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ストイックなカメラが歓びを生む

私の noteはUXデザインを生み出す単位として「システムデザイン」をテーマにしており、その分かりやすい事例としデジカメや写真撮影の記事を書いています。

システムの最小単位は「装置とユーザー」です。最近のUXの特徴として他者との体験共有やコミュニティによる承認/称賛が組み合わされることが多いわけですが、本当に強いUXエピソードは自分自身の中にある内発的な困難の克服による学びと自己実現です。

ところが最近の装置はデジタル技術によって、自動化やアシストが進化し失敗しにくい誰でも使える製品が増えてきています。カメラも同様の進化がある一方で様々な制約を愉しみに変えるストイックなカメラが魅力的な存在になっているのです。

自動車で気軽に事故を起こすことはできませんし、毎度の食事を失敗していては生活に困窮します。ところが写真では失敗しながら試行錯誤ができるのです。これは不便さによってUXを最大化しようとする大変面白い試みではないでしょうか。


デジタル進化の到達点

Sony α1が象徴するようなデジタル化によるカメラの進化は、これまで撮影が難しかった被写体や状況を撮影しやすくしました。その一方で撮影者が撮っているのかカメラが撮っているのか分からないという考え方がでてきてしまいます。

フットワークを軽くする手振れ補正、明るさや色調を反映したファインダー、高度なAF、暗所撮影を可能にする高ISO感度など、撮影はより楽に確実になり、撮影領域が広がりました。

またあまりにも高性能な機能は、特定の被写体でしか真価を発揮できないなど日常撮影とのギャップも生み出しています。


Fujifilm X-Pro3

背面液晶を使って自由なアングルで撮影したり、撮影後に結果を確認して調整をしていくことを、被写体と対峙する純粋な撮影には邪魔になる行為として、背面液晶を格納式にしてしまったのがX-Pro3です。

それまでもカメラ性能の制約を肯定的に楽しんだり、ユーザー側のスタンスとして背面液晶を見ないなどの制約を楽しむ考え方はありましたが、メーカーがその制約をカメラのメインコンセプトにしてくるというのが非常に新しい試みだったと思います。


Leica M monochrom

カラーの撮像素子であってもモノクロモードに設定すればモノクローム写真を撮ることはできますが、全ての撮像素子をモノクロームのための光の強弱だけに使い圧倒的な情報量と意図的な処理を排除した純度の高いものに昇華させたカメラです。

特定の目的、表現に極端なまでに特化し、余計な選択肢を排除することで、光の表現や構図、シャッターチャンスといった写真の最重要な要素だけに意識を向けるという意図が感じられます。


PENTAX K-3 mark III

ファインダーに露出補正やホワイトバランス、カラーモードの状態がプレビューされず、連写時にブラックアウトがあったり、メカニカルな振動が画質に影響を与える懸念があることから、高性能なEVFの実現によって一気にミラーレス一眼への流れが起きています。

その中であえて生の光を直接視ることにこだわり、ニコン、キヤノンのミラーレス機シフトのタイミングで開発されました。このタイミングだからこそ今後特別な存在となっていく可能性がありそうです。


SIGMA fp L

さまざまな面で今風のカメラであるfpですが、ボディ内手振れ補正が無く、組み合わされることが多い小型の単焦点レンズにも搭載されていないことから、ジンバルや三脚を利用するか、カメラをしっかりと構えて撮影する必要があります。

システム全体ではハイテクシステムのためのコアユニットですが、通常の静止画カメラとして使う場合には、同時に登場した外付けファインダーを使って、ブレを心配しながら脇を締める昔ながらの撮影作法を守らなくてはなりません。


フィルムカメラ

フィルムカメラを使う目的は、フィルムの画質にあります。それは高画質や忠実性という面では劣りますが独特の味わいがあります。

なによりも撮影時に結果が確認できず、撮影枚数の制約やコストがかかりますが、その制約こそがフィルムカメラを使う醍醐味にもなっています。


インスタントカメラ

現在ではブロックチェーン技術を使ってデジタルデータであっても単一性を実現できますが、デジタルの最大の特徴は複製を作りやすいというものです。

一般的なフィルムでは転写というプロセスによって複製を作りやすくしていました。写真はもともとアートで言えば版画のような存在だった分けです。

それに対しインスタントカメラで撮影された写真は一点ものであることに特別な意味があります。例えばアイドルと共有した時間を唯一の写真として物理的なモノとすることができるのです。


世の中が求めている「何か」

紹介した全ての製品が長期的に受け入れられたり、普遍的なUX価値を提供できたりしている訳ではありませんが、この様な製品が今も提案され続けているということは、世の中が何かの答えを探し出そうとしていることは確かなようです。

UXデザインという言葉が広く浸透し、デザイン経営を目指す経営者から、ユーザー中心の開発を目指す企画者、デザイナー、エンジニアまで、UXが重要なキーワードになってきています。

UXは非常に複雑なシステムや時間幅の中で作られる複雑な現象です。カメラと言う事例を使ってこれからの人とモノとの新しい関係性を考えていくのも何かの役に立つのではないでしょうか。




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