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クローズアップ現代「女性のひきこもり」再考:専業主婦と家事労働の否定

偏った報道が女性の生き方から多様性を奪っていく


つい最近まで「ひきこもり」状態になる人って、若年男性しか想定されていませんでした。年齢・性別関係なくひきこもってしまう人がいるという当たり前の事実が、世間一般に認知されていなかったんです。ここ数年でだいぶ理解が進み、女性もひきこもることがあると知られるようになりました。

2023年3月に発表された内閣府調査では、「ひきこもり」の約半数が女性という結果が出ています。


人口の半分が女性なんだから、そんなの当たり前だよね……


NHKではこの調査結果を受けて、「女性のひきこもり」をネタに大掛かりなコンテンツ展開をするつもりだったみたい。そこで私のような「元ひきこもり」の主婦とか、現在進行形でひきこもりの女性たちに、例のディレクターが取材攻勢をかけたというわけです。

私はすでに「ひきこもり状態」から脱していたけれど、自分の過去を「失われた20年」として振り返るに、やっと女性の孤立に光が当たるようになった……という感慨を抱かずにはいられなかった。そして、自分のように何十年も孤立と停滞のうちに過ごす人がこれ以上出ませんように、と祈る気持ちでいたのです。

だから、NHKから取材の依頼が来たときには惜しまず協力しようと思ったし、番組出演もかなり思い切って引き受けたんです。たぶん他の出演者も、同じような気持ちで取材に協力したんじゃないかな。

そうやって私たちが勇気を振るい、多大な時間と労力を無償で提供してできた番組が、ああいう有り様とはね……もう脱力するしかないですよ。
番組の作りが稚拙でテーマが絞り切れてないし、古くさい価値観と偏見に貫かれている。良質なドキュメンタリーとは言い難い。ましてや虚偽・捏造や歪曲が含まれているのだから、救いようがないです。

☝番組のダイジェスト映像Youtube版。クリックでリンク先の動画に飛びます。タイトルからして煽ってる、典型的な「感動ポルノ」。”広がる“ ではなく、もとからあったのが可視化されただけなのに。あと、苦しくてつらい人は、「助けてください」を言うならNHKではなく、行政機関や医療機関の方がまだましですよ。NHKだとネタにされて利用されるだけなので。

この番組、女性がひきこもるのは男性から押し付けられた役割のせいだ、と結論づけています。「役割」と言うのは、家事や育児などですね。ひきこもりの解決策として、支援団体の運営する居場所や女子会に行きましょうと提案。そこで心を癒して就労し、「社会復帰」してね、という流れでした。

私は取材時に、「掃除はルンバがやるんで、私はその残りをちょこっとやるくらい」とか言って、ドアの桟を綿棒で掃除したんですが、そのシーンがなぜか「役割を押し付けられて苦しむ女性たち…」というナレーションと共に、番組冒頭でいきなり出てくるんですよ。むしろそんな役割はとっとと家電に押し付けて、好きなことをしてるという話をしたはずなのに……。

登場人物は私含め3人出てきて、背景がみなバラバラです。DVや精神疾患、労働問題、女性差別といった問題を「ひきこもり」でひとくくりにしている。だから論点があいまいでわかりにくいんですよ。
無理やり「男社会が悪い」ってまとめてたけどね。ぜんぜんピンときませんでした。

捏造を抜きにしても、番組の構成があまりよくないと思う。30分もない番組でこういう重いテーマを扱うのに、3人も出演させてる。明らかに詰め込み過ぎで、消化不良を起こしてました。

同じく女性のひきこもりを扱った番組なら、私が ”声だけ出演“ したNHK仙台局の番組の方がずっといいです。「女性輝け」のプレッシャーに焦点を当てているところが、的確だと思いました。

クローズアップ現代は、どうしてこうなっちゃったんでしょうね。内閣府の調査を受けて、大々的に「女性のひきこもり」をテーマに展開していこうと、意気込んでいる様子だったのに。

なんていうか、最初の設定からズレてるんですよ。制作側の人たちは大きい組織のサラリーマンなせいか、ひきこもりは社会のはみ出し者だから会社に雇われて一人前!みたいな発想が抜けないんです。「ひきこもりのゴールは就労ではない」と言いながら、就労支援の業者を番組に出演させて、「まず自尊心を高めて、しかるのちに就労」みたいな道筋をつけてしまう。

でも、この番組に出てきた3人はみな主婦で、子育て中の方もおられますから、まるきり「無職」というわけじゃないんです。家事や育児が本業だし、無償労働に従事しているという意味では働いてる。育児はともかく家事なんて、まさに「労働」そのものですよね。

それなのに、こういった主婦のあり方そのものを、暗に否定するような作りになってるんです。DVや病気で苦しむ主婦に「経済的に自立しなきゃ」と言わせたりして……。それはちょっとで~きない~相談ね~と思いましたよ(「禁区」)。

そういう人が無理に賃労働してお金を稼ぐことはないんです。前夫からの慰謝料だろうが、公的な扶助だろうが、それで生活を成り立たせていることを恥じる必要はない。「自立」していないと言って罪悪感を抱く必要が、いったいどこにあるんでしょうか?

