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「満月の夜には思い出して」を観て思い出した、私の大学時代の話。

私もにもね、大学生だった時代があるんですよ。1年半だけ。

ずっとその1年半を肯定したくて、無駄じゃなかったって思いたくて、だってあの頃の私はがむしゃらだったし不器用なりに走り続けてたし、夢の1つは諦めてしまったけど、小さい頃からの夢の1つにやっと正直になれた大切な時間だから、誰に何と言われても、あの1年半は無駄じゃなかったって、そう思いたくて、そんな私を、今日初めて、他人が肯定してくれた。そんな気持ちになりました。


池袋シネマ・ロサで2週間レイトショー上映していた、川北ゆめき監督作「満月の夜には思い出して」
劇場でのビラ配りの際に川北さんとは何度かお会いしていて、素敵なフライヤーとそのタイトルに心奪われ、前売り券を購入させて頂きました。
いつ観に行こうかと頃合いを見計らっていたら、あっという間に最終日。ひー。2週間てあっという間。


2週間どころか、大学4年間ってあっという間なのよ。いや私4年通ってなかったわ。
1年半。
2年生の夏休み、演劇がやりたくてやりたくてやりたくて我慢出来なくなって、研究室に押し掛けて「演劇やるんで大学辞めます」と言って、先生方にきょとんとされたあの日までの1年半。
私は大学生でした。


大学では建築を学んでいました。手に職つけたくて。
建築図面を描いて、建築模型を作って、やれ課題提出だ、やれプレゼンだ、とにかく忙しかった。夜まで教室に残って課題やって、泣きながら模型作って、満足いかない作品のまま学部全体の合同プレゼン会に出さなきゃいけないのが悔しくて腕噛んだりしてた。やばい大学生だな。
もしあのまま卒業まで建築学部にいたらって、今でもよくパラレルワールドを想像する。
そっちの世界はそっちの世界できっと楽しい。でも、こっちを選んだ私も間違いじゃない。


大学の4年間は、夢を見ていい最後の時間。
萌花のあの台詞は、まさに大学入学時の私が思っていたこと。
演劇をやっていい最後の時間。どうせ私は芝居を仕事にすることなんて出来ないんだから、趣味で演劇をやっていい、舞台に立っていい、最後の時間。そんな思いで、演劇サークルに所属していました。
この4年で私は演劇をやめる。夢を見る時間はこれが最後。高校受験も大学受験も、いつも芝居の道に進むことが頭に浮かんだけど、夢見てる場合じゃない。普通に生きなきゃ(今思えば普通って何だって話だけど)と思って生きてきた。その思いを、4年で成仏させようと。そう思ってサークルに入ったはずだった。


「でも、好きだから。」
演劇部の進藤さんが話すその言葉が、私の全てでした。
演劇サークルって言ったってほとんどが遊びで入ったような人たちで、サンシャインボーイズ?第三舞台?ケラリーノサンドロヴィッチって外国人?みたいな人たち。私ばっかり演劇が好きだった。そりゃあ衝突するし、上手くいかないに決まってる。温度差はどんどん開いて、もどかしさばかりが増えていって、だめだ、全力でやらなきゃこの気持ちは成仏できない、と思って、私はサークルを辞め大学を辞め、芝居の道に進みました。

私は演劇が大好きだった。その気持ちは今も変わらない。
でもね、たまに忘れそうになる時があるんです。萌花が、「何で演劇なんてやるんですか?」と進藤さんに聞いた時、あれ、私は何でだっけ、と思ってしまって。
お客様の為。芝居の持つ力に心打たれた、あの日の私の為。でもそれって自己満足?そんなのでいいの?私がお芝居する理由になるの?どんな理由だったら私は人前に立っていいんだろう、私“なんか”がって、ぐるぐるぐるぐる、わからなくなってしまって、進藤さんがまっすぐに、「好きだから」と言った時、心がいっぱいになって涙が溢れてしまいました。
なんでいつも忘れるんだろう。私は演劇が大好きで、芝居が大好きで、映像が大好きで、大好きだから私は今この世界にいて、それが全部で、それ以上でも以下でもなくて。好きが全てで。好きが抑えきれなくなったから、大学を飛び出して。

その気持ちでじゅうぶんだった。忘れてた。私はお芝居が大好きです。持ち物はそれだけです。



襟加のような人間を、私はこれからもきっと何度だって羨んで生きていくことになる。
でもそれでいい、不器用なら不器用なりに、でも好きな気持ちは誰にだって負けないつもりだから、お芝居を通して、舞台を通して、スクリーンを通して、どこかにいるあの日の私みたいな誰かと繋がれたら。

「満月の夜には思い出して」
満月の夜には、この作品を思い出してほしくて。繋がってほしくて。
最後の舞台挨拶で川北さんがそう仰っていたように、回り道だってするかもしれないけど、満月の夜には、たった1年半だけど今の私を作る大切な材料となったあの時間を、私がお芝居をする意味を、ちゃんと、思い出してみようと。思います。
今この作品に出会えてよかった。






部室棟の一番端にある、狭くて埃っぽいけど陽当たりだけは良いあの部室は、今でも茣蓙が引いてあるんでしょうか。大道具で作りかえたテーブルが置いてあるんでしょうか。私みたいに、空きコマ課題をしたり昼寝しに部室来てるような子がいるんでしょうか。休憩中稽古場を抜け出していつもの同期と喫煙所に行く、次の舞台はどんな公演にしたいかなんて語り合う、調布から新宿まで1人2つシズを持って運ぶ、あの時間は、今でもふと思い出す。
私の居場所が確かにあった、あの時間。





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