砂場

    砂場には老人が訪れる。齢を重ね、腰が充分に曲がらなければ、その砂場に入ることはできない。
 美しい藤棚で飾られた砂場は、棺のような矩形だ。風に揺れる藤の花をときおり見上げながら、老人たちは砂遊びをする。
 その手つきはぎこちない。まるで初めて砂場に入る子供のようだ。
 蜂が飛んでいる。かすかな羽音が響く。長い昼下がり、無言の砂場で浄土のような花が揺れる。
 まだ老人ではない遅れてきた者は、黙ったまま瞬きをし、鉄棒に歩み寄る。砂遊びの老人を見ながら、物憂げに懸垂をする。まだ地上にある体をゆっくりと引き上げる。

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