191014 FC町田ゼルビア

福田正博「Jリーグ発足時は、東京都心にクラブは置かないっていうのがあったんですよ。何でかはわからないですけど」
堀江貴文「多分土地が高かったから。それから、当時は『地方の時代』というブームがあったんですよ」

テレビ東京系『FOOT×BRAIN』で、新設された「Jリーグアドバイザー」なるものに就任した堀江氏の他、夏野剛、梅澤高明各氏が、Jリーグの将来について構想を述べたのが2015年のこと。共通認識として、少子化で人口減少社会を迎え縮小する日本市場への危機感があり、日本代表の盛り上がりもあって「東京23区の真ん中の巨大スタジアムを本拠地とするクラブを作れ。アジアを中心とした国際リーグを創設し、日本のトップクラブを2-3送り込め」と、国際試合を常設の舞台とし、世界に冠たる日本の首都、東京を初めとする少数のクラブがリーグを引っ張るシステムを指向するようです。

日本唯一のプロリーグと言ってよかったプロ野球は、「一将功成りて万骨枯る」巨人だけが全国的人気を誇る球団として君臨し、他チームはそのおこぼれに与るか、親会社が巨額の赤字を広告宣伝費として処理する形が長年続き、1988年に南海や阪急か相次いで身売りするなど、継続性がないことは火を見るよりも明らかでした。それを反面教師に、企業だけでなく、自治体、地域住民が三位一体となって「おらが町のクラブ」を作り上げていくJリーグ百年構想。冒頭の疑問に対する答えは「Jリーグに巨人は要らない」であり、地域密着型クラブの方向性の正しさは、発足時の10クラブからJ3迄52クラブに拡大したサッカーばかりでなく、福岡や北海道、仙台といったプロスポーツ空白の地に進出し、人気を獲得したプロ野球でも見られたことです。

「東京にビッグクラブを作り、縮小する日本市場ではなく世界に進出する」こんな堀江氏たちが唱えるアイディアを実践しようとする経営者が彗星の如く現れました。2018年にJ2のFC町田ゼルビアの経営権を取得したサイバーエージェントの藤田晋社長は、10月11日に開かれたサポーターミーティングで、チーム名を「FC町田トウキョウ」に変更すること、2021年にJ1昇格、2024年にJ1優勝、2025年にACL(アジアチャンピオンズリーグ)優勝するプランを明かしました。

名称に「トウキョウ」を入れることは、昨年契約を交わした段階で既に決まっていたとのことで、初めから町田という街ではなく、東京を拠点に世界進出を目指す計画だったようです(事実、かつて胸スポンサーだった東京ヴェルディにも経営権取得を打診していたとのこと)。チーム名やエンブレムの変更は当時から噂されており、不安を持って見守るサポーターに対し「我々は5年後にACLで優勝する。町田ゼルビアの名を世界に轟かせよう!」と訴えかければ、核となるコアな層を鷲掴みにすることができたのに、「ゼルビアという名前は覚えづらい」「大漁旗なんて安いもんだからあげる」などと、天然で喧嘩をふっかけるのがこの人の限界なんだろうな。

我々が外国の都市名と言えばその国の首都しか思いつかないように、世界で名を知られた日本の都市が東京しかないことも確かです。浦安にあっても「東京ディズニーランド」のように。ACLを2度制した浦和サポーターから言わせてもらえば、Jリーグ発足前に「浦和」という名前を県外の人に認識してもらえることはありませんでした。「ディズニーランドがあるところですか?(だから浦安だって)」「茨城の方?(土浦でも霞ヶ浦でもありません)」「ああ、大宮の隣ですか(浦和人にとって最大の屈辱)」。何の注釈も要らず「浦和レッズの浦和です」で、今やアジアでも知られる存在になりました。昨シーズンACL優勝を果たした鹿島が「アントラーズは覚えづらい」などと泣き言を言うでしょうか。自前のブランドを売り込むのではなく、既に世界で定着しているブランドに乗っかろう、という志の低さでは、世界で戦えないよ。

「東京、というブランドがなければ資金集めや世界的プレイヤーの獲得もままならない」という思いもあるようですが、フェルナンド・トーレスを獲得したサガン鳥栖ってブランドだっけ? 欧州のトップリーグでも優勝を争えるのは2−3クラブに限られる中、実力が拮抗しているJリーグへの興味や、家族が安心して過ごせる治安の良さが世界のトッププレイヤーを引きつけていることも申し添えておきます。

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