特例法制定当時の界隈(5)

おわりに

「はじめに」でも少し触れましたが、先日映画「I Am Here ~私たちは ともに生きている~」を見たのですね。「トランスジェンダリズム宣言」から見ると、著者のうち三橋順子氏と畑野とまと氏が出演していましたね。まあ、あと古い方は、虎井まさ衛氏と山本蘭氏。でもね、畑野とまと氏で始まり、中盤のおいしいところで三橋順子氏。そして後半、御病気の山本蘭氏を、監督自身が車椅子を押して....というような構成の映画でした。

ごめんなさい、不快でした。あれほどGIDの問題について貢献の大きかった山本蘭さんを、わざと「過去の人」のように描いているようにしか見えないのですよ。その代わりの「リーダー」として、畑野とまと!

いや、冗談じゃ、ありませんよ。いい機会です。「トランスジェンダリズム宣言」でも畑野とまと氏、寄稿していますからね。内容を見てみましょうか。お題は「セックスワークとトランスジェンダーの関係」です。

まあこの方ね、セックスワーカーやってみた、というのを得々とお書きに慣れていて、それが妙なウリになっている方です。もちろん、映画を見た方はお判りでしょうけども.....うん、特殊なご趣味の方でなければ、ご商売が成立しないのではないのでしょうか。まあ、書いている内容は軽いもので、

・MtFの場合、「女性に変わった」ことを実感できるとして、セックスワーカーになるケースがある。
・トランスの「性」について、あまり語らないのはおかしい

まあ、内容については、私が批判するよりも、別な方のほうがいいでしょう。私はあまりご縁のない世界でしたからね。考えてみれば、三橋順子氏も女装バーで働いたことがありますからねえ。確かにトランスと性、という問題はあまり語られません。「エリザベス」ですら、「セックス」を排除することで成立していた人工世界でしたし、GIDの問題についても、普通にパートナーを得て....というモノガミーの秩序に回収されるのをよしとする傾向があります。

しかしね、ただでさえ、「性」というのは、アブナいものなのです。シスでヘテロな男女でさえ、「性」で平気で身を亡ぼすのですよ。ましてや、道なき道を歩むマイノリティの場合、どんな危険が潜んでいることやら。これは安全運転を心がけましょう、という程度の話ではあるのですけどもね。

たとえば「女装沼」というものもあるのです。女装界というのも、実に「優しい」世界なのですよ。いくらヘンな見かけでも、みんなチヤホヤしてくれます。この「優しい世界」になじみすぎ、現実の「厳しい世界」がイヤになり.....で、女装界に入りびたり、ついには「厳しい世界」から絶縁して、ニューハーフに転身!そして、はっと気がつくと、失ったものの大きさに打ちのめされる....あるはずだった職業上のキャリア、若さ、ホルモンを使えば生殖能力...それらを「架空世界」に置き忘れてきてしまい後悔する人。

いや、本当にこういう手記は、いくらでもありますよ。女装がいけない、とは言いませんが、現実世界とのバランスを取れない方は、「沼」に堕ちるわけです。女性ホルモンだって「きれいになりたい」で乱用すれば、副作用だって出るでしょう。女性ホルモンの変動が「うつ」を招くような、精神的な影響が出ることもあります。

夜の世界に無縁なカタチで、コミュニティができたことを気に入らない方のお気持ちとご意見はわからないわけでもないのです。しかし、これがやはり、世の中に受け入れられる姿だったのでしょう。

昼の世界であるコミュニティは、特例法の当時、トランスジェンダリズム派による妨害はありましたが、特例法の成立に向けて動いたわけです。「特例法は当事者の分断だ!」というのが、そのスローガンだったわけですが、ベテランさんはいろいろ忸怩たるものがあったようですが、私のような新参にとっては、

他人にメリットがあって、自分にメリットがないから、積極的に反対するんだ...

とシラけた感情で、この反対を見ていました。いや、「トランスジェンダリズム宣言」を読んでも、ただただ「自分とは無関係な人々の説」という風にしか、感じない部分も大きかったのですよ。

そして今、「トランスジェンダリズム宣言」に登場した方々が、その成果をだいなしにしようとしている.....私は、そう見ています。

トランスジェンダリズムは、彼らにとって、特例法のリベンジマッチなのですよ。

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