「まえがき」(三省堂現代新国語辞典)や「編者のことば」(明鏡国語辞典)の項目に書いてある。それによると、「三省堂現代新国語辞典」は「いわゆる新語・新語義の積極的な採録を心がけ」、小型辞典では珍しく「新語・外来語・俗語・専門用語・固有名詞……」と幅広い種類の語を収録している。「明鏡国語辞典」も「最新のことば、……時代を反映する語や、……新語をはじめ、多方面にわたる語」を新たに加えた。

「大辞林」は大型辞典なので収録語数・種類ともに小型辞典よりも多いのは確かだ。しかし同じサイズの「広辞苑 第八版」(岩波書店、2018年)には載っていないことを考えると、「バズる」を掲載したことは「大辞林」の個性だと言える。(ちなみに「広辞苑」の序文には「現代語」を掲載しているとはっきり書いてある。)

最後に、「大辞林 第四版」の「序」に書かれた文について考えてみたい。

新たな事象の発生は、言葉とともに世界を駆け巡り、社会に広がる。
(中略)
スマートフォンをはじめ電子メディアはさらに拡大し、旧来のメディアを圧倒するようになった。

改めて読むと、1文目はまさに「バズる」ことを言い表しているのではないかと思う。ただし、ここで言う「事象」は人間活動のみならず自然によってもたらされるものも含んでいる。また「バズマーケティング」は専らSNS上で行われ、用いるデバイスはスマートフォンやタブレット端末であることが多いだろう。今日「バズの日」は、指先ひとつで情報を広げることができる利便性と、その副作用について考える良い機会だと思う。

同じ辞典を「読み比べ」る

上で見たように「バズる」が載っている辞典は、今回調べた中では4冊であった。うち3冊の紙の辞典は、新語の採録に積極的であるという編集方針があることもわかった。

2021年8月2日の時点で入手できる版には記述がなかった辞典でも、次の改訂版では採用されている可能性がある。どの言葉が新たに取り入れられ、あるいは新たな語釈が加えられ、逆にどの言葉が残念ながら取り除かれてしまったのか。そのような視点で同じ辞典の異なる版を読み比べてみると、新たな発見があるかもしれない。(一例として、お手持ちの辞書で「草」を調べてみていただきたい。)

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参考資料

年月日は第1刷発行日。
三省堂現代新国語辞典 第六版(三省堂、2019年1月10日)
大辞林 第四版(三省堂、2019年9月20日)
明鏡国語辞典 第三版(大修館書店、2021年1月1日)
デジタル大辞泉(小学館、2016年4月更新版)

画像はいらすとやさんより。

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