見出し画像

ファインチューンとプリセット CP+2020で見たいもの

写真が記録の役割から「表現」へと広がり、見ただけで誰の作品か分かる明確な表現から僅かな調整のこだわりまで、さまざまなレベルで表現という行為がおこなわれています。

私はUXの立場から、作品に現れた違いの大きさではなく、撮影者が「私の写真」と感じるためのプロセスとして表現を考えています。

むしろ、作品撮影だけが目的ではない一般のユーザーにとっては「小さな表現の変化で、自分のこだわりが達成できた」と感じることができる方が相応しいと言えます。

それを実現するのがファインチューン(微調整)です。これまでも画作りのパラメータを細かく設定できる機種は存在していますが、あくまでも画像が気に入らない場合の調整という位置づけで積極的に変更するUIではありませんでしたが、いくつかの機種で積極的に使うUIが採用され流れが少し変わってきました。

ペンタックスの十字キー右ボタンに割り付けられたカスタムイメージ機能。マニアック過ぎて難しい印象もあるが、三脚を使って撮影する人なら楽しめると思う。
ニコンのクリエイティブ・ピクチャー・コントロールで適用度で簡単調整。
10段階の適用度を積極的に使って自分らしい表現をする方法が紹介されている。
オリンパスのアートフィルターに搭載されたファインチューン。ベースの味付けではなく、最後の仕上げというところが他社と違うところ。


普通の人が「私の写真」と思う瞬間

個展の開催や写真集の出版、フォトコンへの応募に向けて撮影している人は、レンズ選択から、絞り値、シャッター速にいたるまで全てに表現の意識を持って撮影しており、当然撮影した写真は「私の写真」となります。

それに対して、カメラ屋さんで「シャッターを押すだけで自動で奇麗な写真が撮れるよ」と言われて購入した人が、「良いカメラを買ったから良い写真が撮れた」から「私が良い写真を撮った」になるためにどんな体験要素が必要なのかがUXデザイナーとしてずっと気になっています。

写真において「私の写真」、言い換えると<写真の自己帰属感>にこだわる理由は、その写真が褒められたときに自分が褒められたと感じることと深く結びついているからです。これを一度でも味わうと写真にどんどんハマっていき、沼に入っていくわけです。


操作と結果のバランス

めちゃくちゃ手間を掛けてそれが明確な表現につながれば、多くの人はカメラが撮った写真ではなく私の努力で撮った写真だと感じます。現在の自動車(ハンドルとアクセル、ブレーキを操作)はドライバーが自分で運転していると感じているの似ています。

ではこれから登場する自動運転車では「私の運転」と感じることはできるのでしょうか? カーナビに目的地を入力したら思えるのか、いつでも停止できるようにブレーキに足を置いていれば思えるのか、まだよく分かりません。

コントロールの粒度が粗すぎて、作画モードをONにするかOFFにするかだけを選択する場合や、少ない選択肢からしか選べない場合には、カーナビの目的地入力と同じように微妙な操作体験です。

逆に、粒度が細かく選択肢も沢山ある場合には、撮影者の意思が反映しやすく「私の写真」と感じやすくなりますが、選択するための操作に手間がかかってしまったり、現場でおこなうには難しくなってしまいます。そのため撮影者のこだわりを反映しつつ撮影現場で設定可能にするためUIを丁寧に構築しなければなりません。


ファインチューンとプリセット

撮影の時に落ち着いて複数の設定をおこなえるようになるためにはかなりの訓練が必要となるため、どのタイミングで操作をおこなうかは非常に重要です。

まず撮影中におこなうためのUIがあります。オリンパスのE-PL10のアートフィルターに新しく採用された「ファインチューン」というUIがそれにあたります。プリセットとして使うことを考えていない点が他のパラメータ調整と大きく違う点です。

画像1

画像2

OLYMPUS E-PL10のファインチューンのUI。仕上がりの調整を10段階で変化させられる。(画像はメーカーのホームページより、画像にリンク)


一方同じ微調整でも、他社のUIによくある画作りのパラメータを微調整は、撮影前に事前に設定(プリセット)しておくもので、自分の表現(トーン)を作品全体で統一したい場合に適しています。

ただし、この記事の上にリンクを置きました、ペンタックスとニコンの機種では、呼び出しが簡単であったり、適用度という理解しやすいパラメータを提供することで、撮影プロセスの中で使わせようとしています。


その他にInstagramのように撮影後にゆっくりと画像編集する方法があり、そのパラメータを撮影設定に戻すUIが考えられますが、今のところこの方式を採用しているカメラは無いみたいです。(スタジオで使うハイエンドカメラでは多分あると思います)


今年のCP+は、ファインチューン(微調整)UIに注目

今年のCP+が2/27~3/1に開催されます。スマホだけで写真を撮っている人にも写真の楽しさを伝えることがテーマみたいだけど、シャッターを押すだけで奇麗に撮れるというのでは(一眼)カメラを買う動機にはなれないと思います。

各メーカーは特別な撮影体験をするためのUIをデザインし、さらにブランドを選択する上でその体験を受け止めるコミュニティを提供していくことが求められます。

今年はオリンピックの影響でスペックの説明が前面に出てくることが予想されますが、その陰で展示方法を含めてどのような「表現」に対する体験設計をおこなってくるのか楽しみです。

毎年高級カメラでモデル撮影を楽しみに行く感じですが、今年はちゃんと各社の表現に対するメッセージを確認してみるつもりです。

・オリンパスのファインチューンの扱い方
・富士フイルムのフィルムシミュレーションのカスタムの扱い方
・ペンタックスのプリセットのコレクションの扱い方
・ニコンのZ50の思い出の扱い方(キヤノンKissとの違い)
・キヤノンのfotomoti(フォトレシピコミュニティ)の扱い方
・ソニーの瞬間撮影の扱い方(実は長時間撮影をしている)
・リコーの空間の切り取りの扱い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?