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半世紀前の布バック

「喪中葉書が届いてたよ。」
ポストを見に行った こざるちゃんが言います。

真っ青な青い空に紅葉が映える 風の冷たい午後です。

昔、りこちゃんがまだ若かった頃、隣に住んでいたご夫婦と親しくしていました。
その奥さんが今年、亡くなりました。

「今年の年賀状では入院して、闘病しているって書いてあったよね。」
「うん、そうだったね。」
「旅立ったんだ。」

そのご夫婦は、だいぶ前に、暖かいところに住みたいからと、南の温暖な地方へ引っ越していって、
その後は年賀状のやりとりのみでした。

「りこちゃんと知り合ったのは50年くらい前だから、今は年賀状だけとはいえ、こんなに長いこと続いていたんだね。」
「そうだね。」
「ずっと会っていなくても、年に一度、年賀状のやりとりだけ続くのもいいよね。」
皆、うんうん頷きます。

「あの手芸が得意な人だよね。」
「そうそう、布でトートバッグや巾着やエプロンをたくさん作ってくれた人だよ。」
「りこちゃんの部屋に たくさんあるよね。」
「綺麗な柄の布で、バックはちゃんと裏地も綺麗についていて、しっかりした造りだから、
今も充分に使えるよね。」

今は、あちこちで、いろいろな柄のトートバッグがたくさん売られていて、
しかも手頃な値段で買うことが出来ますが、昔はありませんでした。
作るにしても、布自体もそんなに安く手に入らなかったと思います。

「ぼく達が買い物に使っているあの布のトートバッグも、50年くらい経っているんだね。」
「そんなに古いものには見えないよ。」
「丈夫で、とっても使い勝手がいいんだ。」
「ぼく達が、バックを普段使っていて、きっと喜んでくれているよね。」
皆、うんうん頷きます。

ラジオから軽やかなリズムに乗ってメロディが聴こえてきます。

「北風から 靄は生まれて Whoo…漂うの
夜明けの前に 信号機が通りを染めるのを見ていた
ホテルの窓 降りておいでよと誘うような ロンサム・タウン」

松任谷由実の『私のロンサム・タウン』です。

「りこちゃんには、言わなくていいかな。」
「うん、そうだね。今は言わなくていいよ。」
「じゃあ りこちゃんに、おやつだよーって行ってくるね。」

こざるちゃんが一緒に歌いながら りこちゃんの部屋へ向かいます。

「少しすれば バンドもあわてて起きる頃
コーヒーすすり 少女たちは雨に打たれるコスモスのように手を振ってる
曇ったホームにも 冬近い ロンサム・タウン」

「りこちゃーん、そろそろ おやつだよ。今日は シフォンケーキだよ!
一緒に食べよう!」

こざるカフェは、今日も ゆっくりゆっくり
のんびり 穏やかに時間が流れていきます。

読んで下さって、どうもありがとうございます。
今年は喪中葉書がないと、少しほっとしていましたが、届きました。
よい毎日でありますように (^_^)

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