更地

    更地には一輪だけ花が咲く。
 名もない花はこの世に存在しないと言われるが、その花には本当に名がない。通称も学名もない。なぜなら、その花は観察者が名づけようとする意志を根こそぎ奪い取ってしまうからだ。
 一瞬の放心のあと、観察者は空を見る。ただ青いだけの空を見上げる。そして、自分がいま何をしようとしたのか、名づけようとした瞬間に忘却してしまうのだ。
 更地には花が咲く。一輪だけ、本当に名がない白い花が咲く。


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