四代目駅長


    その駅には駅長しかいない。降りる客はいない。
 かつては駅前に町があった。いまはだれも住んでいない。切符を売っていたよろず屋の看板の文字は読めなくなった。
 それでも、列車は停まる。日に一度だけ忘れられた駅に停まり、すぐさま走り去っていく。
 去っていく列車に向かって、四代目の駅長は敬礼をする。錆びついたタブレットを提げ、駅長はゆっくりと駅舎に戻る。そして、古くなったコートに身を包み、長い夜を眠る。獣の遠吠えが響くだけの夜を、まだ生きているかのように眠りつづける。


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