「アフリカの夜」⑲みづほがアフリカに戻ったのは

ドラマ「アフリカの夜」。みづほの本名は亀田伸枝、指名手配犯だ。1999年に作られたこのドラマ、亀田伸枝のモデルは1997年に逮捕された福田和子だ。整形手術をして逃亡を繰り返すとか、警察に捕まる間一髪のところで逃げるだとか、15年逃亡して時効直前に逮捕とか。

自分が逃亡犯で、バレそうになって逃げたなら、絶対に元の場所には帰らない。だけど、みづほはアフリカに帰ってくる。帰ってしまうの分かるよなぁという仕掛けがいっぱい。

一番大きいのは⑬で書いた良吉の取れたボタン。

良吉の思いがプラスとしたら、逆のマイナスとして

みづほと兄のカットバック。
兄「時効ギリギリになって、お前が逮捕されるようなことがあれば、十五年前のように大騒ぎになって、俺も母ちゃんもここでは生きていけんようになってまんねや。そしたら、なあ?もう、母ちゃん持たんぞ」
兄が見る、病床の母。
みづほ「……」
兄「ほやで、何が何でも逃げてくれや。もし、逮捕されるようなことになったら、死ね」
みづほ「……!」
兄「死んでまえ!ええな(電話切る)」
みづほ「……」
話中音が空しく聞こえる。

大石静「アフリカの夜」第7話より

逃亡中、あわよくば、お母ちゃんに会えたらと淡い期待をして電話をしたのだろう。兄の死ね、という言葉と、アフリカの住民の自分を慕う言葉が対比される。

まずは有香への電話。

有香「このアパートだってさ、おかんが居ないと、灯消えたみたいに暗いもん……」
みづほ「……」
有香「帰って来てよ……」
みづほ「……」
有香「あ、おかんのお陰で決まったCM、あれ今日から放送なの。あの不退転の、水ようかん、死ぬほど食べた奴……」
みづほ「……」
有香「もしもし……」
みづほ「……」
有香「聞いてる……?」
みづほ「……」
受話器を置くみづほ。
みづほ「(涙を流している)……」

大石静「アフリカの夜」第6話より

と言っても、これは兄への前に電話している。

緑「もう、どうなってんの?お母さんいなくなって、商店街もアフリカも大騒ぎよ。二階の管理人さんなんて、探偵かデカみたい。お母さんの乗ってたタクシー会社までつきとめちゃって」
みづほ「みんな、アタシが誰だか知ってるの?」
緑「ヘッ……!?」
みづほ「アタシはだれ?」
緑「丸ちゃんのお母さん!」

大石静「アフリカの夜」第7話より

幼児のように「丸ちゃんのお母さん」という言い方が緑らしくてかわいい。みづほも、ダメだこりゃ、みたいな顔で受話器を置く。

みづほ「(息をのみ)……アンタ、アタシが誰だか知ってる?」
礼太郎「知ってるよ」
みづほ「……!」
礼太郎「丸山みづほ。丸山良吉の内縁の妻。警察が嫌い。他にももっと、大きな秘密がある、きっと。良吉さん以外に夫がいる。子どももいる。今は、戸籍がある方の家族にいる。でもさ、アフリカの方が、居心地良かっただろ?」
みづほ「(電話を切り)……」

大石静「アフリカの夜」第7話より

アフリカの方が、居心地良かっただろ?ってのが、グッとくる。嘘はつかない、でも、亀田伸枝って名前は出さない。誠実で優しい礼太郎。

みづほ「それで……あたしが誰だか知ってんの?」
八重子「ええ。あたしたちの大事な人でしょ?」
みづほ「……!!!」

○インサート
良吉、ボタンの取れたエプロンを見せ。
良吉「このボタン、つけといてくれな、後で」

○元の駐輪場
みづほ「……」
八重子「あたし、丸ちゃんのお母さんが、なぜだか分からないけど、もうここには戻らない覚悟で出て行っちゃったんじゃないかって思ってた。礼太郎さんは、探さないのも愛情のうちだって言うんだけど、アタシはイヤ。まるちゃんのお父さんはもちろん、緑ちゃんや有香さん、みんなお母さんがいないと、心細いのよ……」
みづほ「……」
八重子「メゾンアフリカは、丸ちゃんのお母さんがいないと、何て言うか……バランスが悪いの」

大石静「アフリカの夜」第7話より

実は、この時、みづほはメゾンアフリカの近くまで帰って来ていた。それでも、やっぱり帰れなくて、八重子に電話したのだろう。最後の一押しってとこだ。
みづほの気持ちが、だんだんアフリカに近づいて来る、この盛り上げ方がいい。

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