【テニス:ボールガールへの危険球】2023年6月6日

 全仏オープンテニスに出場中の加藤未唯がボールガールにボールを当ててしまったことで失格処分となった。

 これがテニス界では大いに荒れている。これを3つの視点から説明しよう。

1. ボールガール(ボールボーイ)への返球について

ネットにかかったボールやコート内に転がったボールを回収するボールガール、ボールボーイはテニス中継ではおなじみだ。ただ、広いコート内でボールを追い回す彼女たちは試合を中断させる要因であり、これにイラつく選手も多い。しかしイラついたからといって彼女らにボールをぶつけるなどもってのほかで、失格はもちろん長期間の出場停止の可能性もある。テニス界にその名を残すフェデラーは若いころは悪童であり、試合中イラつくことも多かった。特にボールガール、ボールボーイがうろうろするのが許しがたく、コロがったボールを自分で拾い、ボールボーイにトスする姿を多く見かけた。その後、彼は年齢を重ね、紳士的プレイヤーと呼ばれるようになると、アウトになったボールの勢いを殺して、軽いタッチでボールボーイの手の位置に、正確に打ち返すというのが彼の試合の名物となった。これを多くの選手が真似をした。今回の加藤未唯はボールガールに返そうとしたのではなく、場外に転がそうとしたボールをたまたま当ててしまった。つまり「事故」だった。そしてこのボールガールが泣いたのは球がぶつかって痛かったのではなく、取り損ねた自分への恥ずかしさであることは明白だった。

2. 審判の判断

審判は試合の加藤未唯が勝っている流れからも彼女がイラついていないことは分かっており、わざとでは無いことは明白だったので形上「注意」で済ませた。しかし、相手選手であるマリエ・ブズコバ(チェコ)、サラ・ソリベストルモ(スペイン)の2人の抗議で判定を「失格」に変更。さらに3回戦進出までの賞金、ポイントすべて剥奪というほぼ最大の罰則が与えられた。まず、テニスの審判は野球などの審判と違い、絶対的な存在ではない。選手からの抗議は認められており、ラインの判断についてはカメラ優先で審判の判断はチャレンジと言われるVAR確認で覆ることが多い。ある選手は1ゲームの中で4度チャレンジしてすべて成功し、そのゲームと取ったことがある。つまり審判がいかに正確な判断ができていないかの証明でもある。ちなみに今回のボールガールにボールがぶつかった件については相手選手も審判もその瞬間を見ていない。つまり判断できる立場にはいない。それなのに加藤未唯が要求してもビデオなどを確認することもなく、相手の抗議だけで判断を決めてしまった審判。どの角度から考えてもフェアーな判定であったとは言い難い。

3. 相手選手の抗議

今回の全仏オープンでの加藤未唯とアルディラ・スーチャディ(インドネシア)のアジアンコンビは絶好調で、1〜2回戦を圧勝。3回戦目の1セット目は6:7で落としたものの、2セット目は3:1でリード。勢いとしてはこのまま勝利する流れだった。相手のブズコバとソリベストルモは打開策が見つからず焦りはじめていたところの事故発生。注意で終わった判定をどうにか覆すために抗議を行なっている。彼女たちは「レフェリーに何が起こったのか説明しただけ」「私たちは何も悪いことはしていない」と主張しているが、ぶつかるところを見ていない2人が説明したというのもおかしな話。ビデオ確認もせず、おおよそフェアーとは程遠い形で判定を覆し、しかもとんでもなく重い罰則を与えたということはどういう事情からだったのだろうか。ブズコバとソリベストルモがほくそ笑んでいたという報道もあるが、負け試合を勝ちにしたのだから笑いが込み上げてくるは防ぎようがないであろう。まちがいなく2人は「してやったり」と思っているに違いない。


 今回、あまりに極端でフェアーとは思えない判定に対し、加藤未唯は四大大会側に提訴。これも当然の流れと考える。落とし所は全仏のポイントと3回戦進出までの賞金を元に戻すといったところか。いずれにしろ、調子が良くこの試合の勝利も見えていて準々決勝進出が間違いなかった2人にこれ以上のチャンスが今後訪れるか否かが気になるところだ。

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