【鎌倉殿の13人】2022年3月11日

 NHKの大河ドラマが好きだ。

 大河と朝ドラは絶対に見るという家庭に育ったことも影響しているだろう。もっとも古い記憶は1978年放送の「黄金の日日」。主人公呂宋助左衛門を演じた九代目松本幸四郎(現・松本白鸚)が、2016年の大河ドラマ「真田丸」に同じ役で登場して話題となったことでも記憶に新しい。その後、大ヒットした1981年の「おんな太閤記」、伊丹十三の吉良上野介がハマり役だった1982年の「峠の群像」、今なお青森銘菓として有名な「いのち」を発売するきっかけとなった1986年の「いのち」、NHK大河ドラマ史上最高視聴率となった1987年の「独眼竜政宗」など、話題となった多くの作品が存在する。
 そんな私が最高の大河ドラマとしているのが2019年の「いだてん~東京オリムピック噺~」。エンターテインメント的な面白さ、歴史的背景の考察ともに最高の作品と呼べるものだ。

 大河はテレビドラマである以上、歴史考察だけではダメ。面白さは絶対的に必要。そしてもう1歩進み、演出、見せ方でも高いレベルで作られたのが1991年の「太平記」。南北朝時代は天皇の血筋の断絶があったことからテレビでは放送しにくいとされていたもの。それもしっかりと描き、楠木正成らの英雄ぶり、足利尊氏の冷酷さを見事に表現。そして戦いや、出陣前、そしてふすまを開ける動作1つ1つを歌舞伎的に演出しており、見応え十分な作品に仕上がっていた。2008年の「篤姫」、2010年の「龍馬伝」はどちらも今までの定説に異を唱えた傑作。特に「篤姫」では歴史上もっとも影の薄い将軍だった家定を堺雅人が演じており、ペリーに「倍返し」するシーンは見事という他ない。

 そして今回の「鎌倉殿の13人」。脚本はご存じ三谷幸喜。ひねくれ者の三谷は2004年の「新選組!」で新しい新撰組像を演出。ここで堺雅人を世間は発見することになる。2016年には大ヒット作「真田丸」で、その半生のほとんどが記録に残っていない真田信繁が豊臣秀吉に仕えていた時代を想像ながらも説得力ある内容に描いた。実際には名乗らなかった「真田幸村」という名に変わるシーンも見事に演出してみせている。

 今回の大河でも何かしらやってくるだろうと思っていたが、まず見事だったのが北条義時を主人公にした点。

 鎌倉時代をエンタメ的描くには、派手な活躍をする源頼朝、源義経、北条政子の3人が中心となり、今までのドラマではほとんどがそうだった。あえて北条政子の弟の義時を選んだ点だけで今回の大河は観るに値するだろう。実質的に源氏政権は頼朝のみで終わっていたこの時代。幕府が新田義貞によって倒され、足利尊氏によって室町幕府が作られるまで、いわゆる鎌倉殿の部下であった北条一族の執権政治の基盤を作ったのが義時である。

 ちなみに鎌倉幕府の将軍が何代まで続いたか知っている人はいるだろうか? 正解は9代。源頼朝を含む3代の源氏政権のあと、九条家の藤原氏が2代、その後、天皇家から4代の将軍を迎える。もちろん傀儡政権であり、実質的には17代北条貞将までが鎌倉幕府の支配者である。高校までの授業では北条を将軍のように扱って教えるので勘違いする人が多い。

 三谷幸喜は間違いなくNHKの大河ドラマが大好きな人だ。真田丸に呂宋助左衛門を出したことから分かるように、過去の大河のパロディ的なことも多い。「真田丸」のベースと言われる「真田太平記」は最たるものだ(これは大河ドラマではないが)。「鎌倉殿の13人」は間違いなく岩下志麻が主人公北条政子を演じた1979年の「草燃える」をベースにしている。

 ちなみにこの時の北条義時役は松平健。今回は平清盛を演じる。ちなみに2005年の「義経」では武蔵坊弁慶を演じていた。今回、松平健が何をやるかも大河ファンの間では話題となっていた。もちろんこの後も三谷幸喜の映画やドラマでお馴染みの俳優陣が登場してくることは間違いなく、いつもの大河と違い、演じる役者の発表を小出しにしている点からも配役で三谷が遊んでいることも間違いなく、それもファンの間では楽しみとなっている。

 これからの展開は源平合戦(治承寿永の乱)の最後の戦いとなる壇ノ浦の戦いで平家滅亡まで大活躍する義経、そして彼を操る後白河にスポットが当たる。悲運の天才軍略家と呼ばれた義経だが、三谷によって狂気の殺人マシーン的に描かれている点が面白い。「平家物語」の中でも与一のシーンで残虐性を垣間見せる義経に新たな一面が表現されることだろう。

 そして、我が大泉洋が演じる頼朝による鎌倉幕府成立。その後にようやく義時の狂気が始まり、頼朝の子供たちの暗殺、北条氏による執権政治の基盤が作られる。

 小栗旬演じるお人好しの義時がどのようにして変わっていくのか。楽しみだ。

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