みんながみんな同じだけ稼いで、誰の助けも得ずに生きていくのがいいとは私は思わない。そんなの不自然ですからね。助け合い補い合っていくのが家庭だし、社会というものです。

それなのになぜNHKは、これらの主婦をことさらに自立していないように見せるのか? そして、自立していないのだから働かなければならない、と暗にプレッシャーをかけるような印象操作をするのでしょうか?

「働きたくても、その一歩は踏み出せていません」という、私の映像につけられた事実無根のナレーション。あれがすべてを物語っています。
某ディレクターはじめNHKの人たちは、組織に属して賃労働をする生き方しか認めないのです。そういった考え方こそが、「ひきこもり」「社会的孤立」を生み出す要因になっているというのに。

硬直した狭い価値観を押し付けられて、そこに適応できずに落ちこぼれた人が、ひきこもってしまうんじゃないのかな?

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女性の役割というよりもこういった労働観の方が、今の時代はプレッシャーになってると思う。実際のところ、「働いてないと白い目でみられる」という理由で、その必要がないのに外に働きに出る人もいるくらいだから。

賃労働しない人は人にあらず、みたいな風潮がありまして、主婦は受難の時代なんです。いろんな事情があって外で働けない/働かない主婦層を引きずり出して、無理やり賃労働させたところで、GDPにはたいして貢献できないと思いますが。

足掛け10年以上も「ひきこもり」の取材をしてきたことがウリのディレクターであれば、それくらいのことは分かるはずなんですが、そういった事情や背景を受け容れる余地はないようです。取材のときも、捏造発覚後の「経緯の説明」のときも、頑なな態度を崩しませんでした。

私のあり方や私たち夫婦の関係をありのままに見ようとせず、ステレオタイプな型にひたすら押し込めようとするんです。

自宅でおこなわれたロケでは、普段の生活を撮りたいというので、夫が肉じゃがを作りました。取材班のためにコーヒーを淹れ、リンゴを剝いたのも夫です。そういう光景もすべて撮影してたけど、本番では一切放送されなかったですね。

それどころか、番組では私たちの生活が現実とは180度異なるものに描かれていて、私だけでなく夫も腑に落ちない気持ちでいっぱいになりました。

夫については、「妻に対して理解のない、古臭い価値観をもつ頭のかたい男」みたいな印象操作がされていたんです。番組全体が「男社会の犠牲になってひきこもっている女たち」という論調なんで、それに合わせる必要があったんだろうけど、実態はまるきり違います。失礼しちゃうわ!

番組冒頭に出てきた私の家事シーンも、「過剰に女性の役割を担って…」みたいな紹介の仕方がされてたけど、あれも……

大嘘です。


うちでは夫婦とも、家事を女性の役目とは思っていない。むしろ私なんかは、家事は家電がするものだと思っているふしがある。できるだけ機械化・自動化して、残りを人間がやってます。
だから、家事負担の大きい順は、家電>妻>夫ですね。

そういう話は打ち合わせや取材撮影の時にさんざんしたはずなのに、向こうは何も聞いてないんでしょうね。


「NHKさんは台本がガチガチに決まってる」

って某Youtuberが言ってたけど


台本にないことはバッサリ切り捨てちゃうみたい。そうやって捨てた部分にこそ本質があり、ひきこもり解決へのヒントがあるのにね。

「女性のひきこもり」という新しいテーマを古めかしい論調で番組に仕立ててしまうくらいだから、担当者も上司も考え方が昭和の時代から抜け出していない。ちょっとやり取りしただけでも、それがよくわかりました。性別・年齢問わず、NHKの人たちは考え方が保守的というか、古臭い感じがします。

メディア関係の人間としては、それって致命的じゃないだろうか?時代の変化についていけないよね。「男社会が……」っていまだに言っているようでは。

男社会うんぬんっていうのは、表面的には男性を責めているようでいて、実のところ「家事なんかしてないで主婦も外で働け!」というように、女性(専業主婦)を責めてるのかな?という気もします。

いずれにせよ、男女間の分断、女性同士の分断を煽るような報道はよくないですね。誰も幸せにしない。政府の政策には沿ってるのかもしれないけど。


【追記】捏造発覚後、私が出演したコンテンツや関連記事の大半は削除されました。
そのあおりを食って、クローズアップ現代の前に出演した「東北ココから」の関連情報も、現在は見られなくなっています。代わりに、以下の記事で内容をご紹介していますので、ぜひご覧ください!


捏造事件のあらましはこちらをどうぞ☟


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