つらつらと

    つらつらと来し方を振り返っても、鳥の一生に特筆すべきことはない。
 鳥は鳥として生まれ、鳥として生きた。餌をついばみ、ときには天空を舞った。
 鳥のすみかは人里離れた山奥だったから、だれにも目撃されることはなかった。漆黒の鳥だが、その風切り羽だけは息をのむほど白かった。
 だが、それが人の視野に入ることはなかった。だれの目にも触れない遠い空を、ゆるやかな弧を描いて鳥は飛んだ。鳥だけの空を、鳥として飛んだ。
 ただそれだけのことだ。特筆すべきことは何もない。鳥は鳥として生まれ、鳥として生きた。そして、死んだ。ただそれだけのことだった。

